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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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ダンジョンコアの魔術陣

 ダンジョンコアを食い入るように見て、紙に魔術陣を写し始めてから五時間が経った。

 セレーネを除いた面々は、ダンジョンコアの部屋にテントを張って、交代で休憩を取りつつ、復活するゴブリンジェネラルを倒していた。

 見える範囲を描き写そうと言ったセレーネだったが、集中し始めると見えないところをみるために動き回りながら、ああでもないこうでもないと描いては消してを繰り返していた。


「セレーネは、全部描き写すまで終える気がなさそうなのだけど……」

「研究のヒントになる可能性が高いですからね。仕方ないと思いますよ」


 フェリシアとマリアは、シートを敷いて腰を下ろしつつ、フェリシアの研究を進めていた。テレサ、ルリナはテントで休んでおり、カノン、スピカはセレーネに付きつつ、ゴブリンジェネラルが復活した時に討伐に向かう準備をしていた。

 フェリシアの柔らかい結界は未だに実用段階に達していない。その理由は、衝撃を吸収仕切れていないからだ。


「柔らかすぎて耐久性は大丈夫なのだけど、内部に衝撃を通している時点で駄目なのよね」

「結界の柔らかさに重きを置きすぎたのでは?」

「そうよね……柔軟性を維持して、衝撃を後ろに抜けるようにする……でも、これだと内臓を守るとなった時に背中に衝撃が集中するわよね?」

「そうですね。内臓は守られても、骨が折れたり、筋肉や皮などが弾け飛ぶかもしれませんね」

「えっ、そこまでなるかしら?」

「衝撃が全て背後に抜けるという事は、内臓などがクッションにならずに直接背後にある骨などに集中します。背骨が折れたりする事は想定しておくべきかと」


 マリアの考えに、フェリシアは納得する。


「そうよね……内臓だけを守るのではなく、内臓を含めた身体の内部を守るって考えないと……いや、それだと皮膚が弾ける可能性もあるのよね……結局外部に纏わせるのが一番なのかしら……」

「皮膚に密着させる結界は結構良いと思います。二重構造にしておけば、最悪内臓保護まで出来るかと」

「二重構造……その分、魔力が嵩むわよね?」

「そうですね。ですが、そちらの方が効果的かと」

「まぁ……そうよね。後は、結界自体が衝撃を完全に吸収出来るようになれば良いのだけど……」


 フェリシアの研究では、相手の攻撃を防ぐ事よりも衝撃を受け流す事に注視した結界を構築している。フェリシアの命を救ったシフォンの結界の再現は出来ているのだが、フェリシアはそれの更に先を考えている。

 シフォンの結界では、内臓の損傷の確率を減らす事か内臓が飛び出さないようにする事くらいが限界だ。そこから内臓の損傷確率を大きく減らし、しっかりと内臓を保護するという機能向上を目指していた。そのための衝撃の受け流しだ。


「吸収機構にすると、結界の崩壊が早いですからね。吸収の仕方をもう一度練り直す事になると思います」

「受け流しだとやっぱり皮膚の上から結界になる……でも、皮膚の上からでも内臓の保護は出来るわよね?」

「そうですね。体外に飛び出さないという面で言えば、出来ると思います。ひとまずは、そちらで考えていきますか?」

「そうするわ。吸収機構を作れたら、内臓を直接保護する方も考えてみる事にするわ」

「そうしましょう」


 そこからも結界の研究と耐久性向上の兆しはあるかの検証などを続けている。

 その間に、セレーネは魔術陣を半分程描き写す事が出来ていた。


「ここが……いや、この繋がりにも見える……これが、空間魔術だとしたら、ここはこの繋がりに……いや、違う。こっちの繋がりでも魔術としては成立する……」


 同じような事を呟きながらも、魔術陣を描く手は止めない。


「物凄い集中力。研究の時は、ずっとこうだね?」

「それだけ研究が好きって事なんだけど……寝るのを嫌がるくらいに集中してしまうから、そこが問題になるんだよね」

「あぁ、うん。見てたから分かるよ」


 ダンジョンに潜ってから、セレーネが研究にのめり込んでいる姿を見ているので、スピカ苦笑いで頷いていた。


「カノン! 抱っこ!」

「はい。お嬢様」


 セレーネの脇に手を入れたカノンは、セレーネを高く持ち上げる。そうして身長を稼いで、自分の背丈からでは見えないところを見ようとしているのだ。これで十回目の高い高いだが、カノンは嫌な顔も一切せずに笑顔で承っていた。


「やっぱり、空間魔術に掛け合わせる形だ……でも、そうなると、ここの繋がりが……見る角度で全く違うように見えてる? 結晶の屈折のせい? でも、何か違和感が……う~ん……ん~……」


 紙に描き写しているセレーネの手が止まる。


「お嬢様?」

「ねぇ、カノン。魔術陣って複数を重ねても問題ない?」

「重ねるというと?」


 カノンはそう訊きながら、セレーネを降ろす。セレーネはカノンの方を向いて、紙を重ねて見せる。


「この紙、それぞれに魔術陣を描いて、重ねて発動する感じ。同じ魔術陣にしないの」

「それだと別々の魔術になると思いますが」

「基本的に魔術陣を重ねるとしたら、一体化させるから、あまり考えていませんでしたけど、その方法で重ねたら、普通に別々の魔術として処理されると思いますよ」


 カノンとスピカは同意見だった。別々の魔術陣を紙のように重ねたところで、一つの魔術陣になるわけもなく、二つの魔術が発動するだけだ。それを聞いて、セレーネは少し考える。


「じゃあ、魔力線で繋げれば良いんじゃない?」

「それでしたら、最適化して一つの魔術陣にした方が魔力の消費量も抑えられると思いますが」

「ああ……そうか……」

「あっ、でも、魔術が発動する順番を決めるみたいな事は出来そうですね」

「順番……」


 スピカの発想に、セレーネは少し考えるが、今の謎を解く手掛かりにはなりそうになかった。

 セレーネは、ジッとダンジョンコアを見る。


「ねぇ、あの結晶って、フェリシアにあげたものと同じ?」

「魔術結晶ですか? 確かに、同じようなものかもしれませんね」

「あの結晶の成分ってなに?」

「結晶の成分は、確か魔力が主だったかと」

「魔力が結晶化する条件は?」

「不明です。再現出来ていないので。なので、魔術結晶はダンジョンからしか回収出来ないとされています。そもそも魔術の封入法の問題もあります」

「そっか……」

「何かお気づきになったのですか?」

「うん。あの結晶そのものが、魔術を一体化させているんじゃないかなって」


 セレーネは、目の前のダンジョンコアを見ながらそう言う。


「ダンジョンコアに内包されている魔術陣は、いくつもの魔術陣が重なり合っている。最低でも三。割と分かりにくい隙間しか空いてない程近くに置いてあるから、一つに見えるってだけだと思う。しかも、その魔術陣自体も何かの魔術の組み合わせで複雑な構造になってる。だから、よく分からない潰されているような魔力線になってるんじゃないかな。ダンジョンコアの力を考えれば、空間の維持と壁などの修復、ダンジョンの仕切り、魔物の創造……色々な魔術が考えられる。そして、それをダンジョンの魔術として、一体化して発動しているんじゃないかな。それか、ダンジョンコアにある魔術は、限られたもので、他にコアと似たようなものがあるとか。とにかく、魔術陣が複数重なってるのは間違いないと思う」


 セレーネの力説に、カノンのスピカは顔を見合わせる。そして、二人同時にセレーネの方を見た。


「可能性としてはあり得ます。ですが、問題はダンジョンコアを直接解体出来ない事です。これを調べるには、魔術の結晶化を調べる必要があるでしょう」

「後は、そもそもの魔術陣の分析もしておいた方が良いかと。セレーネ様の研究に関係しているかもしれませんので」

「うん。もうちょっと描き写したら、ダンジョンを出よう」

「ダンジョンを出る前に休憩はいくつか挟みましょう。この描き写しが終わった後もです」

「えぇ~」

「えぇ~、ではありません。根を詰めすぎても結果は得られません。しっかりと休んで、心と体を休めて下さい」

「むぅ……は~い」


 最低限魔術陣を描き写したセレーネは、フェリシアと一緒に休憩に入った。そこからは、ただダンジョンを出るために同じ道を引き返すだけだ。

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