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ゴールデンウィークが明けた頃だった。ある雨の日の平日、弓子は仕事を終えて、帰り支度をしていた。自分の鞄からスマートフォンを取り出すと、1件の着信があった。
連絡先は非表示になっていた。時刻は、16時41分と表示されていた。
「何だろう⋯⋯」
弓子は少し不審に思った。しかし、こちらからは何もできないため、深くは気に留めなかった。
その次の日も雨だった。仕事が休みだった弓子は、自分の部屋で、ゆっくり過ごしていた。夕方になり、買い物に出掛けようと立ち上がったときだった。
【プルルルル⋯⋯プルルルル⋯⋯】
不意にスマートフォンが鳴った。
弓子はスマートフォンを手に取り、画面を見た。非通知と表示されていた。時刻は、16時41分だった。
「これ、昨日の着信と同じ⋯⋯?」
弓子はその場で立ち尽くしながら、少しの間、目の前で鳴りやまないスマートフォンを見つめていた。
非通知なんて、一体誰からだろう。そう思いながら、弓子はスマートフォンを手に取った。そして、ゆっくりと通話の表示の部分に触れた。
「⋯⋯もしもし?」
弓子は、慎重に話しかけ、反応を待った。しかし、スマートフォンの向こう側からの返答は無かった。
「あの、もしもし? どちら様ですか?」
弓子はもう一度、話しかけた。しかし、やはり向こうからの反応はなかった。
耳をすませると、遠くの方で、かすかに水の流れる音が聞こえていた。
「ちょっと、何なの?」
弓子は、スマートフォンの画面を眺めた。非通知という文字が、なにやら不気味に感じた。弓子はそのまま、通話を切った。
しかしその後も、その不気味な着信は何度か続いた。着信があるのは決まって雨の日だった。そして、時刻も全て16時41分で同時刻だった。
「ちょっと何よ、これ。誰のいたずらよ!」
弓子は、家族や職場の同僚に、今回の着信のことを相談した。そして、弓子の母親からスマートフォンの解約を勧められ、早速その通りにした。
その日から、その不気味な着信が入ることは無くなった。