治癒薬作り
リーシアは、黒板の板書を消して、治癒薬の作り方を書いていく。
「治癒薬の材料は、基礎魔力水とヒル草、キュア草、ステライズ草という三種類の薬草です。それぞれの効能はご存知ですか?」
「ヒル草は、自然回復力の向上で傷を塞ぐ効能。キュア草は、傷とかから発生する病気を防ぐ効能。ステライズ草は、傷口周りとかを消毒する効能」
「正解です。よく勉強していますね」
「ふふん!」
全て正解したセレーネは胸を張る。そんなセレーネを、ミーシャが撫でるので、セレーネは上機嫌になった。
「薬草単体でも、ある程度の効果は期待出来ます。ですが、魔術薬にすれば、全ての効能が発揮されつつ、更に効能が上昇します。
この調合で難しい部分は、全ての操作です。下処理から調合まで、全ての難易度が高いです。そして、魔術薬学において、一番簡単な調合がこの治癒薬になります」
「さっき成功率一割って言ってなかった?」
セレーネは、最初に言っていた言葉を思い出してそう訊いた。それに対して、リーシアは頷いてから答える。
「その通りです。ですから、魔術薬の調合は難しいと言われており、研究する人も少なく、魔術薬剤師も少ないのです。その結果が、魔術薬の値段高騰ですね。その状態で安定しているところからも分かりますね」
セレーネとフェリシアは、少しずつ緊張し始めた。そんな調合をしないといけないという事に。セレーネは、カノンとマリアの方を見る。
「二人は、調合出来たの?」
「はい。治癒薬なら何度か成功しました。最低限の効能でしたので、そこまで良いものではありませんが」
「私は無理でしたね。最低限の効能まで持っていくのも厳しくて」
カノンは成功させているが、マリアは無理だったと答える。二人の優秀さはセレーネも理解している。そんな二人でも厳しいものという事で、本当に自分に出来るか不安になっていた。
「さぁ! 緊張していても良い事はありませんよ。材料はシローナが無駄に多く採ってきてくれましたので、どんどん失敗して、経験を積んでいきましょう。まずは手本を見せますね」
リーシアはそう言って、テキパキと動いていく。ヒル草の卵形の葉を茎から毟り、葉の中央にある主脈を取り除いていてから乳鉢で擂る。剣状葉のキュア草は、縦に細かく裂いてから擂る。鋸刃のような葉をしているステライズ草は、そのまま擂っていく。
それぞれ別の乳鉢で擦ったものに蒸留水を混ぜていく。
「セレーネ達は魔力注入板を利用して、魔力を通してください」
そう言いながら、リーシアは全ての乳鉢の混合物に魔力を通していく。そうして、一定の魔力を通すと、液体が光り始める。それらを濾過して不純物を取り除き、それぞれ三角フラスコに移した。
最後に基礎魔力水と三種の液体を合わせる。
「割合は、基礎魔力水が五、ヒル草が三、キュア草、ステライズ草がそれぞれ一です。この割合が少しでも崩れれば効能が落ちます。許されるのは、一以下のズレと思ってください」
「それ以外は使えないの?」
「いえ、効能は落ちますが、普通に使えます。ですが、最大限の効能があれば深い刺し傷などでも即座に治す事が出来ますので、基本的には最大限の効能を得られるように作ります。ですが、最初から完璧である必要はありません。先程も言った通り、経験を積んで感覚を掴みましょう。では、ヒル草の下処理からやっていきましょう」
リーシアは、ヒル草を持ってきて二人の前に置く。
「ヒル草は、中央の主脈を取り除く事で効能が良くなります。慎重に裂けば、綺麗に取れますので、焦らずにやってください」
そう言われて、セレーネとフェリシアはゆっくり慎重にヒル草の下処理を始める。リーシアの言う通り、ゆっくりと慎重に裂けば綺麗に取り除く事が出来ていた。その中で、マリアはカノンに近づいて、小さく声を掛ける。
「あんな事習いましたっけ?」
マリアの疑問は、主脈を取り除く処理の事だった。マリアが学園で習った事の中に、この事はなかったのである。そして、それはカノンも同じだった。
「確か、リーシア様の出されている本の中にはあったはずです。他の魔術薬の本では見ませんでしたので、他の研究者の方々は有意差を見出せなかったのかと」
「それくらい小さい差という事ですか?」
「それかしっかりとしたデータを取れる程綺麗に主脈を取り除けなかったのかもしれません。どちらにせよ、長年研究をされているリーシア様がおっしゃっている事ですから、間違いはないかと」
「私もリーシア様に教えてもらいたかったなぁ……」
マリアの本当に小さなぼやきを聞いたリーシアは、マリアの方を見て手招きする。呼ばれている事に気付いたマリアが近づいていくと、リーシアはマリアの背を押してテーブルに着かせる。
「では、マリアもやりましょうね」
「えっ!?」
ミーシャが即座に器具などを配置していった。ここの材料は、全てリーシア持ちなので、マリアが参加していても問題はなかった。
こうして、生徒が一人増えて治癒薬の調合を進めていく。
「キュア草は擂り潰しやすいように縦に裂きます。なるべく細かく裂いていくと良いですよ。ステライズ草は何もせず大丈夫です。乳鉢の大きさによっては千切っておくのも良いかもしれませんね」
ヒル草の主脈取りを終えたところで、今度はキュア草を裂いていく。こっちはただ裂くだけなので、手早くする事が出来た。ステライズ草は、特に何もしない。これだけは、そのまま使っても効能が変わらないからだ。
「それでは、次に三つの乳鉢にそれぞれの薬草を決められた量で擂り潰してください。適度に擂り潰した後は、蒸留水を加えつつ擂り潰して混ぜます。そこまでやりましょう。加える水の量に気を付けて下さいね」
セレーネとフェリシアは、薬草を擂り潰した後に、黒板に書かれた量の水を加えながら混ぜていく。
「二人とも最初の難関は突破出来そうですね」
「これが難しいの?」
セレーネは思ったよりも簡単な操作だったので、本当にこれが難関なのかと感じていた。
「決められた分量を守るという事が意外と難しいものなのです。許される誤差も小さいですから」
「ふ~ん……次も分量を守って、魔力を通すんだよね?」
「はい。ここ最大の難関です。気を引き締めてやりましょう」
「は~い」
「はい」
そうして始まったセレーネとフェリシアの治癒薬作りは、失敗の連続を迎える事になる。




