シローナによる稽古
今回シローナは、王都に長く滞在する事にしたらしく、翌日もセレーネの屋敷へと遊びに来ていた。その中で、魔術武闘会の話になり、セレーネとフェリシアに稽古を付けてくれる事になった。
「でも、どこで稽古をするの? 学園の運動場は使えないよ?」
シローナは、学園の施設を使う事が難しい。セレーネ達に挨拶をするため学園に来た時は、リーシアの付き添いという事で学園に入ったが、本来は部外者だからだ。
「うん。だから、セレーネちゃんの魔術を使おうかなって」
「?」
セレーネは一瞬理解出来なかったが、シローナが【空間倉庫】の魔術陣を出したのを見て、唖然としていた。
「シローナ様……それって……」
「うん。セレーネちゃんの【空間倉庫】だよ。部屋割り無しのね。後、シローナちゃんで良いって言ったでしょ?」
「あ、はい。シローナちゃん」
「う~ん……フェリシアちゃんは硬いなぁ。もっと柔らかくなって良いよ」
シローナはそう言いながら、フェリシアの頬を揉む。シローナとしては、セレーネと結婚するフェリシアにもセレーネと同じように接して欲しいと思っていた。基本的に、仲良くしたいシローナは、硬い口調よりも普段の口調のフェリシアの方が好きだった。
シローナは、フェリシアの頬を揉みながら【空間倉庫】を発動して、三人で別空間に入る。しっかりと空間が作られているのを見て、セレーネは頬を膨らませる。
「むぅ……私、頑張って作ったのに……」
「セレーネちゃんが綺麗に作ってくれたから、真似しやすかったよ。さすが、セレーネちゃんだねぇ」
「ふふん! 凄いでしょ!」
シローナに頭を撫でられながら褒められたセレーネは、一気に機嫌が良くなり嬉しそうに胸を張った。
(セレーネって、甘えられる相手だと本当に単純な性格になるわよね……)
フェリシアは、少しだけ嫉妬しながら、そんな事を考えていた。フェリシアのその考えに気付いたのかセレーネはフェリシアの方に向かってきて抱きついた。
「頑張ろうね!」
「ええ、そうね」
フェリシアにも甘えてくるセレーネに、フェリシアは優しく頭を撫でた。
「お~、ラブラブだねぇ。それじゃあ、早速稽古と行こうか。二人とも得意の武器は?」
「剣」
「槍よ」
「ふむふむ。なるほどね。魔術武闘会は、近接も有りだけど、魔術で作った武器に限られるらしいから気を付けてね。基本的に魔術で戦う会みたいだから。はい。じゃあ、掛かってきて」
シローナは、二人から少し距離を取って後ろで手を組みながら立つ。どう見ても戦闘する姿勢には見えないが、魔術を使う戦いでは構えが重要とは限らない。セレーネは【氷剣】を使って剣を作り出す。フェリシアは、魔術結晶が付いた杖を握って氷の槍を作り出す。
「二人一緒にで良いの?」
「うん」
セレーネとフェリシアは、互いに見合ってから、一気にシローナに接近する。その過程で、フェリシアは【氷球】をセレーネは温度を上昇させた【火球】を飛ばした。【氷球】と【火球】がぶつかりあった瞬間、【氷球】が一気に気化して軽い衝撃と共に水蒸気が広がった。
目眩ましのつもりだったが、シローナは、即座に風を吹かせて水蒸気を飛ばす。姿が現れたセレーネとフェリシアは、互いに別々の方向からシローナに向かってきていた。
フェリシアが先に氷の槍を突き出す。シローナは、軽く横に移動するだけで避けた。そこにセレーネが飛び掛かり、氷の剣を振り下ろしつつ、シローナの前で【光球】を破裂させて目眩ましをする。
視界を奪われたシローナにセレーネの剣が命中するかと思われたが、シローナはセレーネの攻撃の角度などが分かっているかのように一歩ズレて避ける。そして、床に着いたセレーネの手を踏み、振り上げを封じてから、フェリシアが突き出して来た槍の穂先に指先を添えて、受け流した。
手を踏まれているセレーネは、下から【風槌】を放つ。それを予見していたように、シローナも【風槌】を使いつつセレーネの手から足を退ける。
「うわっ!?」
ぶつかり合った【風槌】から生まれる余波で、セレーネは大きく吹き飛ばされた。
そこにフェリシアが接近して、槍で乱れ突く。シローナは、最小限の動きで避けつつ後退していく。そして、フェリシアが突きから薙ぎに切り替えようとしたタイミングで接近し、近距離で【風槌】を使ってフェリシアを吹き飛ばした。
「きゃっ!?」
地面を転がった二人は、体勢を立て直して、二人同時に【氷槍】を放つ。シローナは、一歩動くだけで、その両方を避けた。そこで大きく手を鳴らす。
「はい! 一旦終わり!」
シローナにそう言われて、二人は動きを止める。
「まず、セレーネちゃん。魔術を使っての目眩ましとかは良いアイデアだけど、それなら攻撃が命中する直前じゃなくて、攻撃の予備動作の時点で目眩ましを使うべきだね。どこに攻撃が通るか知っていれば避けられるからね。後、魔術を使う時に分かり易いよ。こっちを見ないでも撃てるようにならないとね」
「は~い」
「フェリシアちゃんは、攻撃の正確性が高いから逆に避けやすいね。正確に急所に入れようとしているのは良いとは思うけど、その分読みやすいから気を付けて。後、突きから薙ぎに移る時に動きが分かり易かったから、そこも気を付けて。後は、二人とももっと細かく魔術が使えると、対人戦には良いかもね」
「はい」
「よし! じゃあ、次は私も沢山攻撃するね! どれだけ避けられるかなぁ」
シローナはそう言って、セレーネ達から一番離れた場所に放物線を描いて飛んでいった。
「えっ!? シローナちゃん! それどうやるの!?」
「え? ああ、ただ風を受けて飛んだだけだよ!」
シローナは大きな声でそう言うと、再び放物線を描いてセレーネ達の元に戻ってくる。
「身体に風を纏って、後ろで爆発させる事で飛ぶの。下手に使うと骨が折れたりするから、セレーネちゃん達は使っちゃ駄目だよ?」
「えぇ~……」
「風魔術を得意としている人は、大体使えると思うよ。さっきの風魔術を見る限りじゃ、セレーネちゃんはまだまだだね」
「むぅ……」
「今出来ないだけで、これから風魔術を勉強していけば出来るようになるかもしれないじゃない。諦めるのは早いと思うわよ」
「う~ん……確かに!」
「それじゃあ、改めて避ける練習ね」
シローナは、改めてセレーネ達から一番離れた場所に移動する。そして、背後にある壁一面に様々な魔術陣を展開していく。セレーネ達は、その数に呆然としてしまう。
「加減はするから! 頑張って!」
シローナはそう言うと、セレーネ達に向けて次々に魔術を放って行く。セレーネとフェリシアは、それぞれ別方向に逃げて、魔術を避けていく。魔術で壁を作る。魔術で相殺する。【空間接続】で移動して避ける。様々な方法で避けていく。
「あっ! セレーネちゃん! 【空間接続】禁止ね! 本番でも使えないから!」
「本番でこんな事してくる人いないと思う!!」
「そんなの分からないでしょ!? 世界はセレーネちゃんが思っているよりも広いよ!」
「嘘だぁ!!」
【空間接続】を封じられたセレーネは、シローナの攻撃を魔術で相殺していきながら近づいていく。だが、近づく毎に段々と弾幕の層が厚くなっていくのを感じて進み辛くなっていく。それはフェリシアも同じだった。
「もう! フェリシア! 時間稼いで!」
セレーネはフェリシアの元に走っていき、その背後に陣取る。フェリシアは何も言わずに自分達を覆う結界を何重にも張りつつ、魔術を相殺していく。
(一体何を……え?)
セレーネが何をしようとしているのか観察していたシローナは、セレーネの手元を見て驚いた。そこには魔術陣があった。それだけなら驚く事でもないが、セレーネはそれを弄っているように見えたのだ。
(このタイミングで魔術の開発? へぇ~……)
シローナは思わず楽しそうに笑った。そして、魔術の弾幕を一層濃くしていく。容赦はしないという意思表示だ。
「セレーネ、長くは保たないわよ!?」
「大丈夫! 出来たから!」
セレーネは、新しく作った魔術を発動する。すると、セレーネ達の周りに盾型の結界が十三枚現れて、シローナが放つ魔術に引き寄せられるように次々に防ぎ始めた。セレーネは、ユイが研究している魔術を即興で改造して使用したのだった。即興が故に、若干粗い部分があるが、それによってシローナに少し近づく事が出来ていた。
だが、結局シローナの魔術に押し戻されて終わる事になる。
「負けたぁ! もう一回!」
「ええ、次こそは」
「うん! 良いよ! 何度でも向かってきな!」
こうしてセレーネ達の稽古が続いていった。ボロボロになったセレーネとフェリシアを見て、迎えに来たリーシアにシローナは怒られる事になる。だが、それでもセレーネ達が強くなれるのは事実なので、この稽古は続けていく事になった。




