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小さい頃に
海月 ヒヨリ はこのカジノに連れてこられた。
パパとママの借金の担保に売られてずっと働かないといけないとオーナーに言われた。
小さかったから最初は意味は分からなかったけど…。
捨てられたと知った時はショックで沢山泣いたな。
なんで捨てたの? 悪い子だったから?
そんな事をずっと考えてた。
お仕事もうさぎさんの衣装を着るのいつも大変で一緒に働いてる子達に急かされたり。
慣れないピンヒールでバランス崩して、お客様の服に運んでいたドリンクをこぼしてしまった時はオーナーから沢山叱られた。
叱られるのはパパやママで慣れてたけど、叩かれるのはやっぱりいつまでも慣れない痛かったな…。
でも、沢山の人とお話ししたり、ゲームで遊ぶのも楽しいから良かった。
これからもずっとここでこうやって働く、そう思ってた。
…あのコインを拾うまでは。
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「ーー好きです、俺と付き合ってくれませんか?」
コインを拾ってくれた従業員の彼女に一目惚れ告白をしてしまった紅羽。
「俺、一 紅羽 という者デス、貴女は?」
「えっ…ええ?? ワ…ワタシは海月 ヒヨリ っていいますけど…」
「ヒヨリちゃんか…! ヒヨコみたいで可愛いな!」
衝動的に握ってしまったヒヨリの手をさらにギュッと握る紅羽。
その反応にどんどん困惑していくヒヨリ。
「マジ好きです、ホント付き合って…! チップ全部君に捧げるから!!!」
「えええ!?」
「このとおり! 絶対幸せにするから!! 結婚してください!」
本気でヒヨリと付き合いたい、床に頭が減り込みそうなくらいの勢いで土下座をし始める紅羽。
「はじめ様!? やめてください!」
「辞めません!!! 絶対君をお持ち帰りする!」
「はじめ様ぁ……」
ヒヨリは周りの目を気にして土下座を辞めさせようとするが、紅羽は全然辞める気は全然ない。
どうしよう…こんな事は生まれて初めてでどうしていいか分からなくなってしまった様にしばらく沈黙するヒヨリ。
しばらく考え込むヒヨリ、そして絞り出した答えは。
「ごめんなさい!!」
深くお辞儀をしながら交際を断るヒヨリ。
ガーーーーーン
雷に打たれたような衝撃のショックを受けた紅羽。
「どう…して…」
ショックすぎて嗄れた声で理由を聞く。
立ち上がる気力もない様子。
そんな紅羽を申し訳なさそうな表情で見つめながら、ゆっくりとヒヨリは答える。
「お気持ちはとても嬉しいです…、でも…」
「ワタシ、親の借金の担保でここに売られて、ずっとここで働かないといけないんです」
悲しそうな顔で言うヒヨリ、その大きな瞳は少し潤んでいた。
ーーー
その様子を薄暗い部屋からマジックミラー越しに見つめている者が居た。
高級な生地で作られた袴を着て、メガネをしている40代ほどの男は、この裏カジノのオーナーである。
オーナーの居る部屋にはショーケースが並んでおり、沢山のコインのコレクションが置いてある。
彼はコインのコレクターで、汚い手を使って沢山のコインを集めてきた。
オーナーの傍のショーケースの中には、紅羽の持っている、同じデザインの女神の絵が刻まれているコインがある。
そのコインには
The goddess of victory never smiles.
(勝利の女神は微笑む事は無い)
と書いてある。
コインの隣には一つ同じ大きさのコインが入るスペースがある。
「間違いない…あれは本物だ」
「やっと見つけた」
ニヤリと口角を上げながら呟くオーナー。
「おい」
「何か御用ですか、オーナー」
部屋に待機させていた、ガッチリとした体型にスーツを着た強面の男に声をかけるオーナー。
「あの男の持っている、この世界に1組しか無い『女神のコイン』を何としてでも手に入れろ」
強面の男にそう命令をする。
「承知しました」
そう言って、部屋から出ていく強面の男。
オーナーは再度、マジックミラー越しに紅羽を見る。
「…しかし、あの賭場荒らしが持っていたとはね、どこで手に入れたんだか…」
「まあそんな事はいい、アレは私の物になるのだからね」
オーナーの顔は黒い笑みを浮かべていた。