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アンジェリアのその声で、コリンナは漸く正気に戻った。
(わ、私……すごいことばかり言っちゃった……)
後悔してももう遅い。目の前の公爵令嬢は既に青筋を立て、壊れそうなほどに扇を強く握っている。
「このことはお父様にもきちんと報告させて頂くわ。今後、アッカーソン伯爵家の家門が潰れることになっても恨まないで頂戴ね? 全ては貴女の無礼が原因なのだから」
(あぁ、私って本当に最低……『いつも冷静でいなさい』ってお母様にも何度も言われたのに、こんなことで家族に迷惑をかけてしまうなんて……酷い娘だわ……)
分かりやすい脅迫に、コリンナが自身の誤ちを悔いながら溢れそうになる涙を堪えていると、
「「アンジェリア嬢じゃないか」」
とコリンナではなくアンジェリアを呼ぶ、最早聞き慣れた二つの声がした。
「まぁ! お久しぶりでございます、殿下方」
瞬く間にコリンナを有名人にしてしまった張本人である、エイベルとフレッドが教室の出入口で優雅に佇んでいたのだ。
「アンジェリア嬢、廊下まで声が聞こえていたよ?」
「申し訳ございません。目上の者に対する接し方を説いていましたら、コリンナさんが感情的になってしまって……」
「なるほど。確かに、彼女は少し怒りっぽいところがあるからね」
「ええ、私も驚いてしまって声が出ませんでしたわ」
「ハハッ、だろうね」
まるでコリンナを無視するように会話を弾ませる三人に、コリンナはとうとう我慢しきれず涙を落とした。自分を好きだと言ったくせに、やはりからかっていただけだったのだ、と軽い口調で話を続ける王子たちの声がコリンナの耳に嫌にこびり付く。
その様子に気付いたアンジェリアは、勝利を確信したようにニヤリと微笑んでいる。
コリンナを置いて和気あいあいとした空気を流していた王子たちは、
「まぁそれはさておき、実は君たちが言い合いを始める随分前から僕たちはこの教室の外にいたんだけどさ」
と突然話を切り替えた。
先程まで自身の失言など忘れたかのように美しく笑っていたアンジェリアは、小さく「え……」と声を漏らし表情を固まらせた。
「いやぁ、昨日はことを急いてコリンナ嬢を混乱させてしまったから、謝罪と改めて婚約のお願いをしようと思って来たんだけど……まさかあんなことを聞いてしまうとはね」
「な、何を聞いたと言うのですか……?」
「分からないの? 自分で言ったことなのに?」
「え、ええ……一体なんのことやら……」
「それはそれは、じゃあ僕らの口からきちんと説明してあげよう」
双子王子は意地の悪い顔で、扇を持つ手が震えるアンジェリアに楽しそうな声で告げた。
「「ハズレ王子に求婚されるだなんて、貴女も可哀想な人ね」」