年末の過ごし方
年末。学園も休みに入り、セレーネはフェリシアの膝に頭を乗せた状態で魔術陣を重ねて多重魔術陣を作り出していた。
「見て見て。氷魔術」
セレーネは、水魔術の魔術陣に火魔術の魔術陣を重ねたものをフェリシアに見せた。二つの魔術陣の間にほんの少しだけ空間を作って、魔力線にて繋げた多重魔術陣だ。
「発動するの?」
フェリシアは、その魔術が実際に使えるのかという疑問を持った。それに対して、セレーネは首を縦に振る。
「うん。消費魔力は、何と二倍!」
「意味ないじゃない」
フェリシアのツッコミにセレーネは口を尖らせる。
多重魔術陣として作り出す事が出来た氷魔術の魔術陣だが、その消費魔力は、通常の氷魔術の二倍になっていた。二つの魔術が順番に起動する事になるので、結局二つ分の魔力を消費する事になるのだ。
「本当に多重魔術陣の利点がないんだよねぇ。でも、この順番に魔術が発動する事活かして、一々発動しないといけない別空間への収納が楽になるし、魔術結晶に入れる事が出来れば、一々構築しなくても良いんだよね。まぁ、魔術結晶が多重魔術陣の中を全部一斉に発動するとなると、色々と調整しないといけなくなるけど」
「まぁ、そうね。だから、魔術陣に組み込む形にしている訳だもの。でも、多重魔術陣は、魔術陣の大きさを小さく出来るメリットがあるのよね。セレーネが作ろうとしている魔術陣は、組み込み型にすると、大分大きくなる想定になるから」
「そうなんだよね」
空間魔術は、ただでさえ魔術陣が複雑になっている。その空間魔術を複数組み合わせるという事は、さらに複雑になり魔術陣自体も大きくなる。基礎魔術を研究する二人は、なるべくシンプルな魔術陣にする事を心掛けている。複雑になれば魔術の形成も遅くなり、消費魔力も増えるという理由もあった。
頬を膨らませたセレーネは、魔術陣の構造を変えていく。そうして、水魔術の魔術陣と火魔術の魔術陣を交差させるように重ねた魔術陣を作り出した。
「こういう風に多重にする事も出来るよ」
「それの魔力消費量は?」
「二倍」
「駄目じゃない。でも、魔術陣が形に囚われていないという事が分かるわね」
「うん。重ねる方は論文にあったけど、こっちはなかったかな。でも、実はこっちの方が僅かに消費量が少ないんだよね」
最初に使った多重魔術陣よりも、こうして交差させるように重ねた方がほんの少しだけ魔力の消費量が少なかった。だが、それでも組み込み型と比べて二倍近い消費量である事は変わらない。
「余計な魔力線がないからかしら?」
「うん。その分の魔力が浮いているって感じ。まぁ、どのみちあまり変わらないから意味ないけど。もっと魔力線を調整したら、上手く出来るようになるかもしれないから、そこを頑張るところかな」
「空間魔術の方はどんな調子なの?」
「大分整ったよ。物の取り出し口の移動方法も作れたからね。その分消費魔力が多くなったけど……」
別空間への収納魔術自体は、完成に近づいている。内部で取り出し口を動かすための機構は、【空間接続】と新しく開発した【空間接続】の座標を移動させる【座標変更】を組み合わせたものだ。空間魔術が、もう一つ増えるので、消費魔力は更に多くなってしまった。
もはや、真祖や眷属の保有魔力でないと使う事が出来ない。一般人の魔力では、発動する事は出来ず、魔術に長けている魔力の多い人でも、全ての魔力を使い切って、ようやくというラインになっていた。エルフであれば、何とか使えるだろうというレベルだ。
「【座標変更】が思ったよりも魔力を食うんだよね……私も半分近くまで消費させられるし」
「変更中は、常に魔力を消費する事になるからよね。切り替えは出来ないの?」
「切り替え機構に、更に魔力を取られるけど」
「あぁ、そうよね」
「一応、魔力線の整理とかは最大限やっているつもりなのだけどね。全部組み合わせた魔術陣は一メートル以上になっちゃったし……やっぱり多重魔術陣が欲しいよぉ」
セレーネは、身体を起こしてフェリシアの膝に乗ると、首筋に牙を当てる。
「飲んで良い?」
「良いわよ」
フェリシアの許可を貰ったセレーネは、首に牙を押し込んでフェリシアの血を飲んでいく。その間に、頭の中では今後の研究ついての思考をしていた。
(やっぱり、あの大きさの魔術陣になるなら、多重魔術陣は必須。小さくて損する事はないのだから。【座標変更】の見直し……いや、空間魔術全ての見直しをしよう。
それに加えて、結界魔術の組み込みだ。今の状態だと床に直置きしか出来ない。棚の設置は結界魔術で出来るというのは、既にこっちの空間で検証済み。収納空間では出来ないという事はないはず。
ただ、これを組み合わせると、更に魔術陣がでかくなるから、こっちも見直しつつ多重魔術陣の構築かな。欲を言えば、順番に発動するよりも、一部は一気に発動して欲しい。これには、魔術結晶の可能性を追求しないといけない。
はぁ、フェリシアは研究を完成させているのに、こっちはまた大きな壁だよ。頑張らないと)
そこまで考えて、セレーネはフェリシアの首から口を離して舐める。傷口がなくなったのを確認して、セレーネはフェリシアの身体に抱きついた。
「頭がこんがらがりそう……」
「一つ一つゆっくりと進めていけば良いわよ。まずは、何をするの?」
「空間魔術全ての見直し。ここでもっと効率の良い魔術陣を見つけて、最適化を進める」
「次は?」
「結界魔術の組み込みを考えて、結界魔術に関してもう少し調べる。棚の作り方と量産の仕方は分かったから、もっと効率よく出来るようにして、組み込む時に消費魔力が増えすぎないようにする」
「次は?」
「多重魔術陣の可能性。大きくなって、複雑になる魔術陣を複数の魔術陣に分割して簡略化する事によって、使いやすさの向上と運が良ければ魔力の消費量を減らせる」
「次は?」
「魔術結晶の研究、魔術結晶が、内包した魔術陣を一斉に起動出来るのであれば、多重魔術陣みたいに次々に魔術を発動するような感じにならないで済むかもしれない。それに、魔術結晶の効果には、こっちの消費魔力を減らせるみたいな事が期待出来る節がある。消費魔力を減らせるのは、重要だから、もし出来るなら使いたい」
「ほら、しっかりと整理出来たでしょう? 最優先でしないといけない事を見定めて、ゆっくりでも着実に歩んで行けば良いわ。今は、私も研究内容を決められなくて、暇になっているから、出来る事は手伝うわよ」
「ありがとう。お礼に血を飲んでも良いよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
今度は交代でフェリシアがセレーネの血を飲む。
フェリシアのサポートを受けつつ、セレーネは研究を進めるために奮起する。ただ、研究を再開する前に、セレーネはフェリシアに甘えて年末を過ごす事にした。こうして英気を養う事で、更に研究への意欲を高めていったのだった。




