ボンディアーモ
「「表出やがれ、このすっとんきょうが!!」」
店主はよくも飽きないものだと肩を竦ませる。
ここは場末の酒場。吹き溜まりの集まる場所で、喧嘩の種など幾らでも転がっていた。
加えて、ここの客共は、酒が入れば、花咲じじい程に花を咲かせるのが上手いのだ。
目が合った。悪口を聞いた。笑われた。そんなものはまだ真っ当な理由だ。
彼らに手にかかれば、足音だろうと息の臭いだろうと、視界に入るもの全てを喧嘩の理由にするのだから迷惑な話である。
特に今回なんて、何が気に食わなかったのか店主には全く理解が出来なかった。
店主は誰か止める者は居ないのかと店内を見渡すが、保安官と神父までもが囃し立てていて、ああ正義も神も死んだのだなと、酒を煽る。
さて、表に出た二人だが、小汚く髭面の男が。いや、二人ともそうだった。仕方ないので区別をつける為に阿保面と間抜け面と呼ぼう。
彼らが勝負するのは旗上げゲームだ。ルールは至ってシンプルで、この阿保面と間抜け面でも理解が出来る。むしろ彼らの残念な頭ではこれしか出来ない。
ルールは銃口より先に黒煙を立てたほうの勝ち、だ。
あるいは、信念の元に行われるのであれば決闘とも呼ばれる行為だが、生憎とどちらの屁の音が大きかったかの言い争いにその名前を使うのは些か躊躇いがある。
何よりも、背を合わせて、だなんて気取った行為を彼らがするはずがなかった。
阿保面が睨み、間抜け面が睨み、睨み、睨み合い。そしてゴングも無しに遊戯は始まった。手慣れたものだった。こいつらにも取り柄があったのだと感心するほどだ。
抜く。構える。撃つ。限りなく洗練された動作で行われたそれは、右手が動いてからわずか1秒未満で遂行された。
互いに滑る様にホルスターから拳銃が抜かれる。目で見てよく狙うなんて悠長な時間はない。腰で構え経験が当てるのだ。
ズキューンと鳴り響く軽快な音は2発。互いの銃から黒煙があがり、勝負の行方はと、賭けをしている者たちが手に汗握る。
早かったのは阿保面だ。しかし間抜け面は見事に眉間を打ち抜いた。
遊戯であれば、いや、無法者にルールを求める方が間違っていたのかもしれない。いつだって生き残った方の勝ちなのだ。
間抜け面は意気揚々と酒場に戻り、阿保面の死体から奪った金で景気づけだと酒を飲み。
そして冒頭に戻る。
そして冒頭に戻ると言いたかっただけ