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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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ちょっとした改良

 翌日。学園に来たセレーネは、ユイとメイ、レイアーに【空間倉庫】を見せる。中に入ったユイとメイは、唖然としていたがレイアーは、棚や扉、壁、環境の確認をしていく。セレーネが研究をしている内容を全部知っているからこそ、驚きはなく確認を優先してしまうのだった。


「凄いわね……」

「はい。公爵家の倉庫よりも広いかもしれません。それに、それぞれの環境にあった保存が出来るというのは凄いです。こちらは、暖かい環境は無いのですか?」

「えっ? 必要なの?」

「保存環境として、高温の方が好ましい素材はあります。現在判明している中では極少数ですが」


 メイの説明に、セレーネは少し考え始める。今から部屋を一つ増やし、高温維持は出来ない事ではない。問題は、それによって増える消費魔力量だった。


「その素材って火山地帯の素材ですか?」


 マリアがメイに訊く。魔物素材をある程度知っているマリアからすると、少し気になる内容だった。


「はい。私が先輩から聞いた事ですが、火山地帯の素材は高温のまま維持しておいた方が、錬金術などで良い品質のものにしやすいそうです。管理が大変なので、通常保存で利用する事が多いみたいですが」

「なるほど……品質の差は大きいんですか?」

「そこまでではないそうですので、本当に高品質を維持したい場合を除いて、あまり気にしなくても良いそうです」


 マリアとメイの会話を聞いて、セレーネは深く悩み始める。品質を高く維持出来るというのは、研究者として魅力的な言葉だった為だ。


「後は、乾燥庫も素材と食材で分けると良いかもしれませんね。食材も乾燥庫に入れる方が好ましいものもありますので」

「むぅ……」


 メイの意見は、セレーネにとっても確かにと思わされる事だった。


「う~ん……分かった! 部屋を増やす!」

「魔力は大丈夫ですか?」

「うん。どうせ、最適化作業するから、今は度外視で整える。メイ、他に何か必要そうなものは?」

「え? えっと……高温の維持であれば、食材は考えないで大丈夫だと思われます。食材の保存は基本的に低温低湿が望ましいですので。湿度に関しては、通常を維持しておくと良いと思います。この中で栽培などをしないのであれば、そのくらいで大丈夫かと」

「じゃあ……部屋を二つ増やすだけだね。七つの部屋……うん。これくらいなら許容範囲内のはず」


 セレーネは、【空間倉庫】の出入口を操作して、全員を外に出す。そして、魔術陣を調整して再び発動した。調整の時間は、たったの一分だった。その一分で、本当に部屋が二つ追加され、食料乾燥庫と素材高温庫が出来上がった。


「このくらいの温度?」

「そうですね。温度的には丁度良いとは思います」

「でも、乾燥庫とは別の理由で長居したくない場所ね……肌が焼けるようだわ」


 フェリシアは、自分の肌を擦りながらそう言う。周囲から炙られているような感覚がしていたためだった。再生能力があるため、火傷などをしても治るが、それでも嫌な感覚である事には変わりなかった。


「うん。かなりの高温だからね。しばらくは使わないけど」

「なら、後でも良かったんじゃない?」


 ユイの言葉に、セレーネは首を横に振る。


「新しく作るよりも先に作っておいた方が良いの。結局最適化するわけだから、最適化した後に新しいものを入れると二度手間だからね。そして、実際、今二度手間中だからね!」

「なるほど」

「メイのおかげで、手間が省けるかも。ありがとうね」

「いえ、お力になれたようで良かったです」


 セレーネに感謝されたメイは嬉しそうに微笑む。その間に、強度チェックをしていたカノンとレイアーが戻って来た。


「お嬢様。それぞれの保存庫の棚の強度及び壁の強度は問題ありません」

「うん。結界の強度はこれを維持したまま最適化ね。先生は、何か気付いた?」

「いえ、特には。このまま進めていって良いかと」

「うん。じゃあ、最適化作業を進めるね。後は、ユイの課題だね。進んだ?」

「ある程度進めたけれど、自信がないわ」


 ユイは、本当に自信なさげな表情でそう言う。セレーネがここまでの事を成し遂げているのを見て、自分の考えが本当に正しかったのか分からなくなっていた。


「そうなんだ。見せて見せて」


 セレーネは、全く気にせずにそう言った。


「自信がないと言ったのだけど……」

「うん。自信がないって事は、ちゃんとやって来たって事でしょ? 早く早く!」


 セレーネは、ユイがどういう風な案を出したのか気になって仕方なかった。セレーネがわくわくしているので、【空間倉庫】から出た後、ユイはセレーネとフェリシアに案を見せる。

 セレーネとフェリシアは、二人でその案を見ていく。その間に、カノンはレイアーと話して屋内運動場の利用申請をする。


「ふ~ん……良し! 試そう! カノン!」

「既に用意してあります」

「ほら! ユイ、行くよ!」

「え、ええ」


 ユイは、セレーネの言葉に引っ張られるようにして追いかけていく。そんなユイの横にフェリシアが並ぶ。


「あの子にとって、失敗は成功への過程だから、もしこれが失敗に終わっても気にしないわ。だから、ユイが自信ないと言っても、それはちゃんと案を考えてきた証拠としか受け取っていないわ。失敗を恐れないで。それを積み重ねた先に成功はあるから」

「そう……ね。自信がないなんて当たり前よね。私はやった事がないのだから。それならあの子みたいに、何でもかんでも試してみるの精神でいた方が良いわね。ありがとう。フェリシア」


 ユイは、フェリシアの言葉で自分に自信がない事が当たり前で、それが失敗を恐れているからという事を理解した。そのおかげで、ユイは自分の自信のなさと向き合う心構えが出来たのだった。


「いえ」

「また口調が戻っているわ。フェリシアは、そこに慣れて欲しいわね」

「公爵家と伯爵家では、差が大きいのよ……」

「ここでは先輩なのだから、胸を張って欲しいわね。セレーネみたいに」

「あの子は基本的に誰でもああよ」

「そうだと思ったわ」


 フェリシアとユイは、互いに顔を見合わせて笑う。


「ちょっと! 二人とも! 早く早く!」


 セレーネがぴょんぴょんと跳びはねながらフェリシアとユイに声を掛ける。割と大きな声だったため、隣にいたカノンに叱られていた。


「楽しい婚約者を得たわね」

「いい婚約者でしょ?」


 二人は、急いでセレーネ達の後を追いかける。

 そして、屋内運動場でユイの考えた案の検証が行われた。大半は間違いだったが、そこに改良案を出していき、少しずつ魔術陣の要素のどの部分がどこまで影響しているのかが判明していった。ユイの課題も順調に進んでいる。

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