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オリヴァーが退室してすぐに担任教師が現れ、別のクラスになった双子王子は自身の教室へと戻り、皆席に着いた。コリンナの虚偽の事情説明に違和感を感じている生徒たちだったが、王太子が関わってしまった以上面倒事に関わるべきではない、とどうやら口を噤む覚悟をしたようで、コリンナが周りを見ても目を逸らしている。
逆に有難い、と無事に危機的状況を乗り越えたことで安堵の息を漏らすコリンナに対し、屈辱ともいえる扱いを受けたと感じるアンジェリアは鋭い目付きでコリンナを睨んでいた。
(……なによ、助けてあげたんだから感謝してほしいくらいなのに……)
アンジェリアの敵意に静かにため息を漏らすコリンナは、どうやら静かな学園生活は送れなさそうだと早くも憂鬱な気分となっていた。
昼休みに入り相変わらず孤立したままのコリンナが一人食堂へ向かっていると、
「「コリンナ嬢、もし良ければ食事をご一緒しませんか?」」
とまたしてもあの双子の声が聞こえてくる。
構わず歩を進めるコリンナだったが、王子たちはしつこく声をかけ続けた。
「あれ? 聞こえてないのかな?」
「コリンナ嬢、おーい!」
「おかしいなぁ、仮にも王族の僕たちを無視するような礼儀知らずなご令嬢じゃないはずなんだけど」
「だよね〜? 僕たちの声が小さかったのかな?」
「それなら大きな声でもう一度呼びかけよう。せーの――」
「必要ありません!!」
あまりのしつこさに遂に反応を示したコリンナは、反応してしまった以上仕方なしに彼らへ体を向け挨拶をする。
「今朝ぶりですね、殿下方」
「えー、そんな他人行儀な呼び方はやめてくれよ」
「そーそー、僕たちのどちらかと何れ夫婦になるんだから、気さくに話してよ」
「そうですか、では遠慮なく……」
王子たちに促され、意外にもすぐに受け入れたコリンナは途端に言葉を崩し「あんたたち一体なんなのよ!!」と声を荒らげた。
「昨日の告白はまぁいいとして、今朝は私のことを好きだって言う割にはずーっと馬鹿にしたようにヘラヘラしてからかって、挙げ句私が逃げられないようにオリヴァー殿下まで利用して、何考えてるの!? そんなことしなくても、真剣な想いには真剣な気持ちを返すわ!!」
人の通らない通路だから良かったものの、一伯爵家の令嬢が王族に対して勢いよく罵倒しているところを誰かに見られれば、それこそ王族侮辱罪として罪に問われてしまう光景だろう。
だがコリンナは、そんなことよりも自身の混乱した胸の内をさらけ出すことに必死であった。
「大体、初めて街で会った時も失恋で悲しみ涙を流すレディになんて声をかけたか覚えてる!?」
「なんだっけ?」
「どうだったかな。『それはお辛い経験をされたようで』とか?」
「違う!! 『振られたんだな』『振られてるねぇ』よ!! 傷付いた女性にかける言葉として最も最低な言葉だと思わない!?」
「「思う思う」」
「分かってるのになんで言うのよ!!」
怒りに身を任せ我を忘れているコリンナは、「ほんっとに最低だわ!! ありえない!!」と目の前にいる人間が王族であるということを思い出しそうにない。
けれど当の本人、双子王子はまるで気にしておらず、それどころかどこか嬉しそうに頬を染め笑みを漏らしている。今までからかうように見えていた笑みとは明らかに違う、心底幸せそうな笑みでコリンナも思わず尖る口元を緩ませた。
「な、なんで笑ってるの……」となんだか恥ずかしくなってしまったコリンナが問いかけると、王子たちは見たことのないまっすぐな瞳で共にコリンナを見つめた。その瞳に、コリンナの鼓動は速度を上げる。
「君があの頃のように話すから、嬉しくなってしまった」
「やっぱり君は変わらないね。あの頃からずっと、僕たちの『天使』だ」
優しい微笑みと温かな声は、恋に飢えたコリンナの胸に強く突き刺さる。