表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

未来に吹く風

春の陽射しがやわらかく差し込む図書館の窓際で、詩織はノートに何かを書いていた。


「“あなたの声が風になった”

そう言われた日のことを、私は一生忘れないだろう」


それは詩織が書いたエッセイの冒頭だった。


進路を決める作文の課題。

ほかの子たちは志望理由や夢を書くけれど、詩織は風について書くことにした。


あの時、公園で出会った少年。

風のように現れて、風のようにいなくなった。

けれど彼の言葉は、ずっと詩織の中で生きていた。


「君がいると、風の流れが変わるよ」


誰かの役に立つとか、特別なことをするとか、そういう“役割”ではない。

“ただ、そこにいる”こと。

“ただ、感じて、届ける”こと。

それが、詩織の選んだ未来だった。


「わたし、文章を書いていきたい」


進路指導の面談でそう言ったとき、先生は少し驚いた顔をしたが、すぐにうなずいてくれた。


「伝えたいことがあるんだね?」


「はい。小さなことでも、言葉にできたら、それが誰かの風になるかもしれないから」



卒業式の日、透が声をかけてくれた。


「しおり。……あのとき、教えてくれてありがとう」


「え?」


「“言葉は風みたい”って。

あれからずっと、僕も誰かの風になれるかもしれないって思ってる」


詩織は少し驚いて、でもすぐに微笑んだ。


「じゃあ、これからもお互い、風になろうね」


透は照れくさそうに頷いた。



春の終わり、詩織は小さな出版社のインターンとして、文章を届ける仕事を始めた。

まだ何者でもない。けれど、何者にもなれる風のような存在。


今日も彼女は誰かの心に、そっと吹いている。


「私の役割は、たぶん“風のように誰かをそっと動かすこと”

名もなき風の力を、私は信じている」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ