魔術武闘会
稽古と研究を続けて、魔術武闘会の日がやって来た。
会場は学園内の闘技場となる。出場者には、特別な魔術道具が配られる。その魔術道具は、魔術が命中する際に条件軌道して、結界を張るというもの。何度も魔術を受けて、この結界を壊されるか、戦闘不能判定を受けると敗退となる。出場者は、全部で三十二人。大体例年通りの参加人数だった。
セレーネとフェリシアは、選手控え室で、レイアーと一緒に待機していた。二人は特別クラスなため、最初に二人で戦う事になっていた。
「初戦で戦う同士なのに、同じ場所にいて大丈夫なの?」
「はい。お二人は、常に一緒に居ますので、特に支障はないと判断されました。それよりも申し訳ありません。まさか初戦に入れられる事になるとは。こちらも何度か頼んではみたのですが」
レイアーは、他の生徒と競い合う事が出来る良い機会であるのに、片方にその機会がなくなってしまう事を謝罪していた。
「ううん。こればかりは仕方ないよ」
「そうね。それに、ただ見るだけでも勉強になるかもしれないですから、先生を責める事はしません」
「そうおっしゃって頂けると助かります。お二人は、第一回戦での試合になります。ルールは覚えていらっしゃいますね?」
「うん」
「はい」
二人がそう返事をすると、レイアーは満足げに頷いた。
「では、そろそろお時間です。セレーネ様は、【空間接続】などを使わないように気を付けてください」
「うん。じゃあ、行ってくるね」
「はい。お二人とも頑張ってください」
レイアーに見送られて、セレーネとフェリシアは闘技場の中に入る。会場には、何百人と観客がいる。なので、ざわざわという不鮮明な音しか聞こえなかった。セレーネは、その中で、すぐにカノン、マリア、スピカの三人を見つけて手を振る。セレーネの動きを見て、フェリシアも三人を見つけて小さく手を振った。
それに気付いたカノン達も手を振り返す。
「お母様達は見当たらないね」
「伯爵位以上の貴族は、特別席で外からは見えないようになっているみたいよ。それより、本当に良いの? ここで全力を出して」
「うん。お父様の許可は出てるし、リーシアちゃんも魔力が三割を切ったら降参するって約束したら大丈夫って言ってたし。もう貴族の間で噂になっているのなら、隠し続けるのも厳しいだろうしね。お父様もそれで許可をしてくれたんだと思う」
フェリシアが確認したのは、セレーネが真祖と気付かれるような戦闘を、本当にするのかという事だった。
これに関して、セレーネは事前にラングリドとリーシアに相談していた。その結果、ラングリドからも許可が出ていた。シフォン達が亡くなったあの事件から、セレーネの種族に関する情報は、大きく出回っていた。それを大々的に言いふらす程馬鹿な貴族は現れていない。先の粛正があった結果、貴族達が大人しくなっていたからだ。
その中でラングリドが許可を出した理由は、いっそのこと大々的に見せつける事で、馬鹿な貴族などを炙り出そうと考えたからだ。これに関しては、王家とルージュ公爵家も協力する事になっている。他家を陥れる事しか考えられない貴族よりも、国を想う貴族を残そうという判断だ。
家に取り込もうという貴族が現れても、フェリシアという婚約者がいる以上、下手な手出しをする事が出来ない。この婚約はルージュ公爵家と王家が裏で認めているという事も大きい。それを盾に出されれば、他の貴族達も口出ししにくくなる。
「お父様的には、若干反対って感じが強かったけどね。それでも隠し続けないといけないってストレスからは解放されるかな。馬鹿の視線が強くなりそうだけど」
「そういう事は口にして言うものじゃないわよ」
「むぅ……」
そんな会話をしながら闘技場の所定の位置に着いていった。それを確認した審判が手を上げる。
「それでは、魔術武闘会第一試合セレーネ・クリムソン対フェリシア・ウルトラマリンの試合を始める。開始!!」
その合図と共に、セレーネとフェリシアは同時に【氷槍】を放った。フェリシアは、セレーネが放つであろう位置に【氷槍】を放ったため、互いに相殺となる。
この時点で、セレーネ達は身体強化をしながら、互いに走り出していた。それも距離を詰める方向に。
セレーネは【水刃】、フェリシアは【氷弾】をいくつも出して攻撃しつつ、氷の剣と氷の槍をそれぞれ掴んだ。セレーネは、足に魔力を集中させて、前傾姿勢になりながら一気に加速する。低い姿勢から突っ込んでくるセレーネに、フェリシアは【氷杭】を出して牽制する。
【氷杭】の速度は遅いので、セレーネはすぐに空中へと跳ぶ。そこにフェリシアが氷の槍を突き出した。セレーネは即座に剣で弾いて、フェリシアの背後に抜ける。
そして、背を向けた状態で、互いに【風槌】を放った。【風槌】同士がぶつかり合い、周囲に衝撃波が飛ぶ。セレーネ達は衝撃波に乗るように動いて、互いに距離を取る。
『うおおおおおおおおおおお!!』
セレーネ達の一連の攻防に、会場が大きく沸く。だが、セレーネ達はそんな声援など耳にも入らず、互いの事しか見えていなかった。
セレーネは、すぐに【這雷】を放つ。地を走る雷が、フェリシアに向かって行くが、フェリシアが即座に【土壁】を発動する。進路上に現れた土の壁によって、雷が通る距離を伸び、フェリシアの元へは辿り着かなかった。
そして、その土の壁を足場に、セレーネがフェリシアの真上に出て来た。そして、手に持った氷の剣を投げつけるのと同時に、光量全開の【光球】を破裂させて、フェリシアの目を潰す。同時に大量の【風刃】を出して攻撃する。
対して、フェリシアは冷静に自分の周囲に結界を張り、セレーネの【風刃】を防ぎつつ、セレーネの目の前で【風槌】を二つ放って自ら衝撃波を生ませる。衝撃波によって飛ばされたセレーネは、宙を高く舞う事になった。
「おぉ……高い」
セレーネは自分がかなりの高くまで打ち上げられた事に驚いていたが、フェリシアも予想以上に高く飛んでしまったので、少しだけ青い顔になっていた。
「セレーネ!」
「ああ、大丈夫大丈夫」
フェリシアの悲鳴にも近い声にそう答えながら、地面に【風槌】を放って上に向かってくる風で落下の勢いを殺す。セレーネが無事に着地したので、フェリシアも安堵した。
そんなフェリシアに対して、セレーネは複雑な魔術陣を四つ同時に描き始める。それを見たフェリシアは、【氷槍】を飛ばしながら、大きな魔術陣を描き始める。
セレーネは、動き回りながら【氷槍】を避けていく。これは、シローナとの稽古で身に着けたものだ。そうして互いに魔術陣を完成させる。
フェリシアの魔術は広域凍結魔術【氷海樹氷】を使う。観客席に続く壁まで凍り付くような魔術なので、周囲の気温が一気に低くなっていた。
地面に着いていれば、セレーネも氷漬けになっているはずだが、セレーネの大きさの氷はない。つまり、セレーネは空にいる。
それに気付いたフェリシアが空を見ると、セレーネが宙を舞っていた。そして、完成した四つの魔術陣から十三本の結界の剣が出て来る。それが四つ。つまり、五十二本の剣が、フェリシアに向かって飛んでいった。これでセレーネの魔力がリーシアとの約束の量になってしまうが、防がれなければ良いというセレーネの考えだ。
「さすがに無理よ……」
フェリシアの結界が破られたところで、セレーネが魔術を消し試合が終了する。
「そこまで! 勝者セレーネ・クリムソン!」
『うおおおおおおおおおおお!!』
会場全体が歓声で震える。それほどまでに見応えのある試合だったという事だった。セレーネは、フェリシアと手を繋いで、控え室へと戻っていった。




