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      ***


「うっ…………」


 低い崖だったため木がクッションとなり擦り傷程度で生き延びたコリンナはしばらくの間気を失っていたが、頬に当たる何かの感触で目が覚めた。

 雨である。

 コリンナは混乱する頭で無理やりに起き上がり、一瞬で勢いを増す雨に打たれながら自身の状況を整理していた。


(……私、もしかしてあの女に突き落とされたの……? 嘘でしょ……ありえない……)


 次第に鮮明になっていく意識から、自身がアンジェリアに嵌められ崖から落とされたのだと気付くと、コリンナは心底信じられないという気持ちを抱いた。

 くだらない激情で殺人行動を起こしてしまう貴族令嬢など、物語の中にしか存在しないと思っていたからだ。


(……寒い……どこかで雨宿りしないと)


 雨に打たれ体が冷えていくのを感じ、コリンナはアンジェリアへの怒りを一度頭の隅に置き、微かに痛む体で立ち上がり雨が凌げる場所を探し歩いた。

 少し歩くと意外にもすぐに洞窟が見つかり、そこで雨宿りすることにした。


 洞窟から見える自身の落ちた崖の壁を眺めながら、コリンナは背負っていたリュックの中身を取り出し助けを呼ぶ方法を考える。


(非常事態用の発煙筒があるけどこの雨じゃ使えないし……昔お姉様からもらった、人間には聞こえて魔物には聞こえないっていう特殊魔法音波の笛は距離が限られてるから近くに人がいなきゃ意味がない……)


 雨に濡れ少しよれてしまったペール山の地図を広げ、自身の落ちた場所を探してみると先程の休憩用コテージの名前を見つけた。その傍に『危険地帯、立ち入り禁止』という文字があることに気付き、まさかここじゃないよね? と冷や汗をかくコリンナ。

 だが、どんなに地図の上下を変えようと、コテージの位置から割り出した自分の位置はその場所だった。


(こ、ここが先生の言ってた魔の森なら、雨宿りなんてしてないで早く脱出しないと……!!)


 途端に恐怖に駆られたコリンナが急いで広げた物を片付け洞窟を出ようとしたとき、背後にある洞窟の奥から何かの声が響いた。

――グルルル…………と、おぞましい獣のような声が。


 恐る恐る振り向くコリンナの視界に映ったのは、中級魔獣、ダイアウルフである。

 コリンナの体よりも大きなその魔獣は、腹を空かせているのかよだれを垂らしながらコリンナを見つめて逸らさない。


(……だ、だめ……逃げなくちゃ……でも体が動かない……!)


 恐怖で竦む体を小さく震わせていると、ダイアウルフはジリジリと距離を詰めてくる。

 コリンナは、自身の魔法でどうにか逃げられないかと恐怖に支配された脳で考えてみるが、何の役にも立たない土魔法では何も出来ないとすぐに考えるのをやめ、次第に諦めに似た感情が芽生えた。


 死に直面し走馬灯のように駆け巡ったのは、最近はあまり考えることのなくなっていたダグラスとの約束だった。


(……こんなときでもあんな約束を思い出して感傷に浸るだなんて、私って本当に馬鹿……)


 自身の見苦しさにため息を吐き、コリンナの大きな瞳から雫が一つ落ちると、ダイアウルフは「グオオッ!!」という雄叫びと共に勢いをつけコリンナへ襲いかかった。


「いやあああっ!!」


 為す術なくコリンナが叫び声を上げたその頃、アンジェリア率いるグループは順調に歩を進め山頂へと到着していた。

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