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王立魔法学園入学から数日が経ちコリンナ含めた生徒たちが学園に慣れてきた頃、学長が全学年合同授業の開催を予告した。
一年生から三年生までの全学年を含む五名程のグループをランダムで作り、そのグループで学園側の指定する目的地まで自由に魔法を使って辿り着く、という協力型授業だ。基本的には男女別で、男性グループは試練の多い多少過酷な道のりを指定される。
下級生は上級生に教えを乞いながら魔法の使い方を見て学び、上級生は下級生を守りながら危険な生物と立ち向かう、という実践的な授業は毎年春の恒例行事である。
全校集会で学長からその話を聞いたコリンナは、酷く憂鬱だった。自身の土魔法で一体何が出来るというのか、と自虐気味に考えてはため息を吐く。
(いやだなぁ……どうせ馬鹿にされるに決まってるのに……)
双子王子のせいで未だクラスの人間とも打ち解けられていないというのに、上級生含めたグループでの集団行動など、すっかり卑屈になってしまったコリンナには気が重かった。
せめて姉と同じグループになれたら楽なのに、と願ったが、世の中そう甘くはない。講堂での全校集会を終え各教室で共に行動する仲間の発表が行われたとき、コリンナは驚愕した。
(な、なんでよ……なんでアイツもいるのよぉ!!)
仲間の内の一人に、入学二日目に派手に揉めたアンジェリアがいたからだ。
学園側がランダムで選んだ五名程のグループなのだから、都合により一年生が複数になることも勿論あるだろう。だが、よりにもよってどうしてアンジェリアなのか。コリンナは自身の不運を恨み、そして学園側も恨んだ。
同じグループになってしまった以上、当日は協力しながら目的地へと進まなければならない。入学してすぐ喧嘩を売ってきた女と協力なんて出来るのか、とコリンナは憂鬱な気持ちを更に増幅させた。
その昼、コリンナは食堂で双子王子と食事をしながらその件を話した。
「やっと食事に応じてくれて嬉しいよ」
「君と食事ができるなんて夢のようだ」
「え、話聞いてる……?」
折角話題を振ったのに、と不機嫌なコリンナを余所に、双子王子は想いを寄せる女性との初めての食事に舞い上がり話など聞いてはいなかった。
というのも、入学してから毎日欠かさず昼食に誘い続け飽きもせず交わされ続けたが、本日漸くコリンナが「もう面倒だわ……」と勘弁したからである。
とはいえ、ゆっくり話す機会が出来たというのに会話をしないのは勿体ない、と双子王子は不機嫌になってしまったコリンナに「ごめんごめん」と軽く謝罪しもう一度聞かせて欲しいと頼んだ。
「だから、あの高飛車女と同じグループになっちゃったの!」
「「口が悪い君も素敵だね」」
「うるさい!!」
真面目に聞く気があるのか分からない王子たちにコリンナが苛立ちを募らせると、王子たちはなんでもないような顔をして会話を広げた。
「高飛車女ってアンジェリア嬢のことだよね?」
「そうに決まってるでしょ」
「あはっ! ぴったりなあだ名〜!」
「ちょっと! あんまり声が大きいと聞かれるかもしれないでしょ! えっと……あなたがどっちか分からないけど」
面白がるフレッドの声を急いで制止するコリンナだったが、未だ双子の見分けが付いていないことですぐに名前を呼ぶのを諦めた。
「ええ!! 酷くない!?」
「毎日顔を合わせているのに……」
思っていたより寂しげな表情で落ち込む王子たちに、コリンナは「まだ数日しか顔を見てないのに、分かるわけないじゃない」と言いたい気持ちをぐっと堪えた。
長いこと落ち込む王子たちに良心が痛んだコリンナは、あまりやる気はないが見分ける方法でもあるのだろうか、と二人の顔を交互に見比べてみる。
少し明るい茶髪に、王と同じダークブルーの瞳、そして目の下にあるホクロの位置、全てが鏡のようにそっくりで、見分ける方法などないのではないかとコリンナは少し見ただけで見分けることをすぐに諦めた。
「特徴を教えてよ。じゃなきゃ分からないわ」
コリンナが落ち込む彼らに声をかけると、双子王子は落ち込む演技でもしていたのかと思うほど普段の様子で
「僕がエイベルで」
「僕がフレッド」
と自身を指差し名乗った。
「ホクロが左目の下にあるのがエイベル、その反対がフレッドって覚えてよ」
コリンナに余程見分けて欲しいのか親切に見分け方を説明するエイベルだったが、コリンナは「うん……努力するわ……」と自信なさげに返事をした。