表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/30

26

      ***


 ダイアウルフに襲いかかられ目を閉じ叫び声を上げたコリンナは、一向に訪れない痛みに不審感を抱いていた。


(……な、なに……? どうして何も感じないの……?)


 激しい獣の唸り声は変わらず聞こえるのに、とコリンナが恐る恐る目を開けると、目の前には大きな土壁が存在した。

 土壁はコリンナを守るように洞窟を塞ぎ、その奥でダイアウルフが壁に向かって勢いよく突進する音が響いている。


(な……なにこれ……)


 意味が分からず呆然としていたコリンナだったが、ふと思い出した。自身の覚醒した魔法が土魔法である、ということを。

 迫り来るダイアウルフの恐怖に駆られたコリンナは、身を守るため咄嗟に魔法を発動させたのだ。自身が役に立たないものだと決めつけていた土魔法に助けられ、コリンナは漸く土魔法への恨みが浄化した気がした。


 ダイアウルフが土壁に塞がれ出てこられない内に恐怖で竦んで動かなかった足も回復し、コリンナは立ち上がると全速力で走り洞窟を出た。


(地図で見た通りなら、まっすぐ走ればここを抜けられるはず……!!)


 先程地図で確認した魔の森を抜け出す道順を頭の中に描きながら前だけを見て走るコリンナを、後ろから出てきた先程のものとは別のダイアウルフが追ってくる。雨は未だ止んでいない。


(まだ授業では詠唱すら習ってないのに、さっきみたいに運良くあの魔法が使えるとは限らない……! 魔法を使うために立ち止まってもし上手くいかなかったら……今度こそ死ぬ……!!)


 不安定な魔法に頼るより足に頼れ! とコリンナは走る勢いを弱めず、ひたすらに前だけを見つめた。後ろを見れば死ぬ、そう思いながら。

 そんな生きるために一生懸命なコリンナに、神は更なる試練を与えた。

 コリンナの向かう正面から、ゴブリンの群れが現れたのだ。


(ちょっ!! なんなのよっ……!!)


 遂に足を止めてしまったコリンナは、後ろから迫り来るダイアウルフと正面から群れで向かってくるゴブリンを交互に見ながら、「詰んだんですけど……」と諦めたように呟いた。


(……なによ、結局無理なんじゃない……逃げ切れるわけなかったんだ……期待させないでよ、神様のバカ……)


 神へ悪態を吐き、再び地面に座り込んでしまったコリンナは手に握りしめたままだった特殊魔法音波の笛を口にくわえた。

 せめて笛の音が聞こえる人間が付近にいないだろうか、と一縷の望みをかけ、コリンナは大きく息を吸い込み笛を吹いた。


――――!!


 微かに聞こえる耳障りな音に、コリンナは不快に感じながらも息が続くまで吹くのをやめなかった。

 音など聞こえない魔物たちは尚もコリンナへ距離を詰めてきている。

 遂に息の限界が訪れ笛から口を離すコリンナだったが、聞こえるのは自身の乱れた呼吸の音と魔物たちの不快な息遣いのみ。こちらへ向かってくる人の気配など微塵も感じず、無駄な足掻きだったとコリンナは笑い声を漏らした。


「どうせなら、生きて帰ってアンジェリアに一言言ってやりたかったな……『やーい! 殺人犯!!』とか……」


 この状況で考えることじゃないか、と今更自身の気の強さを実感したコリンナ。恐怖で絶望を感じた先程と違い、どうにもできない状況に段々と苛立ちを募らせた。


「……『好き』って言うならこういうときは助けに来なさいよ……」


 自身に想いを寄せるという双子王子に苛立ちをすり替え、コリンナは小さく呟いた。


「バカ双子王子……」


 コリンナが呟いたその瞬間、彼女の周囲を激しい風が吹き荒れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ