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双子王子による突然の公開告白から一夜明け、コリンナが発表されたばかりの自身の教室へ入ると既に中にいた生徒たちは一斉に彼女へ視線を移した。
「あれがアッカーソン伯爵家の……?」
「どうして殿下方はあの方に好意を抱いているのかしら?」
昨日の件で一気に有名人となってしまったコリンナに数々の好奇の視線が向けられ、コリンナは早くも心が折れそうな心境だった。
「本当にクリスティアナ嬢と血の繋がりがあるのか、怪しいところだな」
「おい、聞こえるぞ」
あからさまに姉の容姿と比べる生徒もおり、ただでさえ失恋の傷が未だ癒えていないコリンナには酷な状況だった。
(どうして私がこんな目に合わなきゃいけないのよ……)
あの双子王子が自身に想いを寄せてくれているということは素直に喜んだコリンナだったが、そもそも彼らが何故あんなに人目につく場所で公開告白という手段を取ったのか、真意の分からないコリンナは多少の苛立ちを感じていた。
広場のど真ん中でわざわざ跪き想いを告げるだなんて、常に気品に溢れた王族として普通なら考えられないことである。
学園で早くも浮いてしまっているコリンナが静かに自身の席に着くと、待ち構えていたかのように一人の女生徒がコリンナへ歩み寄り声をかけた。
「殿下方は見る目がないようね」
一昔前の貴族らしく扇で口元を隠しながらコリンナへ向かって明らかな悪態をつく彼女は、アンジェリア・スウィングラー。国内有数の貴族、スウィングラー公爵家の令嬢だ。
彼女もコリンナの劣等感を充分に煽るほどの美しい容姿と妖艶な体つきをしており、その瞳にはコリンナにはない自信が色濃く滲み出ていた。
「学園でも社交界でも評判のクリスティアナ様ではなく、なんの取り柄も無いと噂の貴女に求婚するだなんて……王族ともあろうお方が聞いて呆れるわ」
偉そうな態度で堂々と見下されコリンナは腹を立てるが、自身の家門より位の高い公爵家へ反論するわけにはいかない、と必死に自制するコリンナに、アンジェリアは更に煽りを追加する。
「そもそも、王族と伯爵家では身分が釣り合いませんわ。やはり我が家のような公爵家でないと……貴女もそう思いませんこと?」
「…………」
「まぁ私としては、たとえ求婚されたとしてもあの自由気ままなお二人のどちらも願い下げですけれど……将来有望で誠実そうなオリヴァー殿下の方がずっとマシですわ」
当たり前のようにペラペラと悪態をつくアンジェリアが「国に嵐を巻き起こす風魔法に覚醒したハズレ王子に求婚されるだなんて、貴女も可哀想な人ね」とまるで同情のように繰り出した言葉で、コリンナは遂に抑えていた怒りを爆発させ、ドンッ!! という激しい音と共に勢い良く席を立ってしまう。
「……さっきから、自分が何を言ってるか分かってるの?」
「な、なんなの!! その無礼な態度は――」
「無礼なのはどっちよ!!」
怒りに任せて声を荒らげるコリンナの迫力に、アンジェリアだけでなく周囲の生徒たちも圧倒され教室内は静まり返っている。
「さっきから私だけじゃなく殿下方のことも見下したような発言を繰り返してるけど、立派な不敬罪じゃない!! あんたの発言はこの教室にいる全員が聞いているのよ!! どんなにあんたの家が偉くても、全員があんたの失言を証明できる今、この場で一番不利なのはあんたよ!!」
「ふ、不敬罪ですって……!? バカを言わないで!!」
「バカはどっちよ!!」
最早立場の違いすらも意識にないコリンナは、溢れ出る感情を止めることなどできない。必死に言い返してくるアンジェリアの言葉に声量と覇気で被せるコリンナを、生徒たちは冷汗をかきながら見守っていた。
「大体『風魔法が国に嵐を巻き起こす』ってなによ!! 大昔の人が適当に言ったことでしょ!!」
「て、適当なんかじゃないわ!! 魔法研究本で有名な著者が記していた、立派な仮説――」
「仮説はただの仮説よ!! 未だ誰も証明できてないから仮説なんじゃない!!」
「けど――」
「私は知ってるの!! 風魔法は俯く人の背中を押して前に進ませる、最強の魔法なんだから!!」
――自身の言葉で、それまで勢いだけで発していたコリンナはふと思った。
(……あれ? なんだか私、前にもこんな言葉を誰かに言った気がする……)
何かを思い出しそうになったコリンナが口を噤むと、しばらくの間言われっぱなしだったアンジェリアが今だと言わんばかりに反撃を繰り出した。
「……貴女、この私にそんな態度を取って許されるとでも思っているの?」