最終話
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コリンナが完全回復し王太子自ら彼女の証言を聞いたすぐ後、アンジェリアの裁判が始まったとの噂は瞬く間に国中へ広がった。コリンナも被害者として裁判への出席を求められたが、コリンナの親であるアッカーソン伯爵と伯爵夫人、そして姉のクリスティアナがそれを拒否した。
被害者の裁判立ち会いは法的にも強制ではなかったため、コリンナは結果だけの報告を受けたのだ。
アンジェリアの処遇が、国外追放に収まりそうだと。
たった一度目の裁判で死刑を免れるという意味の分からない出来事に、勿論アッカーソン伯爵家は異議を申し立てたが、どこからか現れたというアンジェリアの弁護士がかなりの手練らしく、上手い詭弁を用いて情状酌量を求めたのだ。
一部では最愛の一人娘を捨てきれなかったスウィングラー公爵の差し金だと噂されているが、公爵が否定していることから真実は分からない。
アッカーソン伯爵家の人間は納得の出来ない様子だが、被害を受けたコリンナはというと、どこか安心していた。
(いつかまた会ったら、今度こそ言ってやるんだから……『やーい! 殺人犯!』ってね!)
変なところに固執するコリンナを、陰ながら見ていたクリスティアナは不思議に思いながらも微笑んでいた。
しばらくして学園に復帰したコリンナは、魔の森から救い出してくれた双子王子を学園の庭園に呼び出し、改めて感謝の言葉を告げた。
「……ありがとう」
「「どういたしまして!」」
相変わらずツンとした態度で礼を言うコリンナに、双子王子は何やら期待したようにニコニコと笑みを浮かべている。その様子を不気味に感じたコリンナが「……なによ」と聞くと、二人はあからさまな笑顔でコリンナへ問いかけた。
「「僕らのどちらと結婚するか決まった?」」
「……はぁ!?」
コリンナの声が庭園中に響き、通行人の生徒たちは何事かと三人を横目に映している。
「なっ、なんでそんな話になるのよ!!」
「なんでって……どちらかと結婚するって君が宣言したんじゃないか」
「そうじゃなくて!! あんな大変な目に遭ったばかりの女性に言うことじゃないでしょって言ってるの!!」
「え〜? でも、今回の僕ら結構イケてたでしょ?」
「魔物に襲われる君のことをカッコよく助けたつもりなんだけどな〜」
それを言われると……とコリンナが言葉を詰まらせると、双子王子はまたもニヤリと微笑んだ。その表情に、コリンナは今からからかわれるのだと瞬時に察した。
「怯える君を突風で助けたし〜」
「足がすくんで動けない君を背負ってあげたし〜」
「なっ!? それはあなたが『こんな危ない場所でレディーを走らせるなんて恥ずかしい』って言ったからでしょ!?」
「ちょっと待って、それ言ったの僕じゃなくてフレッドだよ?」
「あなたフレッドじゃないの?」
「違う! 僕はエイベル!」
「いい加減覚えてよ〜」
いつの間にか自身が心の底から楽しんで会話をしていると気付いたコリンナは、「あははっ!」と初めて彼らとの会話で笑い声を上げた。
先程までヘラヘラとしていた双子王子は、コリンナの笑顔を見ると急に表情を固まらせる。
あの幼い日の出会い以降向けられたことのなかったコリンナの笑顔に、王子たちはしばらく見惚れ頬を染めていた。
それに気付いたコリンナも「あ……」と笑うのを止め、熱の篭った視線を向ける二人から目を逸らせなくなる。
(……な、なによ……いつもヘラヘラしてるくせに……そんな顔しちゃって……調子狂うじゃない)
いつの間にかつられて頬を染めていたコリンナに、双子王子はそのままの表情で「「コリンナ嬢」」と名前を呼んだ。その呼び方に何だか違和感を感じたコリンナは、「……コリンナ」と小さく呟いた。
「……コリンナって、呼んでもいいけど」
「「……え?」」
遂に双子へ心を許したコリンナの発言に、王子たちは柄にもなく戸惑った様子を見せる。
そしてコリンナのピンクに染まる頬を見た二人は、嬉しそうに声を弾ませた。
「呼んで欲しいなら仕方ないな〜!」
「いつもツンツンしてる可愛い君の初めてのおねだりだ。呼んであげないと可哀想だもんね〜!」
「なっ!? やっぱり呼ばないで!!」
「「や〜だよ〜!! コリンナ!!」」
「呼ばないでって言ってるでしょ!!」
甘い空気はいつの間にか消え失せ、三人の騒がしい声は庭園を通る生徒たちに陰ながら見守られていた。
双子王子が真剣な表情でコリンナの名を呼び、何を続けようとしたのか、コリンナは未だ知らないままである。
後日、コリンナの知らないところで双子王子が国に一妻多夫制を設ける提案をしたらしいが、王太子であるオリヴァーによって丁重に却下されたらしいと貴族間で噂が広まり、コリンナと双子王子の恋物語は一躍社交界で話題となったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。