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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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結界棚の最適化

 それから一ヶ月掛けて、セレーネは空間魔術と結界魔術の見直しをしていった。屋敷に住むようになったスピカにも手伝って貰っていたが、スピカも忙しいので、毎日は屋敷に帰ってこられなかった。

 それでもスピカから最初に教えてもらった事で、結界魔術に関しては、かなり大きく進める事が出来ていた。棚の構築は、自主学習の時よりも遙かに効率が良くなっている。これに加えて、棚の種類にフェリシアが開発した軟質結界を入れる案も考えている。これによって、割れやすい素材のものでも、安全に保管が出来るからだ。ただし、これはオプションとしてしか考えていない。常設するようなものでもないからだった。

 ただし、これには少々問題もある。それは、セレーネの考えでは、魔術結晶に魔術を閉じ込めて、そこを媒体に収納を開けようと考えているからだ。そこに新しく魔術を追加するのは、マリアの実験で失敗している。まだ完全に出来ないと決まった訳では無いが、難しいのは確実だった。

 常用するには、魔術陣の複雑さが異常なので、魔術結晶に閉じ込めないのであれば、詠唱を作り出す必要がある。一々詠唱するのは面倒くさいというのもセレーネが魔術結晶に拘っている理由の一つだった。

 ただし、まだ魔術結晶の研究までは進むことが出来ていなかった。未だに空間魔術と結界魔術の研究で止まっているからだ。

 今日も今日とて、セレーネは研究を続けていた。今、セレーネがいるのは、学園の屋内運動場だった。レイアーに頼んで、貸し切りにして貰っていた。一緒にいるのは、フェリシア、カノン、マリアの三人だ。レイアーは、仕事があるので、今は留守にしている。

 そんな屋内運動場には、結界で作られた棚が縦十列横十列の計百個置かれていた。これは、セレーネが一つ魔術陣から生み出した棚だった。大きさもそこそこあり、四段の棚になっている。


「結界棚の魔術陣は、これ一つで良いかな。というか、最早結界じゃないよね?」

「そうね。最早棚生成魔術よね」


 セレーネとフェリシアの言葉も最もだった。穴だらけの結界は、既に結界としての防御能力に難がある代物になっている。なので、最早結界魔術と呼べるような代物ではなくなっていた。


「そこは先生と相談してみるとして、もう少し魔術陣を簡潔にしたいよね」

「これでもスピカさんと相談して、最大限まで簡潔にしたのでしょう?」


 フェリシアの言う通り、この棚生成魔術は、セレーネとスピカで改良に改良を重ねた結果、かなり簡略化されていた。それでも通常の戦闘魔術などよりも、複雑な状態になっている。これ自体は棚を作るだけの魔術なので、後で別空間収納魔術と多重魔術陣にして組み込む必要がある。そこを考えると、もう少し簡単にしたいのだ。


「でも、この複雑さだよ? まだまだ簡単に出来ると思う。複雑にしているのは、全部纏めているからなんだけど、こっちの方が消費魔力が少なくなるから、この状態は崩せないの。だから、この状態で無駄を発見するしかないんだ。スピカに頼り切りも駄目だから、ちゃんと自分で直していかないとね」

「まぁ、そうね」

「そのために、まずはこの結界棚の状態確認! 一つ一つ検査していくから、手伝ってくれる?」

「そのために来たのだもの。手伝うわ」


 セレーネ、フェリシア、カノン、マリアで、百個の棚を一つ一つ調べて行く。どこかでも綻びがあれば、魔術陣の見直しが必要になる。加えて、この検査は丁寧かつ念入りにやらなければ、後々に使用している間に問題が発覚する事になる。強度、硬さ、固定度合いなど調べる項目を作っておいたので、検査自体はスムーズに進んでいった。


「取り敢えず、全部の棚に問題はなしね。スピカと念入りに作っておいた甲斐があったかな」

「現状は、問題なしとなっていますが、魔術陣を変えるのであれば、また検査の必要があるかと」

「うん。取り敢えず、この魔術陣は仮決定にしておくつもり。空間魔術の方もある程度簡略化出来てきているから、もう少し突き詰めようと思う。先生は、このくらいでも十分だって言ってたけど、私自身が納得出来ないからね。ミルズ先生は好きなだけやれって言ってたし、納得出来るまでやるつもり」

「私もその方が良いと思います。スピカも最後まで付き合うと言っていましたから」

「うん。結界魔術はスピカのおかげで、とんとん拍子に進められたし、スピカからアドバイスも貰えたから、調べる論文の種類も増えたしね。おかげで、全く関係ない事も気になるようになっちゃったけど」


 戦闘分野の論文や生産分野の論文なども読み始めたセレーネは、更に知識を深める事になったが、他の分野も気になるようになっていた。だが、今は自分の研究を進めたいと思っているため、そっちに傾く事はなかった。

 この論文のおかげで、改良出来た部分もあるので、セレーネの中でスピカへの評価が鰻登りになっていた。


「ちょっと変えてみたから、また強度の検査をお願い」

「はい」

「うん」

「ええ」


 セレーネは、少しだけ変更した魔術陣で結界を張る。その結果、結界棚の強度が著しく下がった。カノンが軽く叩いただけで、割れてしまったのだ。


「これは駄目……強度維持の部分に関与している魔力線だったって事ね……なら、この消すんじゃなくて、ここに統合させる形で……次、行くよ」


 次の実験では棚の硬さが変わってしまい柔らかくなってしまった。それは、まるでフェリシアとシフォンが開発した軟質結界のような感じだったのだ。それを見て、フェリシアがセレーネに魔術陣を見せて貰う。


「この部分が硬さに直結している部分だから、あまり弄らない方が良いわね。でも、これなら少し整理出来るわ。ここから伸びている魔力線を強度と繋げれば良いわ。硬さと強度を直結させるの」

「なるほど……まだ複雑ではあるけど、最初よりもマシになったかも。ありがとう、フェリシア」

「丁度研究していたところだもの。さすがに、ここなら分かるわ」


 フェリシア達からも意見を貰いつつ、改良を続ける。何度か魔術自体が破綻する事があったが、結界の検証は順調に進んでいった。そして、下校時刻になる直前にレイアーがやってくる。


「セレーネ様、そろそろお時間です」

「あっ! 先生、見て見て」


 セレーネは、改良を加えて何とか形を保っている結界を見せる。


「これは……不完全ですね。魔力線を整理するのは良い事ですが、大事な線がブレているのかもしれません」

「これなんだけど」


 セレーネは、魔術陣を見せる。レイアーは、ジッと魔術陣を見ていく。


「…………ここですね。結界魔術の中心となる紋に繋がる魔力線が少なすぎます。強度と硬さを纏めるのは良いアイデアですが、それならもう少し魔力線を太くするか、余分な魔力線で紋との繋がりを補強した方が安定するでしょう」


 セレーネは、魔術陣のバランスを見て、魔力線を太くする方面で調整して結界を発動する。すると、先程よりも安定した結界を作り出す事が出来た。


「安定した!」

「そうですね。ですが、まだ不安定な箇所があります。やはり、中間報告で見させて頂いた魔術陣が一番安定していると思いますが」

「でも、まだ改善していけば、安定する可能性は残ってるし、もう少し見直してみる」

「そうですか……分かりました。では、中心の紋をしっかりと意識するようにしてください。不安定な状態になるという事は、そこへの繋がりが薄い可能性が高いので」

「うん。分かった」


 レイアーからアドバイスを受けて、セレーネ達は帰宅する。セレーネの収納魔術は、少しずつ着実に進んでいた。

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