レイアーに報告
普段通りの生活が戻ってくるという事は学園での日々も戻ってくるという事。久しぶりに学園に来たセレーネ達は、まずミルズの研究室に来て、帰還したことを報告していた。ミルズは用事があったためいないが、レイアーが迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、セレーネ様、フェリシア様。ダンジョンでの収穫はありましたか?」
「うん。いっぱいあったよ。これレポートね」
セレーネは三つのレポート。フェリシアは一つのレポートをレイアーに渡した。
「三つもですか……」
レポートのタイトルを読んだレイアーは、瞬きを繰り返してから、もう一度タイトルを読む。
「これは……少々分野が異なるものに鳴っていますね。魔力の密度上昇は、一応基礎魔術研究に当て嵌められそうですが、ダンジョンコアの魔術陣に関するレポートは、ダンジョン研究室に見せる事になるかもしれませんね。引き抜きなどの相談が来るかもしれません」
「えぇ……面倒くさそう」
「二つの研究室に所属する事になるかもしれませんね」
「本当に面倒くさいやつだ。これ、ダンジョンコアのレポートじゃなくて、魔術結晶を使った多重魔術陣の可能性とかにしたら変わる?」
セレーネとしては、二つの研究室に所属しようと考えはなかった。理由としては、自分がやりたい空間魔術の研究が遅れると考えたからだ。二つの研究室に所属するという事は、研究内容が二つに増える事を表している。
下手すれば、繋がりも何も無い研究を同時並行するという事になりかねないので避けたいのだ。
「そうですね……ギリギリ基礎魔術研究の一環に入るか入らないかというところでしょうか。魔術結晶で言えば、錬金術研究室などになりかねませんが、多重魔術陣の可能性という事なので、基礎からの応用研究とすれば、基礎魔術研究でも通じるかもしれません」
「じゃあ、そうしよっと。ダンジョンコアに関しては、可能性に気付いたきっかけにすれば良いよね?」
「そうですね。後は、ミルズ先生に確認してみます」
「うん」
セレーネは、今回の三つのレポートが全て繋がるから同時に研究をしているだけだ。なので、このままミルズの研究室で研究していたい。ここには尊敬するレイアーもいるというのも大きい。
「フェリシア様は……なるほど。大詰めになってきていますね。体内での構築は、今後の課題と考えて、身体をぴったりと覆う形にしましたか。私もそれが良いと思います。衝撃の吸収ならまだしも、衝撃の受け流しとなると、体内から体外に出る際、身体を傷付ける可能性がありますから。では、フェリシア様のタイミングで実証実験の申請をお願いします。基本的には、私かミルズ先生が立ち会う形になりますので」
「分かりました」
「セレーネ様は……」
フェリシアはずっと続けている一つのレポートなので、軽く確認するだけでも問題ないが、セレーネの場合は、新しいレポートもあるので、感想を言うのも時間が掛かる。
「なるほど……空間を開く事自体には成功したのですね?」
「うん。結構な容量があるよ」
「無限の空間は、魔術自体は発動しても、空間が崩壊してしまう……なるほど。魔術としては成立しても、空間に限界が訪れるわけですね。ふむふむ……ああ、なるほど。それで、多重魔術陣でどうにか出来るかと……空間自体は魔力で覆われたものになっているから、当人の魔力で開けば大丈夫そう……【座標指定】で、自分の周りに固定すれば、より正確に開ける。うん……うん……理論的には大丈夫そうですね。問題点となっているのは、広い空間に対して入口が一箇所な事に加えて、手が届かないという事ですか」
「うん。【空間接続】でどうにか出来そうではあるんだけど、それだと魔力の消費がまた増えるでしょ? それに、一々【空間接続】を使うのも面倒くさいなぁって。だから、多重魔術陣に可能性があると思ったの」
レイアーは、多重魔術陣のレポートをもう一度読んでいく。
「複数の魔術を組み合わせる方法の一つとして考えているわけですね。同じ組み合わせでも、新しい魔術になる可能性は秘めていますから、良い考えではあるかと。後は、入口に関して、移動出来るように改造しないといけませんね。座標の移動を魔術的に作り出せればどうにかなるかもしれません」
「座標の移動ね……でも、箱に入口がある状態だから、移動したら箱が小さくならない?」
「そこのイメージを崩していく必要があるかもしれませんね。それこそ、【空間接続】がヒントになるかもしれません」
「う~ん……もうちょっと考えてみる」
「はい。焦らずに頑張りましょう」
にっこりと笑ってそう言うレイアーの内心は、驚愕でいっぱいだった。
(まさか、本当に完成まで近づけるなんて……いや、実質完成はしている。問題は、ちゃんと実用的かという事。そこに拘りを持っているセレーネ様には感服しちゃう……それに、ダンジョンコアの多重魔術陣説。ダンジョンコアを少しでも動かすとダンジョンが崩壊してしまうし、ダンジョンコアを破壊すれば中身の魔術陣も消える。だから、ここまで深くダンジョンコアを研究する人は少ない。もう気付いている人もいるかもしれないけど、論文に出てこないという事は、どこかしらで理論の崩壊か実証が出来ないというのがあるのかも。それに魔力の密度を上げるという手法。基礎魔術は使えないらしいけど、これも新しいものだし……ダンジョンに行ってくるだけで、研究を一気に進めちゃってる……これは、ミルズ先生も呆れるだろうなぁ)
セレーネの研究の進み具合は、正直なところレイアーも予想外だった。
「それにしても、多重魔術陣を進めるのであれば、魔術結晶を自力で作れるようにならないといけませんね」
「うん。生成条件とかって、判明してる?」
「魔術結晶の研究は、内部魔術陣の研究が主になっていますね。自力で生成出来ないというのが現状です。ダンジョンに蓄えられた魔力が結晶化したと言われています。その辺りの資料はあると思います」
「そっか。分かった! 図書室行って来る!」
「その前に授業でしょう」
フェリシアに手を繋がれたセレーネは、レイアーに手を振って研究室を出て行く。フェリシアもレイアーに頭を下げてから出て行った。
教室では、カノンが授業の準備をしていた。マリアは、その手伝いをしていた。
「研究室は、如何でしたか?」
「うん。先生がびっくりしてた」
「それはそうだろうね。全く新しい事のレポートだし。何かアドバイス貰えたりした?」
「うん。魔術結晶の研究論文を読んでみたい」
「オッケー。図書室に行って調べてくるね。魔術結晶で良いんだよね?」
「うん」
マリアはセレーネに手を振って、図書室に向かった。セレーネの代理として行動して、図書室で先に資料を集めて取り置きして貰うためだ。従者のいる高等部生はよくやる手法だった。
学園の授業が再開して、本格的にいつも通りの日常が戻って来た。




