王都に戻って来た
王都に戻ったセレーネ達は教会に戻るスピカと本邸に戻るテレサ、ルリナと別れて、屋敷へと帰ってきた。セレーネが帰ってきた事に気付いたクロが、セレーネに甘えてきたので、セレーネは全力でクロを撫でていった。
そうして部屋に戻った後、カノンとマリアが荷物を解いている間に、セレーネは、魔動列車の中で纏めていたメモをもう一度見直して、家に置いてあるメモと合わせて、新しい紙に理論の仮説を書いていた。
フェリシアの方でも、中間レポートを書き始めていた。そうしている間に、カノンとマリアは荷物を解き終え、マリアは洗濯をしに向かった。
「お嬢様。私は奥様と相談したい事がございますので、少し出掛けて参ります」
「うん。いってらっしゃい」
カノンの用事はセレーネも分かっているので、特に不満を言う事なく送り出した。
カノンを見送ったセレーネはメモを書いている途中で止まる。それにフェリシアが気付いた。
「どうかしたの?」
「う~ん……ダンジョンで魔力の凝縮法を見つけたでしょ?」
「ええ、そうね」
「それで、ダンジョンコアの魔術陣の謎とかも仮説を出せたでしょ?」
「まぁ、そうね」
「これって、私の研究レポートにならないよね?」
「……確かに、そうね。別のレポートとして提出する事になると思うわ。特にダンジョンコアの多重魔術陣に関しては、分野が異なり過ぎるから、同じレポートとして出すのは無理でしょうね」
セレーネの研究は空間魔術の発展。その一環としての別空間への収納だ。だが、魔力の密度を上げる事とダンジョンコアの多重魔術陣は、空間魔術に関するレポートとは、あまり関わっていない。
ここから繋げて研究を進める事にしているが、直接的な繋がりが現状はない以上、同じレポートとして提出する事は難しかった。密度を上げる方は、別空間収納の実験に利用した事もあり、レポートに絡める事が出来るが、その理論を書く場ではない。
この事から、レポートは三つに増える事になっていた。
「レポート三つかぁ……纏めるのが面倒くさい……」
「頑張りなさい。私のレポートが終わったら手伝ってあげるから」
「うん。ありがとう」
取り敢えず、セレーネは今回の成果のメモを見ながら、空間魔術に関するレポートを進めておく。セレーネとフェリシアが集中してレポートを書いている間に、マリアは洗濯を終わらせて、メイド達の近況報告を聞いておき、特に変わった事がない事を確認してから戻って来た。
(レポートに集中してるかな。それならセレーネとフェリシア様の消耗品を買い足しに行くかな。紙も減っているみたいだし)
「セレーネ、買い物に行って来るね」
「ん~」
セレーネは生返事をしつつ、机に向いたまま手を振る。フェリシアの方は振り返って手を振っていた。なので、マリアも手を振ってから、買い物に出掛けていった。
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本邸に来たカノンは、すぐにミレーユの元に通された。ミレーユもすぐに報告を聞きたかったからだ。
「態々来て貰って悪いですね。テレサは、お風呂に入るなり、すぐに寝てしまったようで、ルリナが慌ただしく動いていますから、カノンが来てくれて良かったです」
「あははは……」
テレサとルリナらしいと思い、カノンも思わず笑ってしまう。
「それで、収穫はありましたか?」
「はい。お嬢様とフェリシア様、どちらにもありました。研究という面でも戦闘という面でもです」
「二人とも、ある程度は戦えるようになりましたか?」
「ゴブリンジェネラルを二人だけで討伐出来るくらいには」
カノンの報告に、ミレーユは嬉しそうな表情になる。
「そうですか。それは良かったです。この調子で成長していけば、何かあっても身を守れるようになりますね」
「はい。それと、こちらは私の報告になるのですが」
「カノンの?」
ミレーユは、少し驚いていたが、すぐに話を聞く態勢に戻った。
「スピカと交際する事になりました。なので、住み込みでの業務を辞めさせていただく事になるかもしれません」
「あら、それはおめでたいですね。なるほど。聖女になるにしても、男性との交わりが禁じられているだけで、女性との交わり一切禁止されていませんから、カノンとの交際は問題ないですね」
ミレーユは嬉しそうにそう言う。カノンが住み込みではなくなる事が嬉しいのではなく、カノンが自分の幸せを手に入れようとしている事が嬉しいのだ。
ただし、ここに少しセレーネに対する親心が入る。
「ですが、カノンが住み込みではなくなると、セレーネが寂しがってしまいますね」
「一応、お嬢様からの許しも出ているのですが」
「あの子は、カノンの幸せを考えますからね」
そう言って、ミレーユは少し考え始める。カノンは、ミレーユが話し始めるまで黙って待ち続けた。
「セレーネは、スピカに懐いていましたか?」
突然の確認にカノンは内心戸惑っていたが、すぐに頷いて答える。
「はい。研究に関する相談などを頻繁にしていたので、懐いてはいると思います」
「それなら、もしスピカが良ければ、別邸に住んでも構いませんよ。セレーネもその方が喜ぶでしょうし、カノンも仕事がしやすいでしょう」
まさかの提案にカノンは面食らっていた。
「よ、宜しいのですか?」
「はい。私達クリムソン家がスピカの後ろ盾にもなれますからね。ここら辺はあの人にも伝えておきます。聖女になる上で、貴族から支持されているというのも大きいですからね」
「ありがとうございます。こちらもスピカと相談してみます」
「はい。ゆっくり考えて下さい。あの人への報告は、私とテレサでしておきますので、カノンはセレーネの元に戻って構いません」
「はい。失礼します」
報告を終えたカノンは、セレーネの元に戻ってくる。カノンが戻ってもセレーネとフェリシアは、レポートに集中していた。
(お嬢様とフェリシア様はレポートを書いている最中……マリアさんがいないのは、買い出しに行っているって事かな。掃除は、他の方がやってくれていたようだし、特に何かしないといけない事もない。なら、お風呂の用意だけでもしておくかな)
そうしてお風呂の用意をしていると、切りの良いところまで終わらせて身体を伸ばしたセレーネがカノンに気付いた。
「カノン。いつの間に帰ったの?」
「少し前ですね。レポートに集中されていたので、声を掛けそびれてしまいました」
「気にしなくて良いのに。お母様にはもう言ったの?」
「はい。スピカもこの屋敷に住んで良いと」
「え? スピカも住むの?」
セレーネに嫌がっている様子はない。ただ、純粋に疑問だったので聞き返したのだ。
「まだ分かりません。スピカにも相談しないといけませんから。ですが、奥様の考えでは、スピカがクリムソン家の後ろ盾を得られるようになるとのことです。その方が聖女になりやすいのかもしれません」
「そうなの?」
「まぁ、一番大事なのは、教会で認められる事ですから、少しだけ有利になるかもしれませんね」
「ふ~ん……なら、住んでも良いかもね。クリムソン家のお抱え神官とかになりそうだし」
「神官って、お抱えにして良いものなのかしら……」
フェリシアの疑問に答えられる人は、この場には居なかった。沈黙が流れている中、クロがセレーネの膝に頭を乗せに来たので、その空気は霧散し、普段通りの日常が戻って来た。




