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第六話 『なぜ?』

 あの後、未明は空き部屋に案内され眠りについた。

 空き部屋とは言っても定期的に清掃しているようで、埃が積もっていたりはしない。必要最低限の家具が並び、インテリアなどは存在しない。ベッド、鏡、机と椅子。その程度だ。

 そんながらんどうな部屋で、彼はベッドに飛び込んだ。



「……差別対象、か」



 日本は出る杭を打つお国柄だ。プラスであれマイナスであれ、周囲と違うことには目を付けられる。『いじめ』はそんな『平均でなければならない意識』による産物じゃないだろうか?

 では、それが『宗教』関連で起きた場合とは? ……はっきり言って、良いイメージがわかない。教科書を開けば宗教戦争。道を歩けば新興宗教の胡散臭い勧誘。ニュースを見れば宗教による国を越えたいざこざ。たまに起きる新興宗教関連の事件。どうにも『ヤバいもの』としか思えなかった。宗教関係者には悪いと思う。でもイメージってそういうものなんだ、許してくれ。


 未明の考えていた『剣と魔法のファンタジー』と、この世界は違う。

 世界は厳しいが、人々は優しい。宗教はチラリと仄めかす程度で、そこを起点に差別など起きない。そんな理想郷であると、彼は意味もなく思い込んでいた。きっと子供の空想のような温かさを持った、全てに理由があるわけではない、どこか足の付かないおとぎ話のような世界だと。

 この世界において、彼が『元いた世界ではない』と考えることができた要素など、最初に出会ったラブベアーの襲撃と、カミナに言われて唱えた魔法くらいだ。今いる集落とて、もしかしたらとても発展の遅れているだけの場所かもしれないし、世界には宗教なぞごまんとあるのだから、知らない神様を祀っていることだってあるだろう。魔法だって、発展した科学の手に掛かれば再現可能だろう。それでも異世界転移を信じたのは、昔からの小さな願望に付き従ったからだ。悪魔の証明のようにも思えるが、『ない』と考えるよりは『ある』と考える方が面白い。

 そう、どちらにしろこれは『現実(リアル)』だ。彼の思うほど万能の力はなく、人々の争いも諍いもないユートピアとは違う。物語やゲームなどとは違い、道は示されていないしハッピーエンドもバッドエンドも存在しない。あるのは個々の人生が交差して生まれた歴史だ。

 総じて、未明は『世界』を甘く見通している。未だに、何処か現実味のない目線で世界を見ている。


 ふとベッドから起き上がり、壁に掛けられた鏡を覗き込む。簡素な木枠の縁に収められた、顔1つがギリギリ入る程度の小さなまぁるい鏡。それに写るのは暖色のランタンの明かりでふわりと浮かぶ自分の顔。

 ……うん、真っ赤だ。真っ赤な目に真っ黒な髪。なんで目の色だけ変わってしまったのかだとか、よくよく見ればなんか若返っているだとか、ツッコミどころ満載だ。



「元から黒髪だけど、なんつーか……墨みたいだな」



 元々、彼は大して珍しくもない平均的な容姿だった。黒髪ではあるが日に透かせば茶色みを帯びたし、黒目もよくよく見ればただの焦げ茶だった。

 それが変わっているというのは、なんだか不可思議である。現代日本では髪色なんて染めることができるし、目にはカラーコンタクトを入れればあっという間に別物だ。けれど、彼は頭髪を染めた覚えもカラーコンタクトを入れた覚えもない。寝て起きたら異世界で、何故かちょっと若返ってカラーリング変更されている。『何者か』の意図が隠れていたとしても、何故こんな地味なことしたのだろうか?

 鏡に映る瞳の中で、ランプの暖色の光が揺れている。今のところ自身にのみ見えるなにかがあるわけでもなく、『魔眼』にあたるわけでもないのだろう。いや、忌みモノという意味では魔眼かもしれないが……。


 さてはて、こういう話でありがちな『転生特典』なんてもんは貰った記憶はない。なのに宗教差別ハードモード。差別とかいう人の意識の問題をどうしろと言うのか。こちとら中身大学生のオタクだぞ。知識チートできる程の脳ミソでもないんだぞ。

 はぁ、とため息が出た。衣食住はとりあえず安定できるだろうし、生まれ故郷に大した未練があるわけでもない。親孝行を果たさないまま消えた息子。それをどう思うかは気になるが、気にしたところで帰り道がわかるわけでもない。まずは、ここでの生活を優先する。

 陽が時折複雑そうな顔をしていたのは十中八九『コレ』だろう。シスターしてるし、聖書らしき話を暗記している。俺の第二の人生ハードモードを察してあんな顔をして……。


 ……陽があんな顔(可哀想なものを見る目)をしていたのは初対面でギャン泣きしていたからである。黒髪赤目であることを哀れんだからではない。まぁ知らぬが仏である。



「ん~……悩んでてもどーにもなんねーし寝るか!」



 そして色々考えておきながら、彼は問題を放置して寝た。

 いや確かに、この世界のいろはを知らない未明がウンウン唸ってもどうにもならない。どうにもならないのだが、漂っていた悲壮感をリセットして眠るのをやめろ。

 しかも、再びベッドにダイブした未明はおやすみ三秒で直ぐ眠りについた。普通こういうのは何だかんだ不安で眠れないものではないだろうか。安全圏とはいえ転生初日躊躇いなくスヤァするヤツおる? ここに居ましたね。ハイ。

 結局一睡も出来ず──なんてことは起こらず、未明は翌日の朝までグッスリ寝た。むしろ中々起きないので陽に叩き起こされることになる、そのことを今の彼が知る由もない。

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