表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

コブラの蒲焼き

〈嗚呼現代蓑虫鳴くで句作れず 涙次〉



【ⅰ】


尾崎一蝶齋、* 道場の再興の為にはカネが要る。彼は「口だけ番長」なので、特別顧問とは云へど、カンテラ事務所では大したサラリーを取つてゐなかつた。

で、アルバイト。豊島區は目白のお山に、シャトー・トリグリムと云ふ、西洋剣術を教へてゐる團體の道場がある。三銃士の如き、フランス王政時代よりの傅統を守つた「洋の」剣術。そこでは甲冑を着けての「和の」剣術も教へてゐる。その監修者として、尾崎は勤めてゐるのだ。それだけでは、ない。

新宿歌舞伎町に映画スターウォーズ・シリーズでお馴染みのちやんばらを、誰でも手輕に樂しめると云ふ、ライトセイバー道場なるものがある。其処でも尾崎、審判員として雇はれてゐるのだ。



* 当該シリーズ第80話參照。



【ⅱ】


まあ、アルバイトは大目に見やう- とカンテラ。だが、その後がいけなかつた。尾崎、シャトー・トリグリムの利用者にも、ライトセイバー道場の利用者にも、「本当に斬れる」眞剣あるよ、と「惡魔の」囁きを吹き込んでゐた。

金尾に次ぐ、内部の造叛者か(前々回參照)... カンテラ、その話を、お目付役で様子を見守つてゐた(尾崎は「バイトして來る」、と云つたきり、事務所には帰つて來なかつた)「シュー・シャイン」から聞いて、げんなりした。とまあ、放つても置けないので、じろさんに頼んで、尾崎を捕縛して貰つた。



【ⅲ】


然も尾崎は金尾と違つて、自分の非を認めない。「たゞ、一般の方々にも剣術の奥義を知つて慾しかつたゞけ」。その「奥義」がどんな危険を孕んでゐるか、と云ふ事は眼中にない。幾ら「法螺吹き一蝶齋」であつても、許されざる事もあるのだ。

この話に裏はあるのか? カンテラが氣を回したのは、彼は幾ら何でもこんな事をする人間ではない、と云ふ「最後の」信頼から。カネになるよ、と【魔】に操られてゐるんぢやないかと、カンテラ、心配してゐた譯である。



※※※※


-借金〈山の手に我を育てたカネの出し金庫ありけり今は昔よ 平手みき〉



【ⅳ】


カンテラ、魔界に* 透明人間化した涙坐を潜入させた。まあ、潜入捜査官、と云つた役どころである。魔界では、「尾崎の莫迦が」と嘲笑が渦卷いてゐた。だうやら「ザ・コブラ」と云ふ【魔】にやられたらしい。一味一同、金尾の嫌な思ひ出があるので、憑依されてゐる、と云つても、安堵出來ない... だうせ「ニュータイプ【魔】」だ。タロウは吠えたが、安心は出來ない。カンテラ、急ぎ「ザ・コブラ」なる【魔】について、テオにデータを取り寄せさせた。



* 当該シリーズ第100話(その他)參照。



【ⅴ】


テオ「うーん」と唸つてゐる。データは入手出來たものゝ、「だうすれば憑依を外せるか」と云ふ點で、躓いてゐる-「ザ・コブラ」、その名の通り、大コブラの姿をした【魔】である。こいつに嚙まれると、【魔】に命ぜられた事に忠實な、ロボット狀態に陥る、と云ふ。その縛めを解くには、もう一度嚙まれるしかないのだが、その際* アナフィラキシー・ショックを伴ふ。同じ蜂に二度刺されたが如き症狀である。要するに、生命の危機が伴ふ。

魔界には、今度は「ぴゆうちやん」が派遣された。彼は鎌鼬。鼬であるからして、蛇の扱ひに慣れてゐる。蛇捕獲専用の袋に「ザ・コブラ」を入れて、帰つて來た。



【ⅵ】


その「ザ・コブラ」に、カンテラ、剣を突き付けた。「もう一度、尾崎を嚙め。さもないと、開きにして蒲焼きにしちまふぞ!」-「へゝ、いゝのかいカンテラの旦那。アナフィラキシー・ショックは怖くないのかい?」-「元はと云へば、尾崎が自分で撒いた種だ。死んで元々なのさ。さあ、がぶつと嚙め」-「ザ・コブラ」、澁々云ふ通りにした。



【ⅶ】


この件は、尾崎の師範代・上総情にも報せなかつた。自分でした事の責任は、自ら取る。これ大人の約束事である。「ザ・コブラ」に嚙まれると尾崎、びくつと躰を震はせたが、直ぐに事切れた。「あーあ、死んぢやつた。云はんこつちやない」-と「ザ・コブラ」。ところが、こゝで安保さん製作の、加圧式電氣ショック装置の登場である。尾崎の心臓に、アナフィラキシー・ショックを上回る、ショックを與へる- どくつどくつどくつ。と、尾崎、ふと蘇生した。どくんどくんどくん...



【ⅷ】


上総に連絡。この後の事は愛弟子に任せて置かう。カンテラ、「ザ・コブラ」を開きにして蒲焼きにしてしまつた。約束を守らなかつた譯であるが、彼は旨さうにその蒲焼きを食べてゐた(精が付く、と)、とさ。



※※※※


〈芋嵐女流は主に美の事を 涙次〉



 お仕舞ひ。因みに尾崎、それ以降寢付いた譯だが、流石になかなか床上げ出來なかつた、と云ふ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ