小鬼の巣窟下層
それぞれの睡眠を終えたセレーネ達は、再びダンジョンを潜っていく。研究は少し進んだが、完成はしていない。そのまま研究にのめり込んでも良かったが、ダンジョンの奥にあるダンジョンコアに興味があったセレーネは、そのまま進んでいく事を選んだ。
十一層から先は、少しだけゴブリンの数が増えている。なので、セレーネとフェリシアも戦闘が大変になっていた。そのため、マリアやテレサの援護やルリナとカノンが間に入って防御する事、スピカが結界魔術で防ぐという事もあった。
だが、そのおかげもあって、セレーネとフェリシアの戦闘能力は、急激に跳ね上がっていた。
そうして、十五層まで降りてきたセレーネ達は、四体のゴブリンと戦闘していた。セレーネがゴブリンの首を斬り裂き、水魔術で二体を窒息させる。その二体をフェリシアが槍で斬り、セレーネに近づいていたゴブリンの足を風魔術で斬り裂いた。セレーネは、態勢を崩したゴブリンの顎を蹴り上げて、その首を叩き斬る。ゴブリン達がダンジョンに吸収されて灰になるまで、セレーネとフェリシアは油断しなかった。
「ふぅ……段々と数が増えてる気がする」
ここまでの戦闘回数は、確実に十層より上にいた時よりも増えていた。十五層に来て三十分もしない間に十体以上のゴブリンと戦っていた。
「ダンジョンは基本的に下層になる程、魔物が増えていきます。なので、お嬢様が感じている事は正解ですね」
「何で増えていくの?」
安全層から降りてきて、本当に大変になっているので、セレーネは疑問の答えを知りたくなりカノンに訊いた。
「ダンジョンコアに近い方が、魔力が濃くなるので、その分魔物も増えるのです。ただし、これは基本的なもので、ダンジョンによっては、より強い個体が出るようになるところもあります。ダンジョンの特色となりますね」
「ふ~ん……どうやって見極めるの?」
「入ってみるしか方法はありません」
「へぇ~、大変だね」
誰も攻略を終えていないダンジョンであれば、その特色は攻略を終えた冒険者が報告するまで判明しない。なので、そのダンジョンが魔物の数が増えるのか、魔物の強さが変わるのか分からないダンジョンも確かに存在する。冒険者達の大変さを知ったセレーネは、少しだけ冒険者を尊敬し始めていた。
「はい。それと、またゴブリンが来ます。今度は六体ですね」
「六!? もっと効率良く動かないと」
セレーネは、氷の剣の刃毀れを直して準備をする。フェリシアも同様に氷の槍を直して準備をする。そして、ゆっくりと進んでいくと、六体のゴブリンが出て来る。
セレーネは、即座に動いて気付いていなかった一体の首を刎ねて、近くにいた一体に【水球】を飛ばして窒息させる。そんなセレーネの背後から飛び掛かってくるゴブリンは、走りながらフェリシアが放った【氷槍】に貫かれた。
その間に、近くにいた窒息差せていないゴブリンの首にセレーネが氷の剣を突き刺す。同時に、もう一体のゴブリンをフェリシアが突き刺して倒す。
最後に、セレーネが窒息させているゴブリンにトドメを刺して終わりとなる。
「ふぅ……ん?」
ゴブリンを倒したセレーネは、そこから繋がっている分かれ道の先に宝箱が置かれているのが見えた。
「カノン、宝箱」
「珍しいですね。初心者でも潜りやすいダンジョンでは、宝箱はあまり生成されないのですが」
「何で?」
「中身となる武具が吸収されにくいからです。なので、魔武具がある可能性は低いですね」
ダンジョンが吸収する装備が少ないために、宝箱に入る武具も少なくなる。その結果、ダンジョン側も宝箱の生成が思ったように出来ず、宝箱自体の数も少なくなる。時折定期的に武具を放置して、わざと魔武具を増やそうとする者がいるが、そういった場合は、もっと内部の魔力が強いダンジョンに置いて、より強い魔武具にしようとするので、初心者ダンジョンではそうそう行われない。
「じゃあ、何が入ってるの?」
「武具はなくとも、冒険者達が捨てたゴミなどがあります。それらが魔力を受けて変異したものやそもそも別の何かに変わったものなどがありますね」
「ふ~ん……はっ! もしかして、私達が出した……」
「排泄物も吸収されていますが、基本的には別のものに変わっているはずですね。そのままで魔力を吸収して出て来たものはなかったはずです」
生物である以上、セレーネ達も排泄を行わなければならない。ダンジョンに寝泊まりするという事は、ダンジョン内でやる必要があるという事になる。そういった事がダンジョンで続けられていれば、いずれは排泄物だらけの汚い場所になるが、ダンジョンが吸収してくれるので、比較的清潔に保たれていた。
セレーネは宝箱の中身が、そういった排泄物から生成されているのではと考えてしまった。そして、それは正しいと言われている。
「汚くない?」
「成分的には、全く別のものになっていますから、汚くはないはずです。さすが、そのまま出て来たり臭いが移っていたりすれば考えものですが、そうではないので、気にする必要はないと思います」
「そうなんだ」
実際、排泄物がそのまま入っていたという報告はなく、排泄物だったと思われるような証拠が残ったものも出てきてはいなかった。宝箱に入っているものが排泄物だったと言われているのは、ダンジョンが吸収したものの中で、一番多いものがそれだろうと考えられているからだった。
セレーネは、あまり気が進まなかったが、開けないのも勿体ないので、宝箱を開いた。すると、中にはテントのようなものが入っていた。
「何これ?」
「テントっぽいですが、特殊なものになっているのでしょうか?」
セレーネとスピカでテント広げる。そのテントをテレサが調べていった。
「内部空間が拡張されるテントみたいね。丁度セレーネが使っている【空間拡張】のようなものが付与されているわ。条件起動で制御している魔術陣というところかしら。他にも回復魔術らしきものもあるように見えるわ」
「何それ? どういう事?」
「中が見た目以上に広く、内部にいるだけで回復効果があると考えるのが良いんじゃないかしら」
「変なテント……でも、条件起動か……」
セレーネは念のため紙にメモをしておいた。
「後は……何これ?」
「魔術結晶ですね。内部に魔術陣が刻まれている結晶です。魔武具がない宝箱には良く入っているものみたいですね。ここから魔術道具を作る事もありますから、物によっては高く売れます」
「ふ~ん……見にくいなぁ」
「貸しなさい」
テレサが手を出すので、セレーネはテレサに魔術結晶を預ける。テレサは、目の前に魔術陣を出して魔術結晶を見た。
「氷系の魔術陣ね」
「氷? じゃあ、フェリシアのだね」
「セレーネが見つけたのだから、セレーネが貰って良いわよ?」
「じゃあ、私はフェリシアにあげるから受け取ってね」
「ありがとう」
自分の物になった後に、フェリシアにあげれば、フェリシアも遠慮する必要がなくなる。セレーネのあげたいと思う気持ちを汲んだフェリシアは、その魔術結晶を受け取って鞄に仕舞った。
宝箱の中身を回収したセレーネ達は最下層を目指して進んでいく。




