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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

超童話シリーズ

竹取物語の超おじいさん

作者: 日向 風花

 昔々あるところに、竹をとって細工物を作る名人のおじいさんがいました。どれくらい名人かというと、おじいさんがトン、と竹を手刀でたたくと竹は自ら竹ひごになりたがっていたかのようにバラバラになるほどでした。


「いや器用ってレベルじゃねーぞ」


「はて、こちらから何か聞こえたような」


地の文へのツッコミが聞こえたような気がしておじいさんが竹藪を探してみると、なんか竹が神々しくぺかーっと光っておりました。


「なんと珍しい。この竹で細工物を作れば婆さんに楽をさせてやれそうじゃ」


おじいさんは妻への思いやりに満ちたセリフを吐きながら、人も殺せそうな手つきで光る竹をトンしました。


「ひっ!!!」


何やら悲鳴が聞こえたのでおじいさんがのぞき込んでみると、ばらばらになった竹の中で小さな女の子が震えているではありませんか。


「なんとかわいらしい女の子だろう。天の神様が子のいないわしらを憐れんで授けてくださったに違いない」


「いやちげーから。ウチ、やんちゃしてしばらく下界で反省しろって言われてきた月の住人だし」


「ふむ?ふつうは十四歳くらいで通る道なのに早熟な子じゃのぅ」


「中二病じゃねぇし!離せ人さらいー!!!」


「ふぉふぉふぉ、元気な子じゃ」


女の子は哀れ、おじいさんの家に連れていかれてしまいました。


 見た目だけはかわいらしい女の子を見て、おばあさんも大喜び。二人は女の子を大切に育てることにしました。


その後、おじいさんが竹を取りに行くと竹の中から金銀財宝が出てくることがあり、おじいさんはたちまち立派な屋敷に住む大金持ちになりました。


「それもみんなこの子のおかげじゃ」


「なるべく良い暮らしをさせてあげたいわ」


善良なおじいさんとおばあさんは突然得た大金で私腹を肥やすこともなく、女の子にニート生活を提供しました。


やがて女の子は三か月くらいで(黙っていれば)絶世の美女に成長し、その美しさからかぐや姫と呼ばれるようになりました。


子育ての経験がなくてもわかるくらい明らかにおかしな成長速度ですが、おじいさんとおばあさんは姫を気味悪がることなく、変わらぬ愛情を注ぎます。


「まぁ、ばあちゃんのごはん美味しいし、キレイな着物いっぱい作ってもらったし、働かなくていいからいてあげるけどさ」


かぐや姫もすっかり二人に絆されていました。



 ところが、かぐや姫の美しさを聞いた若者たちは一目、姫の姿を見たいとおじいさんの家に殺到するようになりました。中でも五人の貴公子が、熱心に結婚の申し入れをします。


「私たちもいつまで生きていられるかわからないし、五人の中からお婿さんを選んだらどうかしら?」


「えー、やだー。顔も知らん男と結婚とかマジ無理―。きもーい」


優しいけれど意外とシビアなところがあるおばあさんの提案に、かぐや姫がごねだしました。おじいさんも援護します。


「そうじゃそうじゃ、この子が「お前を愛することはない」とか「この婚約は破棄する!」なんて言われたらどうするんじゃ!」


「おじいさん、なろー小説の読みすぎですよ」


「この時代になろー小説ないじゃろ!!!」


「困った人ですねぇ」


そのやり取りを聞いていたかぐや姫は、気まずそうに視線を彷徨わせました。態度がでかくて自己中心的なこの姫も、優しいおばあさんを困らせたいわけではないのです。


「じゃぁさ、こういうのはどう?用意するのが超めんどい宝物を持って来いって無理難題を吹っかけてあきらめさせるの」


「うーん、それなら相手方の本気を試すこともできるし、いいかしら……」


「じゃぁ決まりね」


それを聞いたおじいさんは驚愕しました。


(待て、それで万が一本当に宝物を持ってきたらどうする気じゃ!!!)


女子二人はもはや頼りになりません。おじいさんは立ち上がりました。五人の貴公子にそれぞれ持ってくるべき宝を伝えると、その足で彼らの先回りをするべく旅に出ました。


大急ぎで大陸へ渡り、インドの仏さまから御石の鉢を強奪し、中国の蓬莱山で玉の枝をへし折り、火鼠と龍を相手に死闘を繰り広げ皮や玉をはぎ取り、燕の子安貝もなんか超がんばって入手しました。


アイテム回収RTAを完走して帰宅したおじいさんは、もはや歴戦の戦士です。


「で、伝説の秘薬『慧璃紅裟亜エリクサー』もなしにこのやうな苦行を成し遂げるとは……」


「あの翁は真に人なりや……?」


「あなおそろし……!」


貴公子たちはおじいさんに恐れをなして、逃げ帰っていきました。


「あっはは、全部じいちゃんが持ってきちゃったじゃん、うけるー」


かぐや姫だけはのんきに笑っていましたが、それも長続きはしませんでした。いろんな意味で評判になったかぐや姫のうわさを聞きつけて、ついにはこの国の頂点、帝までもが求婚してきたのです。


「あらあら、帝のお召しでは今度こそ断れませんねぇ」


「嫌じゃ嫌じゃ、入内なんかしたら同輩の更衣とかパイセンの女御とかにクッソ嫉妬されて虐められちゃうんじゃろ、わし知ってる!!!」


「おじいさん、源氏物語の読みすぎですよ」


「紫式部まだ生まれておらんじゃろこの時代!!!」


そもそも、かぐや姫が虐めくらいで衰弱死するような繊細な神経をしているわけがありません。


「あ゛ぁ?もっぺん言ってみろ?」


ほらー。地の文に喧嘩とか売ってくるしー。あっ、ちょっと待って、作者の頸動脈締めないで。


「た、大変です旦那様!」


ウッ、ゲホゴホ、そ、その時、屋敷の使用人の一人がおじいさんの元へやってきました。


「どうしたんじゃ、そのように慌てて」


「お、恐れ多くも帝が、帝が姫様を迎えに来られたのです……!」


「ふん……先ぶれの文を出すことも知らん小童が、ずいぶんと舐めた真似をしてくれるのぉ……よかろう、わしが相手になろう」


帝と聞いて臨戦態勢に入ったおじいさんが表へ出ていき、おばあさんは「あらあらまぁまぁ、大変、おもてなしの準備をしなくちゃ」とお茶の準備を始めます。


「えっ、じいちゃん戦うの?ってかばあちゃん、おもてなしの準備してる場合!!?」


珍しくかぐや姫がまっとうなツッコミを入れる中、おじいさんは家の前に止まった牛車をにらみつけていました。筋骨隆々の輓馬のような牛が四頭で引く車から、のそり……と姿を現したのは、魁偉なる大男でした。全身の筋肉が盛り上がり、鬼のごとき巨躯を誇るその大男が纏う衣は禁色の黄櫨染。帝その人なのでした。


ちなみに帝の後ろには、なんかちょこんと官吏っぽい人が立っています。帝と比べるとまるで小人のように見えますが、普通の成人男性でした。


「か」


「帝が仰せである!かぐや姫をもらい受けに来たと!」


帝が一文字だけ声を発すると、後ろの人が通訳しました。


「か」


「可及的速やかに姫を連れてまいれ!」


さっきと今の「か」なんか違いがあった!?地味にすごいな通訳の人!!


「もしも断る、と言ったら……?」


おじいさんが殺人手刀で空を切りながら好戦的な笑みを浮かべます。過酷なアイテム回収RTA世界記録保持者であるおじいさん、武力の具現化のような帝に一歩も引けをとりません。


「な」


「ならば力尽くで奪うまで!!!」


次の瞬間、おじいさんと帝が激突しました。


「我が奥義を受けよ!阿修羅神手刀しにさらせこぞう!!!」


「し!!!(笑止!!!阿修羅の正統はこの余である!!!真・阿修羅神拳くたばれじじい!!!)」


常人が瞬きをする間に、百の手刀と拳がぶつかり合い、その衝撃波で空を飛ぶ鳥がバタバタと落され、建物が砕け、岩が抉れ、大地が割れました。人々は逃げまどい、さながら地獄絵図です。


そんなおじいさんと帝のはた迷惑な戦いは、日が暮れても続きました。ちょうど、今宵は満月。西に沈む夕日と交代するように、真円の月が東の空を登っていきます。


「そういえば……月からの使者が来るのって今夜だったような」


がれきの隙間から二人の戦闘を伺っていたかぐや姫は、『刑期明けたから帰還の準備よろー☆』という故郷からの電波を受信していたのをいろいろあってすっかり忘れていました。


「いくらあの二人でも、月の使者にはかなわないよ……」


「大丈夫よ、かぐやちゃん」


焦燥の表情を浮かべるかぐや姫の横で、おばあさんがのほほんとお茶をすすりました。


「あの二人をごらんなさい。戦いの中で、二人は常にレベルアップを続けている……阿修羅の覇気をまとった者に精神攻撃は効かないわ。戦闘の余波だけで逃げ帰っていくわよ」


おばあさんがそう断言した時です。おじいさんと帝の覇気がぶつかり合い、その衝撃波が月へと飛んでいきました。すさまじい轟音を立てて、月から飛来していた何かが墜落します。


『やば……地球人こわ……近寄らんとこ……』


となにやらドン引きしたようなメッセージを受信したかぐや姫は、まっておいてかないでとちょっとだけ泣きそうになりました。


「ばあちゃんの言ったとおりになった……まさかばあちゃんも、ただものじゃ、ない……?」


かぐや姫の背中を冷たい汗が伝います。おばあさんはおっとりとした笑みを浮かべたまま


「阿修羅流はもともと、力なき者が大切なものを守り修羅の道を歩むために開かれた流派なの。その本質は弱き者、女性や子供や、とりわけか弱い老女にこそ最適化されているのよ」


とだけ答えました。おばあさんは真の強者のまなざしで、夫と帝の戦いを見守ります。


「それを踏まえると……あの坊やはまだ少し、青いわね。強さを求めるあまり、鍛えすぎてしまった。この勝負、おじいさんの勝ちよ」


その言葉と同時に、おじいさんの手刀が大木のように太い帝の首をへし折りました。帝の巨体がゆっくりと倒れ、動かなくなりました。


「帝殴殺!」「一族処刑!」などという不穏な単語が脳裏をよぎりガクブルするかぐや姫でしたが、帝は軽い脳震盪だったようで、しばらくすると頭を振りながら起き上がりました。


「よ」


「よき戦いであった。今宵は余の完敗だ。だが、余は諦めぬ。この命の続く限り、竹取の翁よ、そなたに挑み続けることを誓おう」


かぐや姫と同じくがれきの間で避難していた通訳の人が出てきて帝の言葉を代弁します。あの戦いの中、帝の言葉を補完し続けたとは凄まじいプロ根性です。


「ふぉふぉふぉ。ぬかすな、小童。いつでも叩きのめしてくれるわ」


おじいさんもニヒルな笑みを浮かべて応じます。かぐや姫は、


(帝に不死の妙薬とか送っておいたほうがいいかな……逆賊扱いで処刑されたくないし……)


などと遠い目をしていました。



 それからというものの、竹取の翁の家は帝が度々やってきては戦いを挑むバトルフィールドとしてご近所で有名になりました。もはやおじいさんと帝がどうして戦い始めたのか、ほとんどの人は気にしていません。そういうもんだと思われていました。


「今日も平和ねぇ」


「うん、ソウダネー……」


砕け散った家の瓦礫に囲まれ、おっとりとお茶をすするおばあさんの横で、かぐや姫は現実逃避気味に答えたのでした。

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