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「き、昨日の件をアンジェリア様から聞かれて、私が真剣に考えようと思っていることをお伝えすると皆さんを驚かせてしまったみたいで……」
「……待ってくれ。君は弟たちの求婚を受ける気でいるのか?」
コリンナの必死に考えた虚偽の事情説明にあきらかに怪しむオリヴァーと、どうしてそんな嘘をつくのだ、とでも言いたそうな表情で静かに佇む生徒たち。けれども双子王子だけは、この状況を端から想像していたのかすかさずコリンナの援護に出た。
「え!! ほんと!?」
「うわぁ、嬉しいなぁ」
「アンジェリア嬢もコリンナ嬢を心配してくれていたなら、そう言ってくれればよかったのに〜」
「揉めているのかと勘違いしてしまったよ」
なんともわざとらしい会話に、アンジェリア含む生徒たちは目を丸くしている。先程まで脅しとも取れる言葉を吐いていた人間とは到底思えない、という感情が容易に読み取れる。
コリンナも皆と同じ気持ちだったが、ここは彼らを利用してどうにか丸く収めなければと彼らの会話に必死についていく。
「は、はい! アンジェリア様との会話が思いの外白熱してしまって……ほら! 女性というのは恋の話が好きな生き物ですから!」
「そうかそうかぁ、それは邪魔をしてしまって申し訳なかった」
「変な噂の飛び交う僕たちとコリンナ嬢が恋愛関係になるのを心配してくれたのかな?」
「そ、そんな感じです! どちらを選ぶにしても王族相手なのだからしっかり考えて答えを出すように、と忠告を受けただけなんです!」
「待て待て! そんなことはどうでもいい!」
コリンナが盛り上がる双子王子たちに合わせ無理やりに虚偽の説明を行っていると、オリヴァーが勢いよく横槍を入れた。
「コリンナ嬢、君は本当にこの愚弟たちのどちらかと婚約するつもりなのか……?」
最初に受けた質問を改めて投げかけられ、実際にそう決意した訳ではないコリンナは言葉に詰まる。
(ここで『はい!』なんて言ったら本当にどちらと婚約するか決めなくちゃいけなくなるよね……でも言わないと怪しまれちゃうし……)
コリンナの心境を悟ってか、双子王子は「そう言ってたじゃん」「わざわざもう一回言わせるなんて乙女の気持ちが分かってないね」とオリヴァーを刺激するようにヘラヘラと呟いている。
耐え切れず「静かにしろ!」とオリヴァーが叱責すると、二人共生意気な子供のように「「はぁーい」」とやる気のない返事をした。
「それでコリンナ嬢」
「は、はいっ!?」
「何度も聞いて申し訳ないが、こればかりは念入りに確認しておきたいんだ。本当に、子供の頃から一切成長を感じられない、未だ好き勝手に生活して私の頭を悩ませているこの正真正銘の愚弟のどちらかと婚約してくれるというのか……?」
オリヴァーの質問はまるで肯定を求めているように感じられ、コリンナはもう逃げ場などないのだと漸く堪忍し、「……はい」と返事をした。その瞬間、オリヴァーは安堵とも取れる表情で「そうか……!」と漏らした。
「いや、すまない……実は恥ずかしい話、エイベルとフレッドは婚約の話が来ても乗り気でないのかいつも相手に失礼な態度を取って不快にさせたあと、話を白紙に戻してしまうんだ。それでもう国内ではなく、それぞれ他国にでも婿に出そうかと思っていたんだが……」
「えっ、なにそれ」
「聞いてないんだけど」
「言ってないからな」
「好きにしていいって言ってたじゃん」
「学園を卒業するまでの期限付きだと伝えたはずだが」
オリヴァーは衝撃的な発言をしたかと思うと、再びコリンナに向かい「だが、コリンナ嬢が貰ってくれるというなら有難い。どちらを取っても君に迷惑をかけることは少なからずあるだろうが、どうかゆっくり考えて欲しい」と二度目の微笑みを見せた。
コリンナは「はい……」と言うことしかできず、自身の選択は誤っていたのではないだろうか、と不安になりながら双子王子へ視線を移す。すると双子王子はコリンナの視線に気付き、コリンナにしか見えない角度で是見よがしに悪い笑みを浮かべた。
(……ま、まさかあの二人……謀ったの……?)
双子の嫌な笑みに呆気に取られながら、コリンナは深く感謝し去っていくオリヴァーを見送ったのだった。