もう一人の眷属
新学期。セレーネとフェリシアは、いつもと同じ教室に来ていた。
「結局、教室も変わらないんだね」
「そうね。このクラスに来る生徒が出て来るかと思ったけれど、それもないのね」
「お二人は、他の生徒との間に大きな壁がありますので。そもそも三年分の勉強を終わらせている生徒はいませんし……」
レイアーは、少し遠い目をしながらそう言う。まさか、本当に三年分の一年で終わらせるとは思っていなかったからだ。それも半年で考えを改めさせられたが。
「さて、これからの二年間も同じようにカノンさんが授業をしていきますが、魔術薬の授業と錬金術の授業及び魔術道具の授業を別の方に担当して頂く事になりました」
「ああ、お父様が紹介したって先生?」
「はい。では、中に入ってもらいましょう」
レイアーが扉を開いて、担当する先生が入ってくる。入ってきたのは三人。その内、二人はセレーネがよく知る人物だった。
「リーシアちゃん! ミーシャちゃん!」
セレーネは即座に椅子から立ち上がって、リーシアに飛びつく。リーシアは優しく受け止めて、頭を撫でる。
「少し街から離れていましたが、寂しかったですか?」
「うん!」
セレーネはリーシアの胸に顔を擦り付けた後、ミーシャにも抱きついた。甘えてくるセレーネの頭をミーシャが撫でる。
「後は誰?」
ミーシャに抱きつきながら、隣にいる赤い髪のツインテールと赤い瞳の女性を見る。何故か両手を広げて待っていたが、セレーネが警戒している事を知ると、しょんぼりと肩を落とした。
「私の眷属です」
「リーシアの娘にして眷属のシローナちゃんだよぉ!」
シローナは、セレーネと目を合せるためにしゃがみながら自己紹介した。眷属という事は、リーシアが言っていたので、すんなりと飲み込んだセレーネだったが、もう一つの情報は引っ掛かっていた。
「娘?」
「これでも長女だよぉ」
セレーネは、リーシアとシローナを見比べる。リーシアは優しく微笑み、シローナは元気そうな笑顔を見せる。
「全然似てない」
セレーネの言葉にシローナがずっこけそうになる。
「確かに良く言われるかも。お母さんが物静かだからね」
「落ち着きのない子で、基本的に動き回らないと気が済まないのです。なので、基本的には素材の採取等を頼んでいます。素材の採取と戦闘に関しては、かなりの腕があります」
「ふ~ん……シローナちゃんも授業をしてくれるの?」
ここに一緒に来たという事は、シローナも講師として来たのかと思いそう質問した。その質問に対して、シローナは首を横に振る。
「ううん。別に出来ないわけじゃないけど、これからまた素材を採りにいくから、セレーネちゃんに挨拶をしに来ただけだよぉ」
シローナはそう言いながら、ミーシャに抱きついているセレーネの頬を揉む。一頻り揉むとシローナは立ち上がって手を振る。
「それじゃあ! またね!」
そう言ってから普通に走って去って行くシローナを、セレーネは唖然としながら見送った。そんな娘の姿を見て、リーシアは片手で顔を覆いながらため息を零す。
「本当に忙しない子でごめんなさい。色々な場所の変化を見たいからと眷属にしろとしつこいもので、あの人と相談してあの子だけ眷属にしたのです。その結果が、あのような状態なのですが……」
「ううん。でも、リーシアちゃんが育てたから、もっと真面目な感じかと思っちゃった」
これはセレーネの正直な感想だった。リーシアが厳しく育てたのなら、リーシアのように育つのではと思っていた。だが、現実はセレーネ以上の自由奔放さだった。それこそ、セレーネも唖然とする程に。
「あれでも、頭も良いのですが、身体を動かす方が性に合っているようで、ノスフェラトゥの名で冒険者として活躍しています。表立って派手な事はしていないので、そこまで有名にはなっていないようですが」
「へぇ~」
そんな話をしていると、カノンがセレーネを抱き上げて、ミーシャから離して席に着かせた。
「お話が進みませんので、先生のお話を最後まで聞いてから続きを話しましょう」
「は~い」
素直にセレーネが返事をしたのを聞いて、レイアーは内心安堵しながら続ける。
「カノンさんと同じくセレーネ様とフェリシア様が卒業されるまでの契約となっています。基本的には魔術薬、錬金術、魔術道具の授業のみの担当となります。理論的な事はカノンさんから学んでいますので、これからの授業は実技のみになります。大丈夫だとは思いますが、気を付けて下さい」
「は~い」
「はい」
「では、これからの年間予定に関して話していきます。予定と言っても一つだけですが、七月に魔術武闘会があります。魔術有りの武闘大会という事ですね。参加は自由です」
「これまではなかったの?」
学園生活の中で一度も出た事がない行事なので、セレーネは何故急に出て来たのか気になっていた。
「高等部二年生の行事ですので。ここで戦闘技術を学ぶという事ですね。後は、アピールの場にもなります」
「ベネットやナタリアが、次代の剣聖や次代の賢者と呼ばれるようになったのも、この魔術武闘会がきっかけの一つです」
「ふ~ん……私も出てみようかな。どのくらい戦えるか気になるし」
「申請は六月中に行いますので、その気になれば私に言って下さい。今日は、このくらいですね。明日からの授業もですが、研究の方もお忘れなく。では、気を付けて帰って下さいね」
「は~い」
「はい」
レイアーが帰った後、セレーネは再びリーシアに抱きつく。
「どうしてリーシアちゃんが授業してくれるの?」
セレーネはリーシアが授業をしてくれる気になった理由が気になっていた。基本的にリーシアは自由に色々な場所を動き回っていると思っていたので、二年間も一箇所に留まってくれるとは思わなかったからだ。
「前にカノンさんに相談されまして、理論を習っているのなら、色々と教えるのもありかと思ったのです。カノンさんも実技は不安なところがあるらしいので」
「ふ~ん……でも、リーシアちゃんとミーシャちゃんなら安心だね。もしかしたら、研究のヒントになるかな?」
「どうでしょうか。ですが、覚えておくと良いものを紹介するつもりですので、これからの人生で役に立つ事は間違いないでしょう」
「ちょっと楽しみ。そうだ! 今日はリーシアちゃん達暇!?」
「はい」
「じゃあ、夜ご飯一緒に食べよ!」
「良いですよ」
「やった!」
久しぶりにリーシア達と食事出来る事が分かり、セレーネのテンションが上がる。
(本当にリーシア様達が好きなのね)
嬉しそうなセレーネを見て、フェリシアは少し微笑みながらそう思っていた。その日の夜は、別邸に来たリーシア達と過ごしていく事になった。封印の調整などもしながら、セレーネは楽しく過ごしていった。




