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第四話 ビナー村

 森が林になり、林が野原になる。その先に陽の住まう村があった。


 『ビナー村』と呼ばれているそこは、RPGで言うところの『始まりの村』ほどではないが質素な場所らしい。村の土地自体は広いものの、その多くには畑が広がっている。家々は疎らに配置され、遠くに教会らしきものが見える。

 陽が村に近づくと、農作業をしていた親子らしき二人が顔を上げた。程よい筋肉のついた無精髭の男性と、小学校低学年程度の体格をしたボブヘアの子供だ。



「あ、カミナだー!」


「ようカミナ! 新しい刀はできたのかい?」


「んにゃ、なまくらだ。後でナイフにする」


「あんたの言うなまくらは名刀だよ!」



 父親はケラケラと言い、女の子はトテトテと陽に近づく。

 『カミナ』と名乗っているから他の名で呼ぶなよ、との注意を反芻する。はっきり言って、つい先程まで『陽』と呼んでいたのに呼び方を変えられるか不安だ。



「カミナ! だっこして!」


「はいはい、りょーかいしましたよお姫様」



 ……いやそれにしても仲いいな君ら?

 10歳にも満たないであろう幼女をひょいと持ち上げ、高い高いと回転のコンボをする陽。キャッキャと幼女は喜び、父親はよかったなーと笑う。シスターというかイケメン冒険者の対応。ナチュラルに幼女をお姫様呼びするのがイケメンポイントアップのコツですね。


 未明? 未明はね、空気。空気してるよ。

 皆さん、コイツ主人公です。



「ん、そっちの兄ちゃんはどうした? カミナの知り合いか?」



 父親の方が未明の存在に気づいたようで、ようやく視線が向いた。思わずまた泣きそうになったが、必死に涙腺を締める。そう、締めなければならないほど脆い。未明の涙腺はティッシュより脆い。


 流石にもう涙したくはなかった。情けない姿はもう見せなくない、幼女の前で。

 なんたって、少なくともこの世界の最低限の知識を理解するまではこの村に留まる必要があるのだ。慢心、ダメ、絶対。俺、努力、する。あと最悪なんか主人公くさいシスターの御加護を受けりゃ死ぬことは避けられる。


 未明は必死に涙を飲み込んだ。いや、だから主人公はお前だよ。



「違う、森ん中でぶっ倒れてたんだ。賊にでも襲われたのかもな、オマケに記憶喪失と来た。名前は何とか覚えてるみてーなんだが……」


「あの、俺『未明』っていいます。俺を知りませんか?」



 そして初対面の相手に記憶喪失設定をぶち込んだ。

 いや、『転生者(仮)』ということを隠すには向いているのだ。赤ん坊からではなく少年状態からのスタート(?)。この世界の知識はゼロオブゼロ。この年(推定十代半ば)で流石に無知ムーブはつらい。箱入り坊ちゃんはイヤだ。

 そして「私も貴族坊ちゃんムーブするお前は吐き気がする」という陽の一言がトリガーとなり、名前以外全ロスな記憶喪失の少年に俺はなった。ちょっとキツい? それは言ってはいけない。


 お前は陽に懐きすぎだよ。命の恩人フィルターいい加減外せ。



「ミメイくんか。んや、聞いたことないな……あぁそうか。あんた、黒髪赤目なのか」


「くろかみあかめ」



 力にはなれないとすまなそうに言った父親は、未明の容姿を見て何かを納得したような顔をする。自身の目の色が変化していることなど全く知らなかった未明にしてみれば、赤目であるということが気になる話だ。思わずそこをオウム返しした。

 しかし、本来注目すべき点はそこではない。

 先述したが、彼は未明が『黒髪赤目である』ということに『何か』納得した。まるで、それが重要なことであるかのように。



「そりゃあデケェ村に行くよかウチに来た方がいい。安心しろ、オレらは『そんなこと』しないからよ」


「はい???」


「ミメイ痛い痛い?」


「痛くないよ???」



 そして親子に謎の心配をされた。オマケに言えばいつの間にか幼女を腕に抱えた陽がそばに居て、俺は幼女に頭を撫でられていた。

 ……いや待て幼女そんな軽くないよね? なんで当たり前のように片腕抱っこしてるのこのシスター。なんか生暖かい目で見守られてるし。



「『そういうこと』すらわからないくらい、常識的知識も失っているみたいでな。本当に名前以外分からねーみてぇだ。私の『コレ』にも無反応だったんだぜコイツ」


「それは……喜ぶべきか、悲しむべきか……」


「ひとまずウチで保護して、ある程度の面倒を見るつもりだ。ついでに明日学習会やるから復習したいやつは来いって伝えといてくれ」


「わかった、彼のことも連絡しよう」


「頼む」



 お願いだから俺を置いていかないでくれ……。

 その声は三人には届かない。大人しく撫でられるしかないのである。幼女に。俺、成人男性なんだが?

 陽と男性はしばらく話を続けていたが、話終わると改めてこちらを向く。晴天のような爽やかな笑顔で彼らは名乗り始めた。



「ミメイくん、オレは『リアム』。こっちは娘の……」


「『オリビア』だよ! よろしくね!」


「エ、ア、ハイ。よろしくお願いします?」


「じゃ、また明日なオリビア」


「うん!」



 陽はオリビアを地面におろし、優しく頭を撫でてる。

 優しそうな親子と、その親子と仲良さげなシスター。……まぁ、イメージするシスターとは異なるが、やっぱり陽が悪人でないことは確かだろう。少なくとも外面は良い。シスターらしくないけど。


 オリビアに「バイバイ」と手を振りかえし、未明は陽の後ろに着いていった。

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