ワンルームの宵
連休の一日目の宵のことである。芋焼酎のロックの二杯目を舐めてから、明日の天気をスマホで見ていると、収納スペースから物音がした。乾いた弾ける音ではない。擦れる音でもない。歩く音である。スマホなどもう見ていない。座椅子にくつろいでいた姿勢を直した。身構えたと言った方がいい。収納スペースの戸がゆっくりと開いた。黒い影がのっそりと現れて来る。茶色い毛並みの四足獣が顔を出し、身を出した。その顔には黄色っぽい縞があり、傷と見間違う生々しさほどだった。スマホは手からずり落ちた。獣は人間を凝視しつつ距離を徐々に詰めていく。獣と人間の顔がほんの数センチまで近づいた。光る目に人間は息を止めるばかりで、唾を飲み込むことさえできなかった。獣は静かに人間から離れ、収納スペースに戻って行くと戸が閉まった。物音はもうしなくなった。
ほっとした。肩の力が抜けた。慌てて股座に手を伸ばした。顔も下げた。失禁はしていなかった。
またほっとしてスマホに手を伸ばしつつ顔を上げると、真ん前に白いフクロウがいた。目が合うとフクロウは一度首を傾げてから辺りを見回した。収納スペースの戸がまた開いた。フクロウはそこへ、その中へ飛翔、消えてしまった。
スマホを取り上げて、動画を撮ろうと画面に触れた。もうそこには獣もフクロウもいない。今更である。埋もれるように座椅子にもたれると意識が急に遠くなった。
気が付くと朝になっていた。照明はついたままだった。曇りの朝。背伸びをしてから立ち上がった。少し立ち眩みがした。収納スペースの戸が開いていた。開けた記憶はない。昨日の午前中の内に掃除をしてちゃんと閉じていた。戸の前に立った途端、獣とフクロウのことがよみがえって来た。あれは夢だったのだろうか。収納スペースはやはり見知った収納スペースで、獣やフクロウが出入りするなんてことはありえない狭さだった。ただ、その暗さが今の限り闇の出入り口なのかもしれないと、想像した。
これはネタになる。プロットも行き詰まっていたファンタジー小説が書き始められそうな気がして、出かける予定を止めることにした。




