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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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物置でちょっとした実験

 セレーネとマリアは、一緒に物置に来た。物置の中は、箱を使って分別された物が棚に入っているような場所だった。


「ここら辺がそうかな。この奥には、冷蔵保存している素材もあるよ」

「ふ~ん……これって、魔物の素材?」

「基本的にはね。鉱石とかもあるよ」

「鉱石かぁ……魔術結晶だから、結晶とかの方が良いのかな。あれ? これって魔術結晶?」


 セレーネは、鉱石が入った箱の中を見ているときにフェリシアにあげたものと同じような結晶を見つけた。


「本当だ。雑多に仕分けたところもあるから、あったのを忘れてた。これは……雷魔術の魔術結晶かな。黄色いし」

「そういう違いもあるの?」

「うん。ある程度の系統別に色が分かれるかな。水と氷とか近しい属性だと、同じ色になる事が多いけど」

「ふ~ん……お姉様は分析していたみたいだけど、あの魔術って何?」


 そう言われて、マリアはテレサが使っていた魔術を思い出してから答える。


「【拡大(かくだい)】かな。分析系統の魔術だよ。魔術陣はこれね」


 マリアは、魔術陣を出して説明する。魔術陣が分かれば、セレーネも詠唱の必要がない。複雑になれば詠唱の方が早いが、【拡大】に関しては複雑な魔術陣ではないので、マリアも詠唱を教えるという事はなかった。

 セレーネが【拡大】を使うと、右目の前に魔術陣が浮かび上がる。そして、その魔術陣の中央にセレーネが見ているものが拡大されて映し出される。


「うわっ……気持ち悪い」


 右目で見ている対象のみが拡大されて映し出されるので、左目との差で気持ち悪く感じてしまっていた。


「左目は閉じると良いよ。慣れてくると、そのままでも大丈夫だけどね」

「うん」


 そうして、魔術結晶の中身を見てみると、マリアの言う通り雷魔術【雷撃】の魔術陣が見えていた。


「これって倍率は?」

「固定だね。倍率を変えようとして、調節が難しくなって断念したらしいよ。後、今のセレーネの比にならないくらい酔うらしいね」

「ふ~ん……」


 今も魔術結晶を右目から十センチ程離して見て、ようやく認識出来るという形なので、使い勝手はそこまで良くない。


「他に魔術結晶はある?」

「ちょっと探してみようか」


 そこから、三個程、雷魔術の魔術結晶を見つける事が出来た。


「全部多重じゃないね」

「そりゃあ、普通の魔術が封入されているだけだからね」


 セレーネが求めていたのは、ダンジョンコアのように多重になっている魔術陣が封入された魔術結晶なのだが、それは一つもなかった。


「ねぇ、マリア。これに魔術を封入出来ないかな?」

「えっ? 魔術結晶の中に新しく魔術を入れるって事?」

「うん」


 セレーネの質問に、マリアは難しい表情をする。そのような研究は、論文として上がっていないので、成功するかどうかは分からない。そもそも何が起こるかさえも分からなかった。


「う~ん……私がやろうかな。暴発したら怖いし」

「えぇ……私は駄目なの?」

「危険かもしれないから、セレーネは駄目。というか、どうやって魔術を込めようと思ったの?」

「魔術陣を中に入れれば良いかなって」

「なるほどね。多重魔術陣に変える事は出来ないけど、やってみる価値はありそうかな」


 マリアは、【雷撃】の魔術陣を作り出し、大きさを縮小させながら魔術結晶に近づけていく。魔術陣が魔術結晶の中に入り込むと、魔術結晶が弾ける。


「マリア! 大丈夫!?」


 セレーネは慌ててマリアに近づいて手を見る。破片で切れて、血が出ていたが、既に傷は塞がっていた。セレーネは、そのマリアの指を咥える。血を舐め取った後、上目遣いにマリアを見る。


「ごめんね」

「ううん。こういうのが従者の役目だからね。セレーネも再生があるからって、自分で何でもやらないように。こういう危険があるからね」

「うん」


 マリアを怪我させてしまった事で、セレーネは少し落ち込んでいた。そんなセレーネに、マリアは優しく微笑み掛けながら頭を撫でる。


「大丈夫だって。セレーネが優しい子だもんね。びっくりさせちゃったね」


 子供扱いするマリアに、少しむくれつつもセレーネは抱きつく。そんなセレーネの頭を撫でながら慰めていき、ようやくセレーネの機嫌も戻ってきた。


「取り敢えず、既に魔術陣が入っている魔術結晶には、新しく入れられないって事が分かったね。あるいは、魔術陣を入れて、即座に中の魔術陣と繋げれば可能なのかも……そうなると、最初から多重魔術陣に出来る魔術の組み合わせじゃないと駄目かもね」

「じゃあ、魔術結晶からじゃなくて、最初から多重魔術陣から考えるべき?」

「う~ん……そうだね。そっちから考えてみるのもいいかもね。でも、魔術結晶が必要になる可能性もあるから、こっちの研究もしておくといいかも」

「うん。じゃあ、部屋に戻って多重魔術陣の研究に移ろう」

「オッケー」


 セレーネ達は、セレーネの部屋に戻って来た。セレーネは、複数の魔術陣を立体に繋げる研究を始める。魔術陣の重ね方や重ねる魔術の選定などをしていると、カノンとフェリシアが帰ってきた。


「ただいま」

「あ、フェリシア、カノン。おかえり」

「ただいま戻りました。今は……多重魔術陣の研究でしょうか?」


 カノンは、セレーネが二つの魔術陣を出しながら魔術を起動せずに重ねようとしているのを見てそう訊いた。


「うん。魔術結晶の方は、まだよく分からないから先送りにした。こっちが完成しないと、魔術陣が簡潔にならないし、魔術結晶を作る意味もなくなるから。マリアと話して決めたの」

「そうでしたか。少々時間宜しいですか?」

「ん?」


 カノンに言われて、セレーネは魔術陣を消してカノンの元に小走りで駆け寄る。その間に、カノンは袋から魔狼の毛皮で作られたコートを取り出した。そのコートをセレーネに着させる。


「ちょっと大きい」

「お嬢様は、成長期ですから。まだ大きく直す事も出来ますので、しばらくは使えるでしょう。暖かいですか?」

「うん」


 仕立てたコートがちゃんと使える事を確認した後、カノンが脱がしてクローゼットに仕舞う。


「私とお揃いよ」

「そうなの!? やった!」


 セレーネは、嬉しそうにフェリシアに抱きつく。フェリシアは微笑みながらセレーネの頭を撫でる。


「フェリシアの買い物って、コートの事だったの?」


 フェリシアも買う物があるから付いていったという事は知っていたので、セレーネはコートがそれに当たるのかと思っていた。しかし、セレーネは首を横に振る。


「違うわ。魔術結晶を魔武器に加工して貰いに行ったのよ。出来上がるのは、二週間後らしいわ」

「そんなに掛かるの?」

「他にも注文があるだろうし、武器そのものも一から作って貰う予定だから仕方ないわ」

「ふ~ん……」


 セレーネはそう相鎚を打ちながら、フェリシアにより密着した。フェリシアは、何かあったのかと思い、マリアを見る。すると、マリアが苦笑いをしたので、ちょっと嫌な事があったのだろうなと思い、セレーネを抱きしめ返した。

 しばらくフェリシアに抱きついていたセレーネは、上機嫌になりながら多重魔術陣の形成を研究していった。

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