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何の冗談だ、という言葉が出かけて必死に抑えるコリンナをよそに、王子たちはそのままの体勢で言葉を続ける。
「陰ながらずっと想っていた君に、想い人がいるということは知っていた。だから一度は諦めようかとも思ったんだが……どうやら失恋したようだと知って、いても立ってもいられなくなってしまったんだ」
「傷ついた心に付け入るようなことをして申し訳ないとは思ってる。けど、僕たちの真剣な想いをどうか受け取って欲しい」
街で会ったときのからかうような口調とは打って変わったその真剣な声に、コリンナは唖然としながら立ちすくんでいた。姉もコリンナと同じように状況が理解できないのか、目を大きく開き呆然としている。
「急にこんなことを言ってごめん、困らせてしまったよね」
「え、ええ、まぁ……あの、一つお聞きしたいのですが、いつから私を……?」
漸く疑問を口にしたコリンナに、王子たちは「やっぱり覚えてないよね」「そもそもあの頃の君は僕らのことを認識してなかったか」と口々に呟いている。
「それに関しては今度話すよ」
「今は周りに人が多すぎるからね」
「あ、はい……」
人に聞かれては都合が悪いことでもあるのか、と思うコリンナに対し、クリスティアナはどこか納得のいかないような顔をしていた。
王族が脈絡もなく妹に求婚したのだ、姉として「何か企みがあるのでは?」と危惧するのも無理もない。だが、そんなクリスティアナを王子たちは少しも視界に映さない。
コリンナは、美しく聡明な姉が側に立っているというのにちんちくりんな自分だけをその目に映す王子たちに圧倒された。コリンナを恩人だと慕っているはずのダグラスでさえ、姉を前にすると自身を映さなくなると知ったからだ。
「コリンナ嬢、もし良ければ答えを聞かせてくれるかな?」
「え」
「僕たちのどちらと婚約してくれる?」
「え、いや、え?」
返事を迫るの早くない? と口走りそうになるコリンナを面白がるように、王子たちは矢継ぎ早に言葉を続けていく。
「もしかして、僕たちでは不服かな?」
「いえ、別に不服とかじゃ……」
「街で会った時の印象が悪かったのかな?」
「それはそうなんですが……」
「あぁ、やっぱり卑しい身分の僕たちじゃ君の気は引けないようだ」
からかうように交互に質問を並べ立てる王子たちに、突然の公開告白で混乱していたコリンナは段々と苛立ちが募り、返事も適当になってきている。
(なにが『卑しい身分』よ!! この国で最も尊い身分のくせに!!)
頭の中で叫んでいるのが顔に出ていたのか、王子たちはコリンナの顔を見ると途端に吹き出し笑い声を上げた。
「やっぱり君は最高だよ!!」
「あの頃とちっとも変わってない!!」
二人して腹部を押え苦しげに笑ったかと思うと、それまで膝をついていた王子たちは漸く立ち上がり、告白したときと同じ真剣な表情に切り替えた。
体の動きや表情の切り替えすらもシンクロしている彼らに、コリンナはすぐに目が離せなくなる。
「まぁ、君の答えが出るまで気長にいくよ」
「幸い僕たちは期待外れの王子だ。結婚相手に関しては好きにしてもいいと言われてるし、健気に君の返事を待つことにするよ」
「そーそー。王太子のオリヴァー兄さんと違って、僕らは気楽な立場だからね」
王子たちの自虐的な発言にコリンナが言葉を失っていると、
「一体なんの騒ぎだ!!」
という声が遠目に聞こえた。つい先程双子王子が名前を出した、オリヴァー王太子殿下である。
「「やべ」」
学園広場の中心に人集りが出来ていることを不振に感じた王太子が、わざわざ校舎を出て確認に来たようだった。双子王子はオリヴァーの姿を見ると、焦ったように「コリンナ嬢! また声をかけるよ!」とその場を走り去って行った。
嵐のように去っていった双子に相変わらず呆然とするコリンナとクリスティアナの前にやって来た王太子は、一体何が何だか分からないという顔をして「……何かあったのか?」と問いかけてきたのだった。