テントの魔術陣
セレーネ達は順調に進んでいき、最下層に着いた。結局、他に宝箱を見つける事は出来なかった。それだけここのダンジョンが安全という証拠ではあるのだが、セレーネからしたら、少し面白みに欠けるという印象だった。
そして、最下層の小部屋で休憩する事になった。ボス前にしっかりと休んでおくためだ。
そこで、宝箱から手に入れたテントを初めて張る事にした。カノンとルリナで、テキパキとテントを張る。そして、その全体をスピカとテレサが見ていた。
「破れている箇所はありませんね」
「ダンジョンに放置されたものが吸収されているから、破れている古いテントかと思っていたけれど、テントにも自己再生が付いているのかしら」
「こういうのに自己再生があるって事あるの?」
テレサの言葉が気になったセレーネが訊く。
「あるものはあるわ。特に剣や盾にね。少しずつ刃毀れとかが直っていくの。ただし、本当に少しずつだから、戦闘中に利用出来るわけではないわ。そういう意味では、テントに付いているのは有り難いかもしれないわね。戦闘中に使うものではないし、使い込めばそれだけボロくなっていくものだから」
補修せずとも常に使えるテントというのは、冒険者にとってはとても有り難いものだ。ダンジョンに潜った事のあるテレサは、その事を十分に理解していた。
そうして張り終わったテントは、二人用のテントくらいの大きさだった。安全確認のために、まずはカノンが中を確認する。テントの中に入ってから、五分程経って出て来た。
「安全です。ただ、少々驚くかもしれません」
「へぇ~、楽しみ」
セレーネがテントの中に入ると、そこには、セレーネとフェリシアの部屋くらいの大きさの空間があった。セレーネに続いて入ってきたフェリシア達は、その空間を見て固まっていた。
「そちらがトイレ、あちらがお風呂になっています。水などは魔術で生み出し、トイレは闇魔術が組み込まれていて、排泄物を消滅させるようになっているようです。キッチンまではないので、食事を作る事は出来ないようですが、それでも十分なテントですね」
セレーネは玄関で靴を脱いで中に上がる。そして、扉を開いて中を確認していた。
「空間に仕切りが出来てる……壁の材質は……何だろう? 結界に似てるかな。それぞれが独立した魔術陣で刻まれているのかな。私達が普通に入れるなら、環境的には普通の外と同じ……テントが建てられる事で空間を作り出す条件起動って事? 形を決めているのは、空間魔術のはず……魔術陣をしっかり確認しないと」
セレーネは、すぐにテントの外に出て、刻まれている魔術陣を確認する。それにマリアが付き添っていった。フェリシアは、ルリナを連れてテント内を見て回っている。
その中で、カノンはテレサに話し掛ける。
「テレサ様は、このようなものを知っておられましたか?」
「いいえ、私も初めて見たわ。そもそもこれが知られているのなら、【空間拡張】がもっと知られているはずよ。それでも開発されたミーシャ様しかお使いになられていなかった。という事は、これもそこまで数はない筈よ。それにしても、初心者用のダンジョンでここまでの魔術道具が出て来るとは思わなかったわ。余程魔力を……」
そこまで言ってから、テレサは言葉を止めた。自分達が十層の休憩時やっていた事を思い出したのだ。
「セレーネの研究時に溢れた魔力をダンジョンが吸収したとしたら?」
「過剰な魔力を一気に吸収したダンジョンが吸収していたテントに魔力をつぎ込んで、お嬢様が研究で使用していた空間魔術を織り込んだという事ですか?」
「ええ。可能性としてはあると思わない?」
「確かにそれはあり得そうですね。ダンジョンの研究において、そのダンジョンに対して有利になるような魔武具が出てくるという事が多いそうです。そのダンジョンで多く使われる魔術の属性が付与される可能性が高いという風に言われています。セレーネ様が空間魔術をお使いになっていた事に加えて、セレーネ様とフェリシア様が氷魔術をお使いになっているので、空間魔術が付いたテントと氷の魔術結晶が出て来たのかもしれません」
すらすらとそう言うスピカに、テレサは内心驚いていた。
「教会には、そんなに色々な種類の論文が置かれているのかしら?」
「ダンジョン研究をしていた神官がいるので、論文が取り寄せられているだけです。基本的には神聖魔術や回復魔術の論文が多いです」
「そういう事。でも、これを見ると、その論文は正しそうね。これに結界でも付いてくれていると有り難いのだけど」
「そうですね。そこは、魔術陣の分析をして確認する必要があるかと」
「そうね。今回は見張りを置く方が良いわ。ルリナも使って良いから。お願いするわね」
「はい。お任せ下さい」
テレサは中に上がってフェリシア達の方に向かう。それを見送ったカノンは、スピカと一緒にテントの外に出た。そこではセレーネが難しい顔をしながら、テントを見ていた。
「お嬢様。如何ですか?」
「滅茶苦茶複雑……前に分析した空間魔術よりも複雑かも……でも、空間魔術の種類は分かった。【空間拡張】を大幅に改変してるものみたい。拡張はしているけど、そこに何かが合わされている感じ。予想では結界魔術の一種かな。守るよりも仕切りにする事に特化している感じかな。これは、私が中を確認した時に感じたものだから、確かじゃないけど。後は、他にもいくつもの魔術が組み合わされているみたい。魔術陣の形が大分歪なんだよね」
セレーネは紙に転写した魔術陣をカノンとスピカに見せる。
「確かに、複数の魔術陣を無理矢理組み合わせたような形ですね」
「うん。もう少し整理出来そうな気がしますね。あっ、ここら辺は回復魔術の一種になっています。この形ですと、効果はそこまで期待出来ませんね。疲労回復と自然治癒能力の微上昇くらいでしょうか」
スピカに言われて、セレーネは簡単にメモをしていく。
「他は!?」
「う~ん……神聖魔術はありませんね。あっ、ここら辺は結界魔術ですが……ほとんど意味を成してませんね。この繋がり方ですと、セレーネ様のおっしゃる通り、境界を作るだけのように思えます」
「でしょ!? これが部屋の仕切りになってると思うの! でも、これで考えるなら、あの正確な部屋はどうやって作ったのかなって。私が作った空間は真四角って感じだったから、仕切りを作る場所の設定が必要……あっ! この結界魔術は【座標指定】と組み合わせているのかな?」
「なるほど。それでしたら、この変な形になっているのも納得出来ますね」
「そっか……結界魔術との組み合わせ……合せるのは【座標指定】ね。他には……」
セレーネは嬉々として分析を始めていく。スピカとマリアで、その手伝いをしていき、カノンは見張りをしていた。セレーネの分析は、テレサが強制的に寝袋に入れるまで続いた。




