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初めから妹が他者に迷惑をかけるような行動を取るなどと疑ってはいなかったクリスティアナの問いかけに、アンジェリアは分かりやすく不機嫌になっている。そんな彼女を横目で見ながら、クリスティアナは目の前で泣き崩れる女生徒にもう一度優しい声で問いかけた。
「貴女たちと接したコリンナは、アンジェリア様の言うような子でしたか?」
その優しい声に、三人は僅かに首を振った。
「コリンナさんはっ……愛嬌があって可愛くて……クリスティアナ様と同じように優しい子です……!!」
「私たちのことをちゃんと先輩扱いしてくれて、まるで身分なんて言葉を知らないような純粋な方です……!!」
「コリンナさんに何かあったら……私っ……!」
次々とアンジェリアの手の内から離れていく上級生たちに、クリスティアナはホッとしたように息を吐いた。
「……それなら、妹の名誉を守るため、真実を言ってくれますね?」
「……はい」
遂にアンジェリアの呪縛から逃れることを決意した彼女たちは、ぽつりぽつりと真実を口にした。
アンジェリアは目を細め、まるで蛇のように彼女たちを逃がさまいと睨んでいる。
「私たちがコテージで休んでいるとき、コリンナさんとアンジェリア様は『風に当たる』と言って二人で外へ出てしまいました。しばらくするとアンジェリア様だけが戻ってきて、『コリンナさんは一人で先に行ってしまった』と言われました」
「私たちは、コリンナさんが一人で先に行くところは見ていないんです……」
「そう……」
上級生たちの吐く真実に、それまで黙って話を聞いていたオリヴァーは「それだけではなんとも言えないな……」と声を漏らした。
オリヴァーの言う通り、これだけではアンジェリアの言葉を嘘だと裏付ける証拠もない。そもそもオリヴァーはアンジェリアとコリンナの騒動の真実を知らないため、この時点ではアンジェリアが何かを企んだとは一切思ってなどいないのだ。
だが、そんなオリヴァーの考えを改めさせる言葉が、次の瞬間放たれる。
「……でも、私たち言われたんです……!!」
「……何をかしら?」
「ア、アンジェリア様に……」
「『この先コリンナさんに何かあっても、何も知らないフリをしなさい』って……!!」
「「!!」」
遂に言ってしまった上級生たちは、未だ鋭く睨み続けているアンジェリアを見ることができない。
アンジェリアは募る苛立ちに抗えず、怒りを隠しきれない表情でそこに立ち、だが美しい気品だけは保ち続けていた。
コリンナに茂みの奥を確認するよう言って上級生たちから離したとき、アンジェリアはコリンナと親しくなっていた上級生に言っていたのだ。
『この先コリンナさんに何かあっても、何も知らないフリをしなさい。もしこの約束を破れば、貴女たちの幸せは全て崩れ去るでしょうね』と。
幸せ……つまり家族や恋人を危険に晒すのではと思った彼女たちは、自身らよりも遥かに身分の高い公爵家の令嬢であるアンジェリアに逆らえなかった。彼女なら容易にそれが出来てしまう、そう上級生たちに思わせ、恐怖で支配したのだ。
すると、話の流れとは明らかにズレた「ふふっ……」という小さな笑い声が響いた。
「一体何を言うのかと思ったら、とんだ作り話ですこと……」
笑い声の主は、この状況に未だ勝算があると感じているアンジェリアだった。