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「酷い話だ、テメェの借金はテメェで返せって…」
「でも、パパとママの為だと思って『マリオネット』を頑張ろうって決めたので平気です」
苦笑いをするヒヨリ。
マリオネット
このカジノでのヒヨリの様な借金を返せなかったり担保にされた境遇の者たちの呼び名らしい。
オーナーの命令は絶対と指導されている。
まるで奴隷のようだ、と紅羽は思った。
ヒヨリの両親がどのような心情だったかは知らないが、許せない。
もちろん違法だらけの裏カジノ以外でも、生活水準や衣食住に困らなければいいや、と考えて、やりたく無い仕事だって上からの命令があれば絶対と、何も考えずに働いている人間もたくさん居る。
でも、裏カジノで働くよりは全然マシだ。
「…俺がその借金チャラにしてお前を助けてやる」
真剣な眼差しでヒヨリを見ながら言う紅羽。
それを聞いて驚くヒヨリ。
「は…はじめ様!?」
「お前だってここから出て好きな事したいだろ、行きたい所とか、食べたい物とかさ」
「外だってクソみてぇな所だが、やりたい事はやろうと思えば出来るんだ。」
「やりたい事…?」
紅羽もギャンブラーとして賭場を荒らし始める前は、ヒヨリの様な境遇だった。
紅羽の家族は世間でいう普通の家庭環境だった。
父がサラリーマン、母はパート。
裕福ではなかったが、生活に苦はなかった。
とても仲も良かった。
そんなある日、日常は崩れ去った。
父が、借金の連帯保証人になっていた友人が夜逃げしてしまった。
一夜で多額の借金を背負う事になってしまったが、借りていた所もとても良いところではなく。
近日中に返せなければ自分達の所で返せるまでタダ働きをしろと言ってきた。
しかし、その借金の額は一生費やしても稼げるかどうか分からない額であった。
その翌日、両親は紅羽を残し姿を消してしまった。
そして、紅羽は両親の借金の担保にその貸金業社の運営している裏カジノで働かざるを得なかった。
あの頃、捨てられて悲しい、ではなく。
自分の意思が認められなかった事が辛かった。
だから、紅羽はヒヨリを助けたいと思った。
ヒヨリはしばらく考え込んでいた。
そして、ふと思い出したように答える。
「パパがパチンコ…? で景品でたまに貰ってきたプリンが食べたいです…!」
恥ずかしそうに答えるヒヨリ。
それを聞き、紅羽は優しく微笑む。
「じゃあここを出たら一緒にプリン食おうぜ、約束だ!」
「で…でもお気持ちだけで充分ですし、無関係な貴方にそんな事をしていただくなんて…」
気まずそうに、答えるヒヨリ。
しかし、紅羽は諦めようとはしなかった。
「いいや! 絶対助ける! コインを拾ってくれた礼だと思ってくれ!!」
「そんな無茶苦茶な!?」
引かない紅羽と、困り果てているヒヨリ。
そこに、強面の男が近づいて来て。
「一 紅羽様」
「『マリオネット』のお持ち帰りを希望ですか?」
そう強面の男が話しかけてくる。
一部始終を聴いていたようだ。
「お持ち帰りします!!!」
とても大きな声で即返事をする紅羽。
ヒヨリはアウアウと言いながら困惑している。
「では、VIPルームでオーナーとギャンブルで勝負していただく必要があります、『マリオネット』はオーナーが所有しているので」
と、強面の男は紅羽に軽く説明をする。
それを聞いた紅羽は、ニヤリと笑い。
「ギャンブルで勝てば良いだけか、よし! この勝負乗った!」
「しかし、オーナーはお強いですよ?」
「というかここのディーラー弱すぎだ、むしろ強くないとつまらねぇ」
血気付いたように盛り上がっている紅羽。
オーナーと戦うと強面の男に伝える。
「では、こちらへ」
強面の男はVIPルームに案内をする。
紅羽とヒヨリ、ついて行く。
ヒヨリは、少し申し訳なさそうな困った顔をして紅羽を見つめている。
「ご…ごめんなさい…なんかその…」
「なに謝ってんだヒヨリ、俺がやるって言ったんだからお前は別になにも気にしなくていいんだよ」
モジモジしているヒヨリの頭をポンッと軽く撫でる紅羽。
VIPルームに入っていく紅羽達。
その部屋は先ほどの会場とは真逆でとても薄暗く、とても質素で。
マジックミラーになっている窓。
女神のオブジェのライトスタンド。
そして、こぢんまりとしたテーブルがポツンとライトスタンドに照らされていた。