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僕の初恋の君

作者: くま@甘党

夜になると、君の事を思い出す

バイト中の君は、

いつも明るくて、いつも元気だ


だけどあの日、夜の公園で

泣いていた君を見つけてから

今夜は大丈夫かなって

心配してしまう


君は今、笑っていますか?


僕の初恋の君は

居酒屋でアルバイトをしていた





「はぁー、お腹空いたー…けど金欠だしなぁ…カップ麺で済ますかぁ。」


僕は柳 拓真。

社会人になって2年、理想とは程遠い世界で

がむしゃらに働いてる。

半年前、仕事で嫌な事があり、たまたま通りがかった居酒屋にヤケ酒を飲みに入った。

そこには、元気が取り柄です!と言わんばかりの女の子が働いていて、ネームには「サキ」と書いてあった。

店は店主のおじさんと、いつも笑顔が耐えない看板娘であるサキの2人で営業している。


初めて店に行った日から、サキは僕によく話し掛けてくれた。歳も近くて、共通の趣味も多くて、すぐに仲良くなれた。


「でもなぁー…サキに会いたいしなぁ…うん、決めた!金はなんとかするとして、明日は店に行こう!」


僕は学生時代から女子とあまり交流がなく、楽しい会話をしたり、名前で呼び合うなんて初めての事だった。

あっという間にサキに夢中になった。



これが僕の初恋だった。



──次の日



「よし、時間ピッタリ仕事終了!!

お先に失礼しまーす!


さぁて行きますかーー!」



いつも以上に張り切って仕事を済ませ

予定通り 居酒屋に来れた。


(サキ)「あ、拓真!いらっしゃーい!」


いつもの笑顔で出迎えるサキ。

さすが看板娘。可愛くて愛嬌もあって、サキ目当ての常連が、たくさん居るのも納得だ。


仕事の愚痴を聞いてもらったり

ゲームやアニメの話をしたり

この時間がとても楽しく、とても心地良い。

どんどん酒が進み、気付いたら僕は寝てしまっていた。


おじさんに起こされ、サキが居ない事に気付く。


「あれ…サキは?」


僕が寝ている間に店も落ち着いた為、先に上がったと言われた。


僕は寝てしまった事を後悔しながら帰路についた。


「はぁーぁ、あんなに楽しかったのに…まさか寝るなんてなぁ…」


とぼとぼと歩いていると、家と居酒屋の間にある公園に着いた。


この公園を突っ切ると、家までの近道になる為、よく通っていた。


「え…あれって…」


公園の入口から、ブランコに誰かが座っているのが見えた。


目を凝らすと、それはサキだった。

普通ならすぐに近付いて話しかけるところだけど、僕はただ立ちすくんでいた…。


サキが泣いている。


僕はどうするべきか考えた。

今すぐ行って、話しを聞いて慰めるべきか

いや…でも泣いてる姿なんて、見られたくないんじゃないか…


そんな事を考えていると、気付いたらサキは居なくなっていた。


「あれ……?」


まだ揺れているブランコ。

だけどサキの姿は、どこにも確認できなかった。




──数日後


(サキ)「いらっしゃい!」


店に行くと、サキはいつもの笑顔で出迎える。

あの日、公園で泣いていた時の事を聞こうかと思ったが、他のお客さんとも、笑いながら話しているサキを見て

今はまだ、自分の胸に閉まっておこうと決めた。




今日も、君の笑顔に癒された

美味しそうな料理を運ぶ君

両手でたくさんの飲み物を運ぶ君

どれだけお店が混んでいても

お客さんが来ると元気に挨拶している君


僕の初恋の君は

太陽のような存在だった




その後僕は給料日が来るまで、店に来れなかった。

ちゃんと貯金しておけば良かったのに、ただでさえ少ない給料を、飲み食いに使ってしまうバカな自分に嫌気がさす


ともあれ、やっと手元にお金ができ、店に向かった。

しかしそこには、サキの姿は無かった。


おじさんは2人分の仕事を全てを1人でこなしていて忙しそう。

他にも数組お客さんが入っていて、ゆっくり話す時間も無さそう。


僕は黙って酒を飲む。

きっとおじさんも、サキが居ないことを聞きたそうにしている僕に気付いている。

だけど「悪いね」としか言わない。


今日は…会えなかったな。


サキが居ない事で酒もあまり進まず、帰る事にした。

次来たら、会えるだろうと思いながら。



不安がこみあげる

あれから2週間

いつもの活気がないお店にも

もう慣れてしまっていた


聞けば「ちょっと休んでるだけだから」と

理由を教えてくれない店主


僕の初恋の君は

突然 僕の前から姿を消した




いつの日か サキが泣いていた夜の事を

ずっと考えている

やっぱり 何かあったんだ…

あの時、どうして自分は

サキの元へ行き、話しを聞かなかったのだろう

もし、何か力になれる事があったら、サキが居なくなる事も無かったんじゃないか…


何もできなかった自分に後悔しながら

今日も眠りについた




雨上がりの虹のように

今このお店は輝いている

そう 君が帰ってきた

雲が晴れて 太陽が出てきたように

明るさと 賑やかさが戻ってきた

だけど…


僕の初恋の君は

どこか違う この違和感は…一体





仕事を終え、今日も居ないよなと思いながら店に行くと

ドアの向こうから、あの元気な声が聞こえた


「…サキの声だ!」


僕は勢いよくドアを開けて 中を見た

すると、サキが僕に気付き

「いらっしゃーーい!!」と

満面の笑みで出迎えてくれた


嬉しかった

またサキに会えて 本当に嬉しかった

正直、もう会えないんじゃないかと思っていた僕は 思わず言葉を詰まらせた


「ほら、早く入りなよ!」


「あ、あぁ…うん」


サキが居るだけで、ここは別世界の様に眩しい

おじさんも、また以前のお店の雰囲気に戻って

安心しているみたいだ


だけど、僕はすぐに気付いた

今、笑って接客しているサキが

以前のサキではないことが



この日は客足の引きも早く、あっという間に僕だけになった。

おじさんが、サキにもう上がるように言った

そのタイミングで、僕も会計を済ませた


そして 帰ろうとしたサキを呼び止めた





「君に伝えたい事がある」

何があったかは知らないけど

君が今 普通ではない事が

痛いくらいに伝わってくる


「無理しないで」


ただ君に、また笑ってほしくて

笑ってほしかったのに……


僕の初恋の君は

初めて 僕の前で泣いた




僕は、心の底から笑っているサキが好きだった

どれだけ嫌な事があっても

サキの笑顔を見ると 心が救われていた


だけど


今のサキの笑顔を見ると

涙が出そうになる




いつかの公園で

初めて2人きりになった

本当ならドキドキして

照れながら話したりすると思っていた


だけど 2人の目線は

別々の方向を向いている

「ほ…星が綺麗だね」

曇り空の下で バカな事を言った


僕の初恋の君は

クスッと笑ったが 切なそうな顔をしていた




2人ともブランコに乗り 適当にこぐ

会話は何も無い


僕は、サキが話すのを待っていた

僕が店の前で言った

「無理しないで」という言葉

伝えたかった事は、それが全てだったからだ



「あのね、、」



ブランコをこぐのをやめ、足を着いたと同時に

サキが話し始めた




「前にも、ここで泣いてた事があるんだ…」


僕はすぐに思い出した


「その時はね、お母さんが倒れたって連絡がきて、お店から病院に向かったの。拓真、寝ちゃってた日かな」


「でね、病気だったんだ、お母さん。もう長くないって診断されてさ、私どうしていいかわからなくて…。」


サキの声が、だんだんと震え始めたのがわかる


「そしたらね、この前、本当に……」





失ったものは もう元には戻らない

それがどれだけ 強い願いでも…

「母が病気で亡くなった」

君は涙目で 声を震わせて言った

僕は…何も言葉が出なかった

なんて言えばいいか

全くわからなかった


僕の初恋の君は

想像もできないくらい

重たいものを背負っていた





サキの話しがそこで止まり

しばらくまた沈黙が続いた


僕は、未だに言葉が出てこなかった


すると突然、サキが立ち上がった





「私、強くなるって決めたんだ!」


「だから、君も笑って?」


「また前みたいに、

お店でワイワイ騒ごうよ!」


僕の初恋の君は

精一杯の笑顔で 僕に言った

また、無理をして…




サキが笑うと、僕も笑っていて

僕が笑うと、サキも笑っていた

あの楽しかった時間が、嘘のように思えてきた


このまま、無理に作った笑顔のサキを

見続けるなんて 僕には無理だ


僕も立ち上がり サキの目の前に立つ





「僕にも、半分背負わせて。」

突然の言葉に

君は目をまんまるくして

僕をじっと見つめた


「僕にも、君の背負ってるもの、半分背負わせて。僕は君に救われてきた。だから今度は、僕が君を救いたい。この先、ずっと。」


僕の初恋の君は

目をうるわせながら

笑って頷いてくれた





「…嬉しい。」


サキは 一言そう呟いた


「もう我慢しなくていい、辛い時は泣いていい、僕が一緒に居るから。」


僕の言葉を聞いたサキは、その場に泣き崩れた



後に聞いた話しだが、サキが店に来なかった間、葬儀や家の事、親戚の訪問等があり、忙しかったせいで、サキは1度も泣かなかったそうだ。


明るさが取り柄だから と

無理に強がっていたとサキは言った


きっとこの公園で、初めて思いっきり泣けたんだろう

ずっと我慢して ずっと強がっていたサキは

やっと自分に 素直になれた瞬間だったんだ



これからは、僕がサキを守る

サキの笑顔を 一生、守っていく



僕の初恋の君は

太陽のような存在

周りを明るく照らし

その暖かい光に包まれると

みんな幸せな気持ちになる


僕の初恋の君は

愛する僕の奥さん


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