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笑いの税金

 ある日、政府が突然「笑いの税金」を導入した。


 笑うたびに、額に埋め込まれたチップが料金を計算し、自動的に銀行口座から税金が引き落とされるシステムだ。


 微笑みは1,000円、クスクス笑いは2,000円、爆笑は5,000円。


 支払えない人には「笑顔没収令」が発動して、顔面の筋肉が麻痺し、二度と笑えなくなる。


 なぜこんな税金が導入されたのか?

 政府はこう説明する。


「笑いは公共資源で、過度に消費すると社会のユーモアが枯渇する」


 誰も本気で信じなかったが、嘘ではなかった。


 公務員のタカシは、内心喜んだ。


 彼はとても真面目な性格で、滅多に笑わない。

 職場で冗談を言われても、「ふむ」と頷くだけだ。


 タカシは「笑顔税」の導入を聞いて、これで周りの人間も自分と同じように真面目に働くはずだ、と思った。


 税が導入された初日、タカシは街を歩いた。


 いつも賑やかなカフェは静まり返り、人々はポーカーフェイスでコーヒーを啜っている。


 誰かがくしゃみをすると、周囲がどよめいた。「あれ、笑い検知されるかも」と全員が息を止める。くしゃみは笑いじゃないが、時々「アハッ」みたいな音が出ると誤検知されるらしい。


 一人の男が新聞の漫画を見てクスクス笑いしてしまい、すぐに顔をしかめた。今ので2,000円持って行かれた。


 タカシは満足げに頷いた。そして、「笑いのない世界は、とてもクールで効率的だ。ついに時代が自分に追いついた」とさえ思った。


 しかし、数日後、異変が起きた。


 笑いを我慢する人々が、ストレスで涙を流し始めたのだ。


 涙は最初、無表情のまま零れ落ちるだけだったが、徐々に奇妙な変化を起こした。

 涙が頰を伝うと、顔の筋肉が勝手に引きつり、笑いのように見えるようになった。


 政府のチップはそれを「擬似笑い」と判断し、税を課した。


 涙一滴につき10,000円。

 支払えない人は、今度は「涙没収令」で、涙腺が塞がれ、目がカラカラの砂漠みたいになった。


 タカシは最初、涙など流さない自信があった。


 だが、職場で上司のミスを指摘された時、悔しさで目が潤んだ。

 涙がポロポロとこぼれた。止めようとすればするほど、余計に溢れた。


 チップがピッと鳴り、二十万円引かれた。


「これは涙じゃない。俺は……ロボットみたいに、感情なんてないはずだ」


 タカシは税務署に抗議したが、無駄だった。


 街中では、涙を拭く人が増えた。

 すると、拭く動作がまた笑いに似ているということで、税がかかるようになった。

 悪循環だった。


 ついに、人々はマスクを着用し始め、顔を隠したが、政府は「マスク税」まで新設してしまった。

 顔を隠す行為は笑いの隠ぺいとみなされ、マスク1枚につき15,000円徴収された。


 タカシもいよいよ嫌になり、ため息をついた——ため息は無料でよかった。


 タカシは耐えきれなくなり、笑いを我慢するためのトレーニングを始めた。鏡の前で無表情を練習するが、鏡の中の自分が少しずつ歪んで見える。


「おいおい、俺の顔がピカソの絵みたいになってるぞ……」


 ある夜、タカシは夢を見た。


 笑いのない世界で、みんなが石像のように固まっている。

 タカシが触ると、石像は静かに崩れ、白い粉末となって空に舞った。

 やがて雲になり、雨として降り注ぐ。雨は、確かに涙の味がした。


 でも、雨が地面に落ちると、チップが反応。「雨税、1ミリにつき1円」。


 目覚めると、タカシは笑っていた。


 いや、笑おうとしたが、顔が動かない。


 昨日の涙で税を払いきれず、笑顔が没収されていたのだ。

 鏡を見ると、自分の顔は平らな板のようで、まるでパンケーキだった。


 感情が湧かない。


 街に出ると、人々は皆同じ顔をしている。笑いも涙もなく、ただ歩くだけ。

 時々、誰かが転んで「イテッ!」と言うが、それさえ税対象だ。「痛み税、20,000円」。


 政府は満足した。税収は過去最高で、財務大臣が記者会見で「国民の皆さん、笑ってくれてありがとう!」と言った——もちろん、彼は税免除特権持ちだ。


「これが本当の税金か。金じゃない。感情そのものを払う代償だ。でも、笑えない世界で、せめて心の中ではクスクス笑おう」


 タカシはひとり呟いて、心の中で今の状況を笑った。

 幸いにも、心の中の笑いは無料だった。



 ……そして一か月後、政府は「思考税」を導入した。



 「思考税」は静かに施行された。

 考えが浮かんだ瞬間、額のチップが微かに熱を持ち、課税額が表示される。

 単純な思考は安く、疑問は高く、批判は桁違いだった。


 人々は考えないために白い壁を見つめ、数字のない時計を眺め、意味のない単語を頭の中で反芻した。

 それでも、ふとした拍子に「おかしい」という考えが芽生え、そのたびに残高は削られていく。


 タカシは無表情のまま立ち尽くし、最後の残高がゼロになる直前、ほんの一瞬だけこう思った――「次は、存在税だな」。チップが鳴った。

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