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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
先祖返りの真祖

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13/63

カノンの想いとセレーネの覚悟

「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」


 男が動かない事を確認したカノンは、すぐにセレーネの元に向かう。


「お嬢様!」


 セレーネの上に乗っている遺体を最大限の敬意を持ちつつ退かそうとして、自分の右肩に凄まじい痛みを覚える。


「痛ぅ……」


 先程までアドレナリンが出ていたため痛みに鈍感になっていたが、少し落ち着きを取り戻したことで痛覚も戻り始めていた。

 カノンは、歯を食いしばって痛みに耐え、セレーネの上から女性の遺体を退かす。


「お嬢様!」


 カノンは、左手でセレーネを起こす。セレーネは、ゆっくりと瞼を開く。


「カ……ノ……ン……ぶ……じ……?」

「はい。苦しい中、助けて下さりありがとうございます」


 男の右足首を斬った水。それは、死から復活したばかりのセレーネによるものだった。


「え……へ……へ……あっ……ぐ……うぅ……」

「お嬢様!?」


 セレーネが突然苦しみだし、封印の紋様が赤く光る。そして、セレーネの髪が銀色に変化していく。


「まさか……吸血衝動!? お嬢様! 早く私の血を吸ってください!」


 そう言うカノンに、セレーネは首を横に振った。


「カノン……血……出てる……吸ったら危ない……かも……」


 セレーネの言う通り、カノンは右肩からの出血が激しい。加えて、レッドグラスにて刺された際にも出血している。そこにセレーネによる吸血を加えれば、カノンの血が足りなくなる可能性が出て来る。つまり、自分は助かってカノンを死なせてしまうかもしれないとセレーネは考えてしまったのだ。

 それに対して、カノンは一瞬で答えを出す。


「では、私を眷属にしてください。眷属になれば、私が死ぬ事はありません。これで解決です」

「でも……」

「お嬢様。私はお嬢様に仕えるメイドです。仕えた期間は短くとも、お嬢様を敬愛する心は私の中に深く根付いています。早い話、お嬢様が好きなのです。お願いです。お嬢様に一生お仕えする機会をください。私にもお嬢様を支えさせてください」


 カノンがセレーネに仕えた期間は僅か数ヶ月。ここ最近の事でしかない。だが、その期間は、ずっとセレーネの傍に居続けた。短くも濃密な時間は、カノンにセレーネへの好意を抱かせるのに十分過ぎた。

 そして、カノンがセレーネを敬愛しているのと同時に、セレーネもカノンへの信頼を抱いている。そんなカノンからそう言われて、嬉しく思わない訳がなかった。

 同時に、そんなカノンをこんなところで死なせたくない。カノンに傍を離れて欲しくない。その気持ちが芽生えていく。そして、セレーネは覚悟を決める。


「分かった……」

「では、どう……いえ、待ってください」


 手を差し出そうとしたカノンは、自分の手が血塗れである事に気付く。ここまで自分の手で誘拐組織の人々を殺してきた。その返り血などが染みついている。カノンにとって、誘拐組織の人々は生きるに値しない存在。そんな奴等の血を一滴でも飲ませたくないという風に感じていた。

 そのため、カノンは服の胸元を緩めて、自分の首を出す。


「こちらからお飲みください」


 そう言われて本当に良いのか迷うセレーネだったが、吸血衝動が限界を迎える。カノンの身体に抱きついて、無防備に差し出されるカノンの首元に噛み付いた。カノンは、セレーネが落ちないように身体を支える。


「んっ……」


 セレーネの牙がカノンの中に埋まる。若干痛みを感じるカノン。だが、その痛みは、右肩の痛みよりも遙かに小さい。だが、すぐにそんな事すら気にならなくなる。いや、正確に言えば、何も考えられなくなった。

 その理由は、セレーネが噛み付いている首元から入ってくる力だ。力は全身に行き渡っていき、内側から身体を作り替えられているのが分かった。それは、治癒薬による治療よりも遙かに強い痛みを伴った。カノンは声を出さずに、歯を食いしばって耐える。セレーネにこれ以上の負い目を抱かせないためだ。

 吸血していた時間は三分程だったが、カノンにとっては一時間にも思える程だった。吸血して魔力を補給したセレーネは、そのまま眠りについた。

 同じくカノンも意識を失いそうになったが、自分の太腿を叩いて意識を戻す。


「……ふぅ。しっかりしろ、私」


 カノンは、まずセレーネの様子を確認する。セレーネは、静かに寝息を立てている。呼吸は正常でいつも通りのセレーネだと分かる。

 次に、自分の身体を確認する。右肩の傷は再生が始まっており、流血は収まっている。傷も傷跡もすぐに消えるだろう。

 その次は周囲の確認だ。牢屋の中で一人の男が死んでいる。通路では、四人の女性の遺体がある。一人はセレーネを庇うように身体で覆っていた女性だ。残り三人とその女性で違う部分がある。それは、右手首に黒い腕輪がない事だった。

 その腕輪は、血塗れで他の牢屋の中に落ちている。それを見て、改めて女性達の手に注目すると、肉が削げていた。女性達が無理矢理腕輪を外したという事が分かる。よくよく見てみれば、あちこちに魔術による攻撃の跡が残っていた。


「助けるために行動してくれていた……私がもっと早く来る事が出来ていれば……」


 セレーネの恩人かもしれない女性達に、カノンは深く頭を下げる。そんなカノンの耳に激しい爆発音などが聞こえてくる。その爆発音によって、地面が揺れている事も分かる。


「誰かが戦ってる。外に出たいけど、私も本調子じゃない。お嬢様を護りながら移動するのは厳しいかも……なら、今は出来る事をしよう」


 カノンは、セレーネを牢の椅子に寝かせて、女性達の遺体を移動させる。身体を鉤で滅多打ちにされている遺体は、とても痛々しいものだった。直接知り合っているわけでもないカノンも怒りが込み上げてくるのが分かった。だが、その怒りをぶつける存在は、既に死んでいる。

 いくら男達を生きる価値のない存在と思っていても、文字通りの意味で死体に鞭打つ行為をしようとは思えなかった。それは、その生きる価値のない存在と同じになるという事だったからだ。


「あなた方の無念の一部は晴らしました。そして、お嬢様をお守り頂きありがとうございます。どうか、安らかにお眠りください」


 きちんとした埋葬をしたいところだが、状況が状況なので今は出来ない。女性達に黙祷を捧げたカノンは、セレーネの元に戻る。


(ここからどうするか……っ!?)


 カノンがどう行動するべきか考えていると、屋敷の中に誰かが入ってきたのが分かった。その誰かは、真っ直ぐに地下へと入ってきた。

 カノンは、即座に武器の場所を把握する。


(武器の回収を優先すべきだった。素手で戦うのは危険……ん?)


 奇襲を仕掛けるべく準備しようとしたところで、カノンは、その人の匂いに覚えがある事に気付いた。


「ミーシャ様……?」

「カノンさんですね。おや……もしや、眷属に?」


 ミーシャはカノンの姿を見ずに、カノンが眷属になっている事に気付いた。ミーシャの声を確認したカノンは、牢から出て姿を見せる。


「はい。色々とありまして。上での戦闘はミーシャ様が?」

「いえ、リーシア様が暴れた結果です。厄介な獣人がいましたが、既に狩られました。リーシア様は、そのまま周囲の警戒とここの防御を固めています。ひとまず、こちらをお飲みください」


 ミーシャはそう言って、ポーチから赤い液体の入った瓶を取り出し、カノンに渡す。


「これは……血ですか?」

「はい。念のため、吸血衝動に駆られる前に補給してください」


 眷属のミーシャが言うので、そうするのが良いのだろうと考えたカノンは瓶の蓋を開けて一息に飲み干す。瓶から口を離したカノンの表情は、とんでもなく不味いものを食べたかのように歪んでいた。


「成り立て且つ獣人のカノンさんには、少々キツいかもしれませんが、そのうち気にならなくなります。身体の痛みは大丈夫ですか?」

「えっと……作り替えられた痛みですか?」

「やはりカノンさんは感じたようですね。これではっきりしました。人族以外の種族を眷属にした場合、他の種族の因子が抵抗して身体に痛みを覚えるようですね。ですが、間違いなくカノンさんは眷属になっています。そこはご安心ください」

「なるほど……分かりました。それじゃあ……お嬢様を……連れ……」


 カノンは、少しずつ意識を失っていき倒れた。それを予期していたミーシャは、しっかりと受け止める。


「お疲れ様でした。後は、私達にお任せを」


 そう呟いたミーシャは、カノンと一緒にセレーネも抱えて上の階に移動した。そこには、リーシアがいる。


「リーシア様」

「ミーシャ。お疲れ様です。二人は……取り敢えず、無事ですね?」

「はい。セレーネ様は、一度死を経験しているようですが、現在は落ち着いています」

「やはり、そうでしたか。この周囲にいた誘拐組織の面々は全て片付けました。カノンさんが大体片付けてくれていましたから楽でした」

「それは何よりです。これからどう動きますか?」

「そうですね……ミレーユさんが救出部隊を用意しているみたいですから、ここで待機しましょう。上の階にベッドらしきものもありますので、二人はそこに寝かせてあげて下さい。ああ、汚れていない方のベッドでお願いしますね」

「承知しました」


 ミーシャがセレーネ達を連れ行くのを見送りつつ、リーシアは屋敷内の掃除をするために動き始めた。

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