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悪役令嬢がやってくる

チャバン ザ プリンス

作者: まい

 チャバン ザ プリンス。


 とても平和極まる世界にとっては、結構大きな事件です。


 自分が書いてる、男が婚約を無理矢理断ち切るパターンで、珍しく男へ不幸が行かない話。

 世界は平和に満ちていた。


 他国への(よこしま)な企みを(いだ)く国もおらず、この平和を(たっと)び、お互いに足りない部分を助け、支え合う。


 それはもう、見事に綺麗な国家運営を行っている。


 その世界に存在する生命も、食物連鎖と呼ばれる弱肉強食の(ことわり)はあるものの、他者への過度な(うら)(つら)(ねた)(そね)みを抱かず、賢くも穏和な者ばかり。


 争いといえば大抵が痴話喧嘩で、一部のひねくれもの以外は犬にさえ好まれない始末。


 世に大地の恵みが(あふ)れかえり、あらゆる者は自然への日々の感謝を忘れない。


 この世にある魔法だって、大昔は戦うために洗練されてきた技術なのだが、今は生活を豊かにするための使い方を模索(もさく)中。



 そんな楽園とさえ呼べそうな世界に、一陣の風が波乱を運んでくる。



~~~~~~



 場所はヤンバチ王国。


 ここでは本日、王都の大聖堂で王太子とその婚約者による、結婚式が行われている。


 新郎はハーリー・ヒ・ホゥ・ヤンバチ。

 王太子として相応しい、端正な顔つきと聡明な頭脳と優れた人格を持ちつつ、ユーモアを知る完璧超人。


 新婦はホクシュン・ナ・ヨヒシ公爵令嬢。

 完璧な王太子に負けず劣らず明晰(めいせき)な頭脳と、愛らしさと美しさを兼ね備えた容姿に、世の全てを(いつく)しむ(うるわ)しい心。


 それと、どこまでもお似合いな新しき夫婦を祝うべく集まった、家族を含めた関係者達と隣国の重鎮(じゅうちん)達。


 それら以外にも、式を生き物に一目(ひとめ)見ようと式場外でごった返す平民達。



 そこで美しい微笑(ほほえ)みを(たた)えたご両人の登場により、場が沸き立つ寸前。


 完璧であるはずの王太子が新婦から一歩二歩と距離をとり、ご乱心遊ばれた。





「ホクシュン・ナ・ヨヒシ! 君との()()はここまでだ! 婚約は終了したんだよっ!!」


 正に乱心。


 恐ろしく愉快げに、強い意志でもって叫ばれたこの言葉に、式場は騒然。


 この王太子の言い回や表情しなぞ、いかにも婚約破棄で糾弾・断罪するシーンそっくり。


 婚約も終わりだと主張しているし、このまま土壇場(どたんば)での破談となる危険性まで出てきた。



 今まで仲睦(なかむつ)まじくしていた二人なのに、どうしてこの場でこうなったのか。


 言われた側のホクシュンなどは完全に顔の血の気は引いていて、今にも倒れそうなほど真っ青で、瞳に絶望の色が浮かんでいた。


 もちろん両者の親族も色めき立つ。


 あまりの異常事態に短時間放心したが、それ以降は


「王太子殿下を黙らせろ!」「近衛でないと、問題が!」「誰でも良い! 早く」「ホクシュン様は別室へ!」「ダメだ、ここで連れていったら禍根が!」「別離させるのが最優先だ!」


 などと指示が飛び交い、大混乱。


 


 こんな状況でも、真剣な顔をしたハーリーの言葉は続く。


「私はこの日を待っていた! これを言えるのはこの日しか無い! だからこそ! 私は! ここに宣言するっ!」


 どうした王太子。 あの所(はばか)らず婚約者とイチャイチャしていた、あの周囲が砂糖を吐くしかない仲のよさは何だったのか?


 数多(あまた)の誘惑なんのその。 不惑の王太子とまで言われた、ホクシュンへの一途な愛はどこへ行った?


 大袈裟な身ぶり手振りをして、観客状態になった皆様へ必死にアピールしているが、それは一体なんのつもりだ?



 まさかこいつ、何か悪い魔法でも受けて、催眠術か洗脳にでも掛かってしまったのだろうか?


 はたまた毒のある食べ物でも摂って、正気を無くしているのだろうか?


 こんな流れで、この国は一体どうなるんだ? と外野も固唾(かたず)を飲み込む。



 様々な憶測を観客に抱かせたまま、王太子の主張は終わりを迎えた。


「ここからは婚約者じゃない!! 夫婦だ!! 今まで我慢していたアレやコレも出来る! 一生愛します、今後ともよろしくお願いします!!!」


 最敬礼を越えた、90度のお辞儀(じぎ)で。



~~~~~~



 参加者・参列者のズッコケと悪い意味で思わせ振りな事をした罰として、新婦からのビンタでオチのついたこの結婚式は、それから終了するまでイチャつき続ける新郎新婦以外は全員、チベットスナギツネ顔をしていたそうな。



 ここでのやり取りは、式場の外で見ていた平民達には何故か大ウケし、少し形が変わって“ハーリー式プロポーズ”としてしばらく世に蔓延(はびこ)る事となる。


 あくまでも結婚式でするのでは無く、プロポーズとして。

 ハーリー式プロポーズ。


 実態は、サプライズプロポーズの一種。


 プロポーズする(主に男)側が人目(ひとめ)の有るところで、乱心している様なおバカをかまし、最後に結婚を申し込む。


 OKならビンタ。 NOなら立ち去る。


 なぜNOだと立ち去るのか?

 それはハーリー式プロポーズが使われ出した頃に、プロポーズされた側が呆れて立ち去ったからだとか。



 大真面目にプロポーズするのが照れ臭い若者達から、かなり支持を受けた結果、流行りだして定着したと見られる。



~~~~~~



ハーリー・ヒ・ホゥ・ヤンバチ

 パーリーピーポーで、茶番。 発揮するべきでない場面で余計なおふざけ(ユーモア)を発揮してしまった王太子。

 「愛する婚約者の……いや、大切な妻の緊張をほぐそうとしてやった。 手段を間違えた。 今は反省している」と後に供述している。


ホクシュン・ナ・ヨヒシ

 純朴(じゅんぼく)な美女。 純朴な性格だったので、ハーリーに本気で騙されかけた。 ビンタはもちろん、嬉しさと照れ隠しと怒りのハイブリッド。

 観客の中のアレな人(いわ)く、スナップに素晴らしくキレがあったので()たれたい。 だそうだ。


ヤンバチ王国

 茶番をもじったもの。

 別案として“チバヤン”の国名が先に浮上していた。

 その語呂から、作者本人に1分近く笑われていたと言う。

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