失敗は成功のもと
「また失敗ですね」
「え~!! 何で!?」
「分量のミスです。基礎魔力水が多く、他が少なかったですね。効力が四割まで落ちてます。フェリシアの方は、逆に基礎魔力水が少なく、他が丁度良かったです。ですが、魔力を通す時間が少し長かったですね。そのせいで、余計な魔力を蓄えてしまいました」
「難しい……」
「むぅ……!」
リーシアは、そこまでの操作と出来上がった治癒薬を見て評価する。これを既に十回繰り返している。毎回失敗の要因は違うが、ほんの少しのズレが、失敗に繋がっているのである。
「二人とも筋は悪くないです。微調整を上手く出来るようになれば、魔術薬を作れるようになりますよ」
リーシアは、二人を良く評価していた。リーシアが評価している点は、調合の操作だけでなく、調合に挑む姿勢だった。十回失敗していても、セレーネのように嘆くことはあっても、投げ槍になる事はなく、調合するときには集中して慎重に操作している。
セレーネ達の年齢であれば、ここまで失敗すれば投げ出す子も少なくない。その様子が見えない事が、リーシアにとっては嬉しい事だった。
「出来た!」
「失敗ですね」
「えぇ~!?」
「魔力が少ないです。液体が変化したのと同時魔力の供給を止めてしまっては、変化が完了していないので、失敗ですね」
セレーネは頬を膨らませて、次の準備を進める。その間に、フェリシアも完成したものをリーシアに見せる。
「出来ました」
「ヒル草が少ないですね。失敗です」
「あぁ……正確に出来たと思ったのに……」
フェリシアも肩を落とす。自身が正確に計量出来たと思っていたので、余計にショックを受けているのだ。
「惜しいですね。マリアは、基礎魔力水が少ないですよ」
リーシアは、一つ離れた机で調合しているマリアに顔を向けてそう言った。マリアは驚いたように目を開く。
「通ってた時は、これで合格を貰えたんですけどね……」
マリアは、ようやく学園に通っていた時と同じ品質のものが作れたと思って、少しだけ安堵していたので、リーシアから却下されたので、自分が作った治癒薬をジッと見ながらそう言った。
それに対して、リーシアは微笑みを向ける。
「求められている基準が違いますから」
「基準が高すぎる……」
マリアはそう言いながら、自分に渡されている材料で、次の治癒薬を作り始める。
その様子を見ながら、リーシアはセレーネ達が作った治癒薬をそれぞれの箱に入れていく。
(段々と良くなっていますね。誤差も小さくなっている証拠。それに誰一人諦めないのは良いですね。この調子なら、この時間で完成させられるでしょう)
それぞれの成長を感じながら、時間が経過していく。その間、カノンとミーシャが、素材の下処理などを済ませて、セレーネ達に供給していった。それによって、調合に集中する事が出来たセレーネ達は、ようやく九割の効能を持つ治癒薬を完成させる事が出来た。失敗の回数が百を超えて、やっと出来たという事もあり、セレーネ達は脱力していた。
「はい。お疲れ様でした。これが魔術薬の調合です。実際にやってみてどうでしたか?」
「難しい。研究者が少ない理由がよく分かったかも」
「リーシア様がどれだけ努力したかも分かりました」
「まぁ、百年以上はしていますからね。因みに、セレーネ達が作りました治癒薬は、普通に市販出来るレベルではあります」
「「えっ!?」」
セレーネとフェリシアは驚いた目を大きく開いていた。マリアの方は、大体予想していた事だったので、全く驚いていなかった。
「マリアは知ってたの!?」
「大体予想は出来たかな。リーシア様が設けた基準が異常に高かったし」
「そうなの!?」
セレーネは、リーシアに確認する。すると、リーシアは頷いて答える。
「はい。この国の基準よりも遙かに高いですね。私が研究して見つけた基準というところでしょうか。確かに擦り傷や切り傷などを治療するのなら、このくらいで十分です。ですが、カノンが治したような刺し傷になれば、この治癒薬では、治るかどうか怪しいです」
そう言われて、カノンは無意識に自分の腰を触る。そこはカノンが刺された箇所であり、治癒薬で治療した箇所だ。あの時の治療の痛みは、朧気だがカノンも思い出せる。
「その水準の治癒薬を作れるのは、本当に研究をしている者のみでしょう。そのため、割と高額になります。一応、手が出ないという訳ではありませんが。私としては、この水準が当たり前になって欲しいと思っています。そうすれば、治癒薬の値段が下がり、怪我などで亡くなる方を減らせるからです。
そのための研究を続けていますが、結局のところ、これが一番楽且つ効能の高い調合の仕方なのです。もっと魔術を用いた調合法も探していますが、最後に効能を引き上げる事くらいしか出来ませんね」
「えっ!? 効能は引き上げられるの!?」
「はい。ですが、その方が遙かに難しいので、普通に調合した方が良いですね」
「あっ、そうなんだ」
既に解決法があると思ったセレーネだったが、この調合よりも遙かに難しいとなると、リーシアの言う通り、普通に調合した方がマシだなと考えを改めた。
「こちらの失敗した治癒薬に関しては、私が効能を引き上げて、屋敷に送っておきます。緊急時に使うようにしてください」
「は~い」
「はい」
今回調合したものに関しては、セレーネ達で持って帰っても良い事になっている。危険物ではなく、自分の命を救うものになる事に加えて、廃棄するのも勿体ないからだ。
「それにしても、二人とも本当に筋が良いですね。ここまで教え甲斐がある子は久しぶりです。シローナは、魔術薬の才能はありませんでしたから。あの子は微妙にがさつな部分がありますので」
「ふ~ん……シローナちゃんって帰って来ないの?」
「しばらくは帰って来ないですね。お話したいですか?」
「うん。リーシアちゃんとかミーシャちゃんは遊んだ事あるけど、シローナちゃんは全然遊んだ事ないから」
始業の際に会ってはいるが、そのままどこかに行っているので、セレーネはシローナとちゃんと話をする事は出来ていなかった。なので、シローナともちゃんと仲良くなりたいなと考えていた。
「では、次に帰ってきた時は、部屋に閉じ込めておきます」
セレーネは、シローナのあの自由っぷりを見ているので、リーシアが比喩抜きで閉じ込めそうだなと思っていた。そして、それはフェリシアも同じだった。
「では、今日の授業はこれくらいにしましょう。次の魔術薬の授業ですが、カノンさんと相談して、一日授業として使えるようにして貰いましたので、もっと難易度の高い魔術薬に挑戦しましょう」
「は~い」
「はい」
「マリアの分の素材も用意しておきますので、マリアもやって下さいね?」
「えっ!? あ、はい!」
また授業に参加する事が決まったマリア。内心、授業料とかはどうすれば良いのだと悩みを抱えていたが、リーシアは特に気にせず、教師役を楽しんでいた。




