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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢の見る『夢』のゆくえ

作者: うなぎ358


 幼馴染のマモル君は、いつでも私の後をついて歩いた。小学生になっても変わらず鳥のヒナのように、ぴょこぴょこついてきた。

 頼りにされるのは嬉しいしマモル君は、くりんとした黒目も、ふわふわ癖毛もお人形みたいに可愛い。半年だけとはいえ私の方がお姉さんだからなんて思いながら、ちょっぴり大人ぶったりなんかしてマモル君の世話をやいた。そんな私達を、周りの大人たちも微笑ましそうに見ていた。



「マモル君、もうすぐ私達は中学生なんだから、それぞれの友達を作った方がいいと思うの」


 小学校の卒業式が終わって、マモル君の家族と私の家族で、卒業祝いの夕食会をした後の別れ際、相変わらず私の後ろをついて歩くマモル君を振り返って告げる。


「うん。分かった。でもなんで突然? 理由、聞いてもいい?」


 本当は内緒にしたかった。けど聞かれたのに黙ってるのは変な気がした。


「私ね。友達とアイドルオーディション受けたんだ。それでね二人共、合格したの」

「夢お姉ちゃん、アイドルになるの?」

「うん! 私の”夢”なの! その友達とユニットを組んでアイドルになるの。でね学校が終わった後にレッスンがあって、マモル君とは会えなくなるんだ」


 マネージャーに、恋愛禁止と言われてしまったのだ。幼馴染だったとしても、男の子と一緒にいるのはマズイとかなんとか……。周りが騒いでも私は気にしないって伝えたけど駄目だった。


「……夢お姉ちゃん可愛いから人気出ちゃうね」


 少し肩を震わせ驚いた顔をしてから、マモル君は目をふせて俯いた。いつでも一緒に、それこそ両親といるよりも長い時間を共に過ごしてきたから、私も寂しく感じた。


「応援してくれる?」

「もちろんだよ。アイドルになっても、夢ちゃんはボクの自慢のお姉ちゃんだからね!」

「マモル君ありがとう!」


 私がいつものように、マモル君の頭をくしゃりと撫でる。マモル君は嬉しそうに顔を綻ばせた。



 上京して寮に入って、中学、高校も通った。放課後はライブとか握手会で地方を飛び回る。忙しすぎる毎日。


 それこそマネージャーの顔さえ、まともに見ることができないくらいの忙しさ。


 だからマモル君がいない寂しさも感じる暇もなく、次第に”一人でいる事”にも慣れていった。


 たまに会うマネージャーは帽子を目深に被り、目線すら合わない。


 もしかしたら言葉すら交わしたことが無かったかもしれない。けどやるべき仕事は無言で黙々とこなす。


 有能だけど影が薄い。


 マネージャーの顔だけじゃなく、声さえ知らないのは忙しいからだって、深く考えもしなかった。


 いや、違和感を感じないように、ただ忙しいと思い込もうとしてただけなのかもしれない?



「ついに大きなステージに立てるのね!」


 スポットライトに反射して、キラキラ輝くビーズが散りばめられたピンクの可愛い衣装をヒラヒラさせて、ステージの上を同系色のヒールをコツコツ鳴らし歩く。目の前には数えきれない程の客席が並ぶ。


 憧れのステージに立つと同時に、私の足元に”影”が無いことに気がついてしまった。


 更に言えば観客は、一人もいない。


「”夢”を見る”夢お姉ちゃん”は大好き」


 突然、響いた声に、振り返るとマネージャーが立っている。


「その声! まさか!?」


 マネージャーは、被っていた帽子を脱ぎ床に放った。


 顔が露わになる。


 成長はしてるけど、私のよく知った顔。


「でもね。ボクを見ない”夢お姉ちゃん”は大嫌い」

「マモル君!!」


 一歩、一歩、マモル君は、近づいてくる。


 ———遠くから、けたたましいサイレンの音が、近づいてくる。


「だから”夢”ごと”夢お姉ちゃん”の全部ボクが貰ったんだよ」


 マモル君は、ふわりと私を抱きしめた。


 瞬間、忘れて、いや、忘れるようにマモル君が私に暗示をかけた記憶がホドカレテいく。


 そうだった。


 私は中学の入学式のあと、初めてスタジオでレッスンを友達と受けた帰り、自宅の前にマモル君がいて、そして……。


「”夢お姉ちゃん”は永遠に、ボクだけのアイドルじゃなきゃ駄目なんだよ」

「私はマモル君のアイドルにはなれないよ」


 口元はニタニタ微笑み、目は爛々と昏い光を宿していたマモル君の表情が、私の言葉でヒビ割れたように醜く歪む。


「どうしてそんなこと言うんだ! 夢ちゃんは夢お姉ちゃんは、そんな酷いことボクに言ったりしない!」


 激しく頭を左右に振るマモル君の頬をソッと撫でる。


「どうして? って、そんなのマモル君は分かっているでしょ。私は、もうここに存在していないんだってことを」

「分からないよ! だって今、ボクの腕の中にいるじゃないか!!」


 マモル君の言葉に、私は首を振る。


「今の私は”夢の残滓”なの。もうすぐ消えてなくなっていくわ」

「温かいし触れる! 消えるなんて信じない!!」


 私が温かいとしたら、それはもしかしたら”魂の温度”なんだろう。


「マモル君。私は貴方に殺されたの」


 いつのまにか傍らに居なくなっていた”本当の”マネージャーとユニットを組んだ友達。


 ———このステージのある建物の前で、サイレンの音が鳴り止む。


「嫌だ! 夢お姉ちゃんはボクの! ボクだけのモノなんだ!! 死ぬなんて、あり得ない」


 周りが消えたんじゃない。


「事実は変わらないんだよ」


 私が死んだから、私が世界から消えたから、私が未来を知らないから、周りが”ツギハギ”だらけだったんだ。


 ———数十人の刑事達が、ドタバタとステージに駆け上がって来て、私達、いや、マモル君を取り囲む。


 魂が抜けたように呆然とした表情でガクリと膝をつくマモル君は、無抵抗のまま刑事達に捕まった。




 数日後。


 私の白骨化した遺体は、マモル君の家の庭の花壇から発見された。



 “夢”の見ていた夢は今、静かに暗く沈むように終わった……。


 

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