トップ高校『瀬戒賽響学園』
家を出た優真は遂に高校に通い始める
満開な桜からヒラヒラと舞い落ちる花が粉雪のように優しく肌に触れる。
そんな長い並木通りを抜けると、100メートル離れているにも関わらず端から端まで視界いっぱいに赤レンガの独特な色が満ちる大きな学園が聳え立つ。
「瀬戒賽響学園」
築10年も満たないことが他の高校にはない輝きが物語っている。こここそが僕の高校である。
3年前に警察になるという夢を持ってから苦手な勉学に励み、高校受験に打ち勝ち合格することが出来た。自分の努力が実った結果ほど美しいものはないと思う僕だからこそ、この高校は僕にとっての大きな誇りである。
学園の後ろにはどこまでも続くような海が広がっており、学園を囲うように掘られた5メートルほどの海続きの大きな溝に水が満たされている。風に乗ったほのかな海の匂いが現実だぞと分からせるように思えてくる。
心を落ち着かせ、僕は校門前で胸を張りその第一歩を大きく踏み出すのだった。
校舎に入ると目の前に、新しいクラスと名前が羅列する紙が張り出されていた。いわゆるクラス分けというものだろう。
自分のクラスを確認して、太陽の光が入り込み非常に明るい廊下を歩いて教室に入った。すでにクラスメイトの半分程の人が登校しており、友達を作ったり勉強したり各々が楽しく過ごしていた。
席に着いた僕は新しい学園に興奮しすぎて少々疲れてしまった。特にやることもなかったので机に突っ伏して少し寝ることした。腕を組んで机の上に置き体との空間に顔を埋め、目を瞑って夢の世界へ旅立とうとしていた。しかしその時僕は自分に対して語りかける声で目を開いた。
「おーい、起きてる?」
「…」
「まだ寝てないでしょ。寝ようとしていたところ、教室に入った時に見たし」
「…何の用だ。僕は眠いんだが」
「そんな言い方ないでしょ、挨拶よ挨拶。知り合いが隣の席になったんだから会話しておきたいじゃん」
俺に話しかけ続けるその少女は中学生からの友達である柳陽葵だった。成績も顔もスタイルも性格すらもかなり恵まれており、告白された回数では中学生の中では唯一の二桁という、まさに高嶺の花らしいのだ。
同じ高校を希望していたことは知っていたがまさか同じクラス、ましてや隣の席になるとは思いもなしなかった。中学3年生の後半部分で学校に来れていなかった彼女の姿を見るのは実に半年ぶりだ。
彼女は嬉々としてカバンを下ろして机に掛けながらも話しかけてきた。
「優真が入るって聞いてから私も張り合おうと思ったら2人とも受かっちゃったね」
「僕と柳は学校の中でもかなり上の方の学力だったからな。」
僕は柳のようにモテてたのだろうかとふと思った。
「それより何故僕のこと名前で呼ぶの?」
「え、嫌だった?だったら止めるけど」
「いや、中学の頃3年間は苗字呼びだったから違和感が凄いってだけ。好きに呼んでいいよ」
「ここまで私と優真が一緒なんてまるで運命みたいね」
椅子に座っている僕の顔を覗き込むように姿勢を落としながら話している。
「そうかもしれないな。俺も柳のこと名前呼びするべきか?」
「その方が楽しそうだから、そうしてもらおうかな」
「分かったよ陽葵。これからよろしくな」
「こちらこそ」
相変わらず笑顔を絶やさない陽葵に俺も笑ってしまう。話し相手は見つかったことだし何の危機にも会わずして僕の学園生活は幕を開けた。
たわいもない話をしているとチャイムが学校に鳴り響き、担任であろう先生が教室に入ってきたため皆会話を止めてその女の方を見た。僕と陽葵も皆と同じように、その細みのお淑やかそうな女を見た。
「私は教員ですが担任ではありません。それと貴方達は一時的にここに集められた訳であり、貴方達のクラスではありません。今からクラス分けの為のテストを行いますがその前に広場にて校長先生からお話があります。広場までの道は私が案内するので速やかに廊下に整列してください」
僕は中学までの頃と違う制度に少し驚いた。それまでは入学生のクラス分けは普段先生達が適当に決めているものだった。テストで実力を測るだなんてありえなかったからだ。
僕は陽葵の方を見ると陽葵も僕の方を見ていた。笑顔というより驚嘆の顔をしていて、まるで鏡を見ているような気がした。2人とも同じ気持ちなのだろうと察したが何故か陽葵は目を逸らしてしまった。
陽葵の行動がよくわからないわまま教員に目を向けて、話を聞き終え廊下に並んだ僕らは広場へ歩き出した。