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折角元気になったのにすぐにドン底に落とされた王子たちが城へ帰ると、街の騒ぎを聞いたオリヴァーが仁王立ちで二人を待ち構えていた。
そして二人を引き摺り自身の執務室へ移動すると「お前たちはバカか!!」と第一王子らしからぬ口調で説教を始めた。
だが、コリンナのことで傷心している双子王子はオリヴァーの長い説教には耳を貸さず、別のことばかり考えていた。あの使用人らしきダグラスという少年はコリンナの何なのかと二人して想像を膨らませ、まるで説教に対して反省したように肩を落としている。
そんな二人に心苦しくなったオリヴァーは、とうとう叱るのをやめ処分を言い渡した。
「……周りの目を盗んで城を抜け出していたことにも驚愕だが、お前たちの軽率な行動で街の人々を混乱させるのは以ての外だ。よって、しばらく外出禁止にする」
部屋に戻るよう促されトボトボと歩いて行く弟たちの姿に妙に心苦しい気持ちになるオリヴァーだったが、彼らの脳内はコリンナのことでいっぱいで、説教の内容など何一つ聞いていなかったとはオリヴァーは今も尚知らないのであった。
そうして双子王子の監視が強化され外出が出来ない日々が続き、長い月日が経った。
二人は15歳になり、翌年からの王立魔法学園入学を控えていた。その間、王族である彼らへの見合いの話は何度も来ていたが、二人は未だコリンナのことが忘れられず前向きに考えることが出来なかった。
父親である王の命令で縁談相手を城に招いたりもしたが、必ず縁談と関係のない双子のどちらかが邪魔に入り、縁談相手の粗を探して指摘すると「そんな君とは結婚できないな」と言って話を白紙に戻してしまうのだ。
その悪質な手口から、次第に彼らへの見合いの話は減っていき、事情を知らない王家の者は人知れず頭を悩ませていた。
コリンナとはパーティーで何度か遭遇した双子だったが、自分たちをあの日の少年たちだと思ってはいない他人行儀なコリンナに声をかけることが出来ず、いつも遠くから眺めるだけだった。コリンナが相変わらずダグラスダグラスと言っていることから、パーティーで彼女を見かける度に二人は幾度となく叶わぬ恋を自覚させられた。
青年となった今、幼い頃の恋心など忘れるべきかと双子王子が思い始めていた頃、転機が起こる。
街の人々を混乱させたあの日から随分と時間が経ち外出禁止の処分などとうの昔に解かれ、学園入学前に久しぶりに城を抜け出し街の散策をしていたとき、二人は再びコリンナと出会ったのだ。
ダグラスらしき使用人がコリンナの想いを踏み躙った現場に居合わせた二人は、一人逃げるように走って路地裏へ入り込むコリンナの後をつけた。
あの時の自分たちのように路地裏で涙するコリンナを見て可哀想だと同情する一方、王子たちの頭には邪な考えが過ぎった。
コリンナが失恋したなら自分たちの入る余地が出来たのではないだろうか、と。
悲しむコリンナが目の前にいるというのに、嬉しい気持ちを抑えきれずいつもの調子で声をかける。昔と同じような格好なのにあの時の双子だとは一切気付かないコリンナをからかいたくなり、二人はわざとコリンナを刺激する発言ばかりした。
出会ったときと変わらない、いい意味で貴族令嬢らしくない彼女に、二人は更に想いが増すのを感じた。
漸く巡ってきた五年越しのチャンスを逃すわけにはいかない。それが、双子王子の今の原動力である。