私って...
『運命の出逢いは0.00...%の低い確率』
打ち合わせでお昼に行った喫茶店。3つ先の席にいた人が忘れられない。
この歳になったからこそ運命なんて信じちゃいけないって...。
「はぁ、疲れた」
8時30分に出社、残業だらけで遅い時間に帰宅、変わり映えのない日陰にいるような毎日。
朝比奈 結衣。気付けばアラサー、29歳独身。私の住む世界に王子様なんていない、お城もない。仕事第一。
子どもの頃はアイドルになりたい!学生時代はイケメンでお金持ちと結婚したい!なんて友だちと話してたけど現実ってやつは。
「寝よ」
スマホ静かに置いた。こういう日に限って、色々な考えや過去が脳内を駆け巡る。
SNSを開き閉じついたり消えたり大変そうなディスプレイ。
そして安定の寝落ち。
「もう、朝か~」
眠い目をこすり鏡とにらめっこ。
「え、くまが出来てるじゃん」
初めましての時は動揺してしまったけど、今はコンシーラーという味方が隠してくれる。
今日も電車に揺られながら。
「おはよー」
「ねえ結衣、彼氏と喧嘩しちゃってさ。あり得ないってか許せないんだけど聞いてくれる!?」
この子は篠原 楓。
会社の同期で部下上司両方から好かれる、世渡り上手なタイプだ。
「じゃー、ランチのときに聞いてあげるから、朝から会議なんだからほら行くよ」
「はぁーい」
堅苦しそうに会議室の扉を開ける上司の表情がいつもと違う。
「おはよう、えー皆そろったか。今日から1人仲間が増えることになった」
「本日付けで配属になりましたと五十嵐と申します、よろしくお願いいたします」
時間が空気がこの世の全てが止まったように感じた。
昨日喫茶店で"3つ先の席にいた人"。言葉にならない気持ちが胸をざわざわさせる。
「よーし、会議始めるぞ」
我が社はLovnk。
【人生をつなげる1ページ。一瞬を永遠に一生の宝物】をテーマにオリジナルウェディングを提案しているブライダルプロデュース会社。
従来の決まったプランに沿った結婚式でなく、おふたりの好きなようにプランをたてることができるため、より思い出深いものになるであろう。そう信じて私たちは日々道筋を作っていく。
「山崎さまのアウトドアウェディングの話はどうなった?」
「キャンプ場からOKいただきまして進行しております」
「出逢った場所だから慎重にいけよ、次は」
12時37分。会議は何の問題もなく終わった。
結衣は五十嵐に話しかけようとすると
「おい、五十嵐ちょっと」
上司からの呼び出し。すれ違いながら会釈。
それが精一杯だった。
「もうお昼だね~、結衣どうする?どこに行く?」
楓の問いに迷いはなく即答だった。
「あの角の喫茶店なんかどう?」
例の場所。なにも知らない楓は不満そうな顔をしている。
「居心地は良さそうだけど古臭いし、もっとオシャレなところがいいな~」
「やっぱそうだよね、その先に新しく出来たパスタにしよっか!」
お腹いっぱいで会社に戻ろうとするとその喫茶店に五十嵐がいた。
「結衣どうしたの?」
数秒間ただ見つめた。
「このパフェ美味しそうじゃない?」
誤魔化すためにショーウインドウを指さす。2人の話し声がうっすら聞こえたのかコーヒーを片手に顔をあげる五十嵐。
その瞬間、結衣と五十嵐の目が合う。
もしかしたらここが始まりかもしれない。