表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

2度目の恋はゆっくりと

 今日はマキシムとの初めての顔合わせだ。


 執事に連れられて、王宮の庭園へと向かう。

 案内するはずの王宮侍女は、精霊執事のリウォードを見たとたん、口をぽかんと開けて見惚れてしまい、役に立たなかった。

 時の精霊リウォードは、何故か私の執事としてそばにいる。

 ローデグリーン家ではなく、私の専属執事だ。

 実家では放置されていた私の食事や衣装など、細かく世話をやく。

 薔薇の庭園が近づくに連れて、不安になる私の手を大きな手で包むように握ってくれる。


「大丈夫ですよ。お嬢様。私のほうがあんなのより数億倍いい男ですから」


 前回の初顔合わせでは、マキシムの姿を見るなり、恋に落ちてしまった。同じ年のはずなのに、幼い外見を恥じて、禁忌魔法に手を出した。

 もし、また、マキシムに夢中になってしまったら。

 不安でたまらない。


 薔薇の甘い匂いが立ち込める一角で、私は二度目の初顔合わせを経験した。




 何も、何も感じなかった!

 マキシムの金髪は記憶よりもくすんでいて、青い瞳はただの眼だった。


 ホッとすると同時に、こんなのが私の婚約者なのかと、酷くがっかりした。


 そう、この頃には私の一番は、リウォードに上書きされていたのだ。


 その後の私は、禁忌魔法に手を出すことはなく、全系統の魔法を操り、記憶魔法で学問を履修した。嬉しいことに、禁忌に触れることがない固有魔法に、成長魔法が新しく加わった。


 時を戻したことによる副反応らしい。


 すばらしい魔法だった。

 成長魔法を使うと、種はすぐに芽ぶいて、ぐんぐん大きくなり、大樹は大きな果実をたくさんつけた。


 卵はすぐにひび割れ、中から出てきた鳥の雛は見る間に大きくなり空に羽ばたいた。

 その後、空を飛ぶ鳥を呪文一つで雛に変え、卵に戻すことさえもできた。


 私は、いつでも、その魔法で好きなだけ成長したり、今の姿に戻ることができるようになった。


 二度目の生活はとても楽しかった。


 ただ一つだけ、定例のマキシムとのお茶会を除いては。


 10歳を過ぎた頃からマキシムは、3歳の見た目から成長しない私をあからさまに疎んじていた。

 お茶会には遅れてきて、私を無視して、持ってきた本を読む。


 私はふと、いたずら心からマキシムに成長魔法をかけてみた。40年ほど。


 みるみるうちに、マキシムはふっくら太り、お腹がつきでてきた。そして、自慢げにかきあげていた金髪は、まばらになり頭皮をみせていた。


 まあ、美しくない。


 マキシムに抱いていた執着が、かけらも残っていないことに私は気がついた。


 突然変わった自分の姿にパニックをおこし、泣きわめくマキシムを無視して、私は精霊執事の方に手を伸ばす。

 うやうやしく私の手を取った執事は、妖艶に微笑んだ。


 成長魔法はすぐに解除してあげたけれど、定例のお茶会はなくなった。


 その後、私は優秀な成績で魔法学園に入学。過去最高レベルの成績を更新する。

 3歳の見た目を侮っていた学生と教師に、成長魔法を見せつけたのは、最初の剣術の授業の時だった。


 力量を知るためのトーナメント戦で、私は30歳ほどに成長し、剣術の教授のような逆三角形のムキムキの筋肉を身に付けたのだ。


 クラスメイトの畏怖の目を集めて、トーナメントで優勝を飾った。もちろん筋肉だけで勝てたわけではなく、精霊執事がこっそりかけた、時よ止まれ魔法のおかげだってことは秘密だ。


 寮生活ではずっと、一人部屋の特別室を独占し、転校生の黒髪の異世界人ヒナコには、すこしだけ、仕返しをしてやった。

 そして、今日の卒業式で無事に王太子との婚約を解消させた結果、今は愛する精霊執事と二人になった。


「終わったわ」

「満足かい?」

「ええ、少しね」


 パーティーの料理は美味しい。

 異世界人が考えたメニューだそうだ。

 特に醤油味の鶏肉は甘くて辛くて気にいった。


 中庭のテーブルで、執事が取ってきたパーティ料理を味わう。

 初めて出会った時と同じ、白い月が出ていた。

 今日の月はどこもかけていない。

 月明かりの下で、美しい精霊を眺めた。


 これからどうしようか。


 成人したし、婚約はなくなったし、自分を縛り付けたものは全てなくなった。


 愛する人にも愛されている。



 妖精の愛は重いけれど、精霊の愛はもっとずっと重いのかもしれない。

 多分、私が心変わりでもしたら、この精霊は時を戻してやり直させるのだ。


 もしかしたら、今までも何度もやり直しているのかもしれない。記憶を消されて。


 それでも、求められるのが嬉しいと感じてしまうのは、ヒトよりも妖精としての感情か。


「ずっと私の執事でいてね」

「喜んで」


 ヒト族のしがらみには、縛られない生き物だから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ