魔純鉄
錬成炭を錬成し終えたセレーネは、錬成炭をジッと観察していた。錬成炭の見た目は、普通の炭と区別が付かない。
「これって見分け付くの?」
「魔力の有無が一番の違いです。慣れれば見分けもすぐに付きますよ」
「ふ~ん……本当だ。魔力が宿ってる。こういうのが錬金術の材料にふさわしいんだよね?」
「はい。最初から魔力が宿っている状態のものを使えば、生成物の魔力の宿りが良いのです。魔術薬を作るための素材や魔術道具に利用出来るものが多いですね。後は、当然ですが、より上位の錬金術にも使います。早速、その錬金術をしましょう」
「合金だっけ?」
「はい。こちらの金属同士を合金にして頂きます」
そう言って、ミーシャが二種類のインゴットをセレーネ達の前に置く。片方は見ただけで鉄だと分かる。だが、もう片方は、紫色の見覚えのないインゴットだった。
「これって何?」
「魔力金属と呼ばれるものです。種類で言えば、魔鉄というものですね」
「これが魔鉄? 確か、魔力が宿った鉄鉱石を製錬したら出来るんだっけ?」
「はい。よく勉強されていますね。魔鉄は、魔力を宿していますが、靱性に乏しく脆い金属です。なので、鉄と混ぜる事で強い金属にするのです。この合金は魔純鉄と呼ばれます。今回、セレーネ様とフェリシア様が錬成してくださった分の他にも素材は用意していますので、失敗は恐れずに挑戦して下さい」
「は~い」
「はい」
セレーネ達は黒板にある作り方に従って、錬成炭、鉄、魔鉄を入れてから、基礎魔力水を注いで火に掛ける。そこから逐一ミーシャに速度の指示を受けてかき混ぜていった。そうして出来上がったのは、真っ黒な炭のようなものだった。
「失敗です」
「えぇ~!? 何で!?」
「かき混ぜる速度が乱れていた事に加えて、火を落とすのも少し遅れていましたね。ですが、大分コツを掴んだと思いますので、次は成功するかもしれません」
「よし! 頑張る!」
セレーネとフェリシアは、三度挑戦してようやく魔純鉄を錬成する事が出来た。魔純鉄は、鉄に紫色のマーブル模様が入ったものだった。
ミーシャは、その魔純鉄を手に持ってジッと見る。ようやく完成した事に喜んでいたセレーネ達だったが、その様子を見て顔色が曇る。魔術薬の授業の時にリーシアから失敗と何度も言われた事を覚えているからだった。
「及第点というところですね。もう少し品質を上げたいので、かき混ぜの速度を一定に保ちましょう」
「及第点って事は、悪くはないって事だよね?」
「はい。品質の上昇には、より品質の良い素材を使うか、錬成の際にかき混ぜ速度と温度管理をしっかりとする事が重要になってきます。素材に関しては、上質のものを用意していますので、後はお二人の腕次第ですね」
「つまり、丁寧に作業出来るかどうかが錬金術の腕前に直結するという事ですか?」
フェリシアの確認にミーシャは頷いてから答える。
「フェリシア様の言うとおりです。錬金術師に限った話ではないですが、丁寧に作業する事がより良いものに繋がるのです。リーシア様のように何百年も携わって、経験を積まなければ、あの領域には辿り着けないと思って下さい」
「なるほど……そうだよね。私の研究も丁寧にやらないと進まないし。でも、これ一人でやらないといけないの?」
かき混ぜつつ火力の調整をしないといけないので、複数人でやった方が良いのではとセレーネは考えていた。
「確かに、複数人で行う事もありますが、誰がいなければ出来ないという事にならないためにも、一人で出来るようになっておいた方が良いです。これから先、人を雇う立場になれるかどうかも分かりませんので」
これから先の未来で、セレーネ達が錬金術の研究をするようになるかもしれない。そう考えれば、誰かいなければ錬金術が出来ない状態よりも一人である程度は出来るようになっている状態の方が良いに決まっている。
ミーシャは、そこも考えてカノンやマリアに手を出させていない。
「そっか……確かに、一人で出来た方が良くはあるよね。ということは、もっと便利な釜を開発すれば良い!」
「セレーネは、いつも発想が斜め上よね」
「そう? でも、それが一番だと思う」
「そうですね。そして、セレーネ様と同じ発想をする人はいました。なので、火力調整をしやすくしている錬金釜もあります。学園の錬金釜はそうではないようですが」
「えっ……何で?」
「高いので」
「ああ……」
ミーシャの身も蓋もない答えに、セレーネは納得してしまった。学園がケチとは思わない。こういう時に高価と言われるものは、本当に高価である可能性が高いからだ。そんなものを学生の授業で使うのは、色々と心配が勝るだろう。研究室に置いてあっても、こういう場所にはないという事に納得出来る理由は大きかった。
セレーネもここで我が儘を言う程子供ではないので、大人しく旧式の錬金釜で魔純鉄の錬成をしていく。
時間いっぱいに錬成を続けて、段々とコツを掴んでいったセレーネとフェリシアは、ミーシャが満足する品質の魔純鉄を次々に錬成していった。
「はい。お二人とも素晴らしいです。これだけあれば、次の授業の教材も多く仕入れられますね」
「えっ!? この授業の教材って、私達が作ったもので賄っていくの!?」
衝撃の事実にセレーネが驚いていると、ミーシャが微笑む。
「冗談です。学園側に買い取って貰った分は、お二人に送りますので、ご安心下さい」
「学園が買い取ってくれるのですか?」
「はい。その契約は取り付けました。生産系列の研究室等に売る予定です。一部持ち帰りたいものがあればどうぞ」
ミーシャの用意周到さに、セレーネ達は驚く。ここで素材を作っても、セレーネ達が利用するとは限らない。なので、ミーシャがこうして売り先を見つけてくれているのは、セレーネ達にとっても有り難い事だった。
「じゃあ、一個貰っておく」
「なら、私も貰います」
「はい。どうぞ」
セレーネ達は記念に魔純鉄を一個ずつ貰う事にした。それでも十分過ぎる量があるので、ある程度のお金にはなるだろう。授業をやりつつ、セレーネ達に研究費用を貯めさせるというのが、ミーシャの目論見だった。
学園としては、教材が増える分には一向に構わないとしていた。その分お金を出さないといけないが、品質によって値段を変えて良いという条件を出しているので、ある程度は買い叩けるという事も考えている。学生が作るものが、そこまでの品質を維持出来るとは考えていないからだ。
そして、その考え自体が甘かったという事を、学園と研究室は思い知る事になる。




