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死人からの呼び出し放送

作者: 和の心

「夏のホラー2024」の投稿作品です!

 どんな学校にも七不思議というのは存在するだろう。定番所で言えばトイレの花子さんや、誰もいない音楽室でなるピアノ、美術室の動く彫像、4階の開かずの扉、増える階段などなど。


 その例に漏れず私の学校にも七不思議のウワサが絶える事無く存在していて、ちゃんと数えてみれば七どころでは収まらない数のウワサが流れているのは明らかだった。


 それは誰かの作り話であったり、何処かで見たのか聞いたのか何かを模倣したありきたりな話であったり、出所は多いため七だけじゃ収集がつかなくなっているのだろうと思う。


 ただ、私の学校で七不思議の話をすると、各々が話す七不思議の中に絶対に含まれる怪談話が一つだけ存在していた。


 それが「放課後の放送」と言う怪談であった。


 一人で学校に残っているとブッブッと電波の悪い電話のような歯切れの悪い放送が流れてきたかと思うと、自分の名前で呼び出しをされるというのだ。


「何年何組の○○さん、体育館までお越しください。△△様がお迎えに来ています」


 というように。


 一見ただの呼び出し放送のように聞こえるが○○には放課後に一人残った生徒の名前が呼ばれるのだが問題は△△に入る名前が故人であるという事だった。


 学校に死んだはずの人間が迎えに来る。もし、放送に従って呼び出された場所に行くと言葉の通りにあの世に迎えられると言う話であった。


 この話だってどこの学校にもウワサされそうなありふれた怪談の一つのように思えたが、誰に聞いてもこの怪談だけは外せないと言うように七不思議の中に入っているのだった。


 実際に経験したという生徒の話もあり、急に自分の名前を呼ばれたかと思ったら死んだ母が迎えに来たと放送されたらしい。


 意味も分からず、誰かのいたずらを疑ったが何より聞こえる放送の強烈な異様さを感じ取って彼女は逃げ出したらしい。


 それはそうだろう。誰だって急に死んだ人間に呼び出されたら恐ろしくなるに決まっている。


 分かっている。誰だって普通はそう考えるはずなのは。


 それでも私は放送を待っていた。


――ジジ、ジジジ


 と、教室の備え付けられたスピーカから音が漏れ始めた。


『2年3組の富樫さん、美術準備室までお越しください。山波怜様がお迎えに来ています』


 ブッブッと歯切れの悪い不気味な放送が自分の名前を呼んだ。


 場所が美術準備室とは粋な計らいだと私は思う。彼との思い出の場所であるのだから。


 私は不安と緊張の中、一直線に美術準備室へと急いで向かった。


 美術準備室に辿り着くと私は一目散に中へと這入る。


 中には誰もいなかった。薄暗い部屋の中がカーテンの隙間から除く夕日に明かりが浮かんでいる埃をキラキラと輝かせているのみ。


 狭く埃っぽいが独特なに匂いを発する美術準備室の中は何だか懐かしく悲しくなってきた。


 数分待っても私以外に誰もここに来なかった。


 備品の机の上で足をぶらつかせていると、ここで彼とキスをした事を思い出す。彼の事を本気で愛していた。だから、もう一度会いたいと願ったが結果はこんなものだ。


 七不思議なんて信じる方がどうかしている。


――からっ


 と、私が諦めようとしたその時、美術準備室の扉が音を立てて開く。扉が開いた先には彼の姿があった。


 彼は私の姿を見るなり手を伸ばして近寄ってくる。ようやく探していた大事なモノを逃がさないように慎重な足取りでそっと私の方へと近づいて来る。


 そしてついに手の届く所まで辿り着くと私の事を抱きしめた。


「迎えに来たよ富樫」


 そう――私は彼の名を呼んだ。


「怜、怜」


 と涙を流しながら彼は何度も私の名前を呼び、私の頬に自分の頬を子犬みたいにすりつける。思春期男子特有のニキビのゴツゴツが私の頬をざらつかせるがそれすら愛おしかった。


「良かったの来ちゃって。知ってたの? 学校の七不思議」


「知ってる。知ってるさ。だから連れてってよ。怜と一緒になれるなら僕はなんだっていい」


 私の顔を覗いて真剣に訴える彼と目が合う。無言のまま彼の顔を自分の方に引き寄せてキスをした。


 少し乾いた唇の感触。初めてここでキスをした時と同じ感触。


 彼に対する愛しさも、彼から感じる愛情も生きていた時と何も変わらない。


 今から私は狂おしい程に愛おしい彼の命を私はあの世まで連れて帰る。


「これからはずっと一緒ね」


 そう言って私は彼を更に強く引き寄せた。


 もう離れ離れにならないよう、あの世まで強く、強く、引き寄せた。

テーマの「ウワサ」に加え「取り違える」「強烈」「放送」の三つの単語からお話を書きました!

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