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先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい  作者: 月輪林檎
学園高等部

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ダンジョンの壁

 翌日。セレーネは、ダンジョンでゴブリンを倒しながら、ダンジョンという空間を調べて行く。


「ねぇ、スピカ。この壁は壊せるの?」

「はい。そこから資源を取る事もありますので、破壊は可能です。ですが、魔術に対する耐性が高く、ツルハシで地道に削る方が壊しやすいです」

「魔術への耐性は、ダンジョンの生まれ方が関係してるのかな?」


 そう聞かれて、スピカは一拍考えてから答える。


「確かに、そう考えられますね。濃い魔力に阻まれて魔術が通用しなくなっているのかもしれません。それを突破出来るだけの魔力を使えば壊せますが」

「じゃあ、濃い魔力で生成した空間は、それなりの強度があるって仮定出来るかな?」

「魔力を集めた際に出来上がるものがダンジョンではないのなら、そう仮定出来るでしょう」

「危険物の処理にも利用出来るかもしれない……」


 セレーネは紙切れに手早くメモする。


「試してみて良い?」

「う~ん……カノンに許可を取ってからにしましょう」


 そう言われて、セレーネはカノンの方を見る。会話を聞いていたカノンは、少し考えてから、セレーネを見て頷いた。


「では、あの奥の壁に魔術を放ってください。スピカは、結界の準備。テレサ様とマリアさんは背後の警戒を」

「うん」

「ええ」

「分かりました」


 指示されていないルリナはフェリシアの前に移動して盾を構える。言われずとも自分の役割は理解していた。


「何で壊せば良い?」

「物質系は効果が分かりにくいので、威力を強めた風魔術にしましょう」

「分かった」


 セレーネは、風魔術【風槌(ふうつい)】を放つ。バスケットボール程の大きさの風が勢いよく飛んでいく。見た目からは分からないが、その風の密度は異常に高い。人に命中すれば骨折は免れないと思わせるような激しい音と共に【風槌】がダンジョンの壁に当たる。

 ダンジョンの壁は、軽く凹み、壁を構成していた岩の一部が落ちていく。だが、本来の威力であれば、被害はもっと大きくなったと考えられる。そして、ダンジョンの壁は少しずつ修復されていた。時間の巻き戻しというよりも、壁の裏側から修復しているような形だった。

 つまり、落ちた岩などは残ったままだ。


「ああ、だから資源が採れるんだ」


 壁の直り方を見て、セレーネはそう言った。時間の巻き戻しのように直るのであれば、資源も同じように巻き戻ってしまう。だが、新しく壁が出来ていくというのであれば、それも変わってくる。落ちたものが残るので、採取した資源もそのまま回収出来るのだ。


「でも、それ以外分からないや。直る時に魔力が動いたような感じがしたけど」

「そうね。私も感じたわ。ダンジョンに溜め込まれた魔力は、本来ダンジョンの維持に使われるのかもしれないわね。でも、ダンジョンをコアによる破壊ではなく、物理的に破壊しようとする人は少ないから、その魔力が宝箱に与えられるようになったという形かしら」

「ダンジョン自体も魔力を溜め込み過ぎるのは無理って事?」

「それはあり得ますね。余剰分の魔力を魔武具の形で発散しているのかもしれません。それが追いつかなくなれば、今度は魔物を大量に生み出し続ける事で発散する。これがダンジョンの性質なのかもしれませんね」


 スピカの説明に、セレーネとマリアは納得する。ダンジョンについての知識は増えているが、まだ別空間に関しては分かっていない。


「ねぇ、カノン。今度至近距離でやっても良い?」

「それは危険なので、私が代わりにやります。魔術で破壊すれば良いのですね?」

「うん。カノンが危険じゃない範囲で良いよ」

「はい」


 カノンは壁の近くに行き、スピカ達がセレーネを守るために準備する。それを確認してから、カノンは壁に向かってセレーネ同様【風槌】を放った。魔力をかなり込めたので、セレーネの【風槌】よりも強い一撃になり、壁に大きく凹み、亀裂が入っていく。セレーネはすぐにその場に近づいて壁の様子を確認する。


「奥までは見えないか」

「資源を調達する際に、壁の破壊は幾度もされているはずですが、壁の向こう側を見たという話は聞きません。スピカはどう?」

「私が読んだ論文にも、その事は書いてなかったかな。そもそも資源調達目的での壁破壊は、表面上に留まるらしいです。奥に行けば行く程壁が固くなるという報告を聞いた事があります。ですが、しっかりと確かめられた報告を読んだ事がないので、眉唾物と言っても良いかもしれません」


 最初はカノンに、後半はセレーネに対して答える。


「そっか……今確かめるのは?」

「そうですね……魔術を用いなくて良いのであれば、私がやります」

「それで良いよ。魔術に対する耐性は分かったから」

「では、お離れください」


 セレーネは、スピカの隣に移動する。

 それを見てから、カノンは拳に魔力を集中させて、ダンジョンの壁を思いっきり殴る。激しい振動と共に、壁に大きな亀裂が入る。この一撃の方が魔術を使うよりも壁に大きな割れ目を作っていた。

 カノンは、更に壁の破壊を続けていく。


「本当に魔術への耐性が強いんだ」

「あれは、カノンの腕力も異常だから成り立っているだけよ。また身体強化の腕を上げたわね」


 テレサの言う通り、これはカノンだから出来ている事だった。ルリナでは、これの十分の一程しか破壊出来ないだろう。カノンが眷属である事と同時に身体強化の練度が高いというのが、大きな要因となっていた。

 そうしてどんどん奥へと進んでいく。すると、三十センチ程で最初よりも壁を掘る事が出来なくなった。そして、一メートルもすると、カノンでも壊せない壁が現れた。


「これは……これまでとは別の壁?」

「カノン、周りをもう少し削れる?」

「はい」


 カノンが穴を広げて奥を見やすくする。全員が興味を持っているからか、一斉にカノンが開けた穴を見ていた。そこには垂直に立つ壁が見える。


「何これ?」

「触った感じは弾力のある壁ね」

「お嬢様!? 無用心に触らないでください!」


 平然とした顔で新しく現れた壁を触っていたテレサに、ルリナが慌てて叱っていた。テレサは、ちらっとルリナを見てから頭を撫でる。そうされると、ルリナも強く出られなくなった。


「何で弾力があるの?」

「これこそが高密度の魔力ではないでしょうか?」


 カノンは、手の甲で少し力を込めて壁を叩きながらそう言う。ダンジョンの成り立ちから考えた事だ。


「魔力は集めると弾力を持つって事?」

「そもそも魔力が普通の壁になるには、結界のように硬質化する必要があります。この壁は、壁と呼ぶには弾力が強すぎるので、カノンの考えで合っているかもしれませんね」


 スピカも壁を触って状態を確認してから答える。


「魔力自体は感じますけど、ダンジョンの壁なんて、大体似たようなものですし、案外合っているかもしれませんよ」


 マリアもカノンとスピカの意見と同意見だった。


「つまり、これは壁じゃなくて、ダンジョンの端っこみたいなものって事? ダンジョンがあるのは、こういう高密度の魔力の中?」

「そう考えられるわよね。でも、それだとまた疑問が出て来るわ」

「うん。この高密度の魔力がある場所がどこかって事でしょ?」


 セレーネは、フェリシアの考えを言い当てる。高密度の魔力の中にダンジョンがあるという仮説自体は良いが、問題はその高密度の魔力がある空間がどこなのかという事だった。その答えは、この魔力の向こう。だが、この壁に魔術は通じない。それは、テレサがいつの間にか試していたので判明した。


「お嬢様!?」

「検証は必要でしょう? こんなところまで掘る事は、そう何度もある事じゃないもの。それにしても、物理も魔術も通用しないとなると、調べる術がないわね。魔力を単体で流し込んでも意味がないみたいね」

「えぇ~……ん?」


 残念がるセレーネの目の前で高密度の魔力が揺れる。そして、その内側から岩壁がせり出して来た。壁の修復が始まったのだ。その速度はかなり遅い。傷付いた範囲が広いため修復自体が追いついていないのだ。


「新しい壁が出て来た」

「壁そのものがなくなると、そういう風に直すのね。まだ壁がある場所は、そういう風に直っていないもの」

「本当だ。それに新しい壁と古い壁で隙間があるよ」

「そこは後で繋げるように修復するのでしょう。ですが、これで先程の弾力のあるものが魔力という事が分かりましたね」

「うん。取り敢えず、メモしておこ」


 セレーネは、今の現象などに関してメモをしていく。セレーネ自身の研究に直接関係するか分からないが、これがヒントになるかもしれないからだ。横からテレサやマリアが気付いた事を教えてくれるので、それもメモをしていく。

 突発的な検証だったが、それでも少しは実りのある検証が出来たはずだとセレーネは考える事にした。

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