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「「げっ」」

「またお前たちか……まだ入学二日目だというのによくもまぁ懲りずに問題ばかり……」


 兄の登場にあからさまに顔を歪めた双子王子に、オリヴァーはぶつくさと文句を言いながら双子へ近付いていく。兄から逃げたい一心で後退りする二人だったが、先程まで涙していたコリンナを置いて逃げるようなことは少なからず存在する良心が許さず、仕方なしに出口の一歩手前で足を止めた。

 そしてやはり王太子は二人の前まで来ると、二人の頭に同時に拳を落とす。


「「いてっ!!」」

「王族に相応しい行動を心がけろ、と常に言っているだろう。これ以上恥をかかせるな」


 オリヴァーは双子を軽く叱責しため息を吐いたかと思うと、今度はコリンナへ向かって歩を進めた。なぜ王太子が自身の方へ向かって来るのか、と人生で経験したことのない緊張感に、コリンナは静かに恐怖していた。


 やがてコリンナの前で足を止めたオリヴァーは「昨日に引き続き、愚弟たちが迷惑をかけたようで本当にすまない」と丁寧に頭を下げ謝罪する。ただの伯爵令嬢に王太子が頭を下げる、という異例の事態に付近の生徒たちは更にどよめきたち、コリンナは「これ以上目立たせないでくれ」と言いたいのをグッと我慢した。


 昨日、双子王子たちが駆けつけたオリヴァーから急いで逃げ去ったすぐ後、クリスティアナから事情を説明されたオリヴァーは大口を開け王太子らしからぬ間抜けな表情で固まり、そのまま細かな説明を受けるためコリンナを置いてクリスティアナと共に校舎へ消えていったのだが、どうやら迷惑を蒙ったであろうコリンナ本人に謝罪が出来ていなかったことを悔やんでいたらしい。


 一晩経って漸く自身の弟たちが突拍子もない不可思議な行動を取ったことに対しコリンナへ謝罪しなければ、と決心しわざわざ一年生の教室まで足を運んだというのに、またしても弟たちを中心に何やら騒ぎが起きているではないか、とオリヴァーは心労でどうにかなってしまいそうだった。それでも自身が国の王太子であるという自覚を忘れずここに立つオリヴァーは、正に次期国王に相応しい人柄である。


「頭を上げてください殿下! 迷惑をかけられただなんて思っていませんから!」

「そう言って頂けると有難いが、コリンナ嬢が迷惑に感じていなくとも私から見たところ愚弟たちは君に歷とした迷惑をかけている。王族として、そして兄としてきちんと謝罪させてほしい」

「も、もう十分されました!」


 なかなか頭を上げないオリヴァーに、コリンナは冷や汗をかきながら頭を上げるよう説得した。しばらくするとオリヴァーも頭を上げ、「感謝する。君が寛大でよかった」と微笑んだ。

 硬派な雰囲気の王太子がコリンナへ向かって微笑みかけた、と生徒たちは何度目かも分からないどよめきを起こし、同時にコリンナへ注目している。


(や、やめてよ……! 昨日からどれだけ注目を浴びなきゃいけないの!? 私が一体何したって言うのよ!!)


 恥ずかしいほどの視線に頬を赤く染めるコリンナに、「それでなんだが」とオリヴァーが再び口を開いた。


「私の愚弟たちは、今度は何を仕出かしたのだろうか?」

「え、あ……」


 今回の騒動の原因を説明するよう、王太子は求めているのだ。


 どう説明したものか、とコリンナが双子を見ると、双子はクスクスと笑いながら別の人物を視界に入れている。そう、アンジェリアだ。

 コリンナがアンジェリアへ視線を移すと、彼女もまたコリンナを映しており「先程の件はどうか言わないでほしい」と嘆願するように首を振っている。


 それもそのはず、先程のアンジェリアの発言が王太子にまで知られてしまえば、言い逃れなどは到底出来ない状況へと追い込まれてしまう。多くの生徒たちの前で堂々と王族を侮辱してしまったことで証言も得られてしまうことから、王太子の怒りを買うのは当然だろう。彼女の軽率な言動が始まりとはいえ、有数の貴族であるスウィングラー公爵家全体を危機的状況へ貶めることになるのは彼女も避けたいのだろう。


「えっと……」


 コリンナは迷った。今ここで王太子に騒ぎの原因となってしまったアンジェリアとの口論を打ち明ければ、当然彼女の逃げ道はなくなる。同時に、一つの公爵家を破滅させてしまうかもしれないという重圧は未だ子供心の消えていないコリンナには荷が重かった。かといって「何も無かった」と言えるような状況でもない。


 コリンナはしばらく考え、待ちくたびれたオリヴァーがもう一度問いかけてくる直前、漸く重い口を開いた。

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