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ごーれむ君の旅路外伝 ごーれむ君前史  作者: れっさー
第3章 ゴブリンの国
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第9話(3章1話)爆発増殖

作者からのお知らせ(ピンポーン)

 このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。

 本編の後に、本作をお読みいただけると、より解りやすいと愚考いたしております。

 内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、先に本編をご笑読ください。


**********


「ウシャルまで墜ちたというのか!」

 閣議の間に、王の怒声が飛ぶ。ここはイズミール王国の首都、アクヒサルン。直径5キロを誇る城壁都市、その中心部に建てられた巨大な王城の一室、王が重鎮と国の方針を定める閣議を行う会議室である。

 国の南東部に位置する小さな街、ソマル付近で発生したゴブリンの爆発増殖(メガ・モルティケイト)は半年を経過した今もまだ鎮められていなかった。ソマルを呑み込み更に爆発的(メガ)繁殖(モルティケイト)したゴブリンの群れは、領都ウシャルに迫り、必死の防戦により一進一退を繰り返していた。

 終始押され気味だったウシャル駐留軍は奮戦するも力尽き、防衛ラインは崩壊、領都ウシャルは業火の中に崩れ去った。

「は。昨日、ウシャル陥落の報告が届きました。ウシャル陥落は3日前の6月7日。ウシャル領主ユセル伯爵以下ウシャル領軍は全滅。領都ウシャルは灰燼に帰した、とのことです。」

 閣議の進行役を務める副宰相が淡々と事実を王に報告する。

「バカな・・・。領都ウシャルは南東部の要。人口2万の城塞都市だぞ・・・。いくら数がいると言っても、ゴブリンごときに墜ちる都市ではないだろう?!」

 報告を受けたイズミール国王、ケマル・イズミールは言葉を失った。城塞都市とて難攻不落ではない。しかし50メートル級の皇帝極大邪竜(カイザーゴジュラドン)に襲われたというのならともかく、相手はゴブリンの群れである。

 成体でもたかだか120センチほどにしかならぬ、小さな人型(ヒューマノイド)魔物である。1対1なら戦闘力の無い農民でもクワ1本あれば余裕で斃せる程度の雑魚人型(ザコノイド)なのだ。

 そんな弱小生物に我が国の南東部の要である城塞都市ウシャルが墜とされるとは、ケマル王はにわかには信じられなかった。

「・・・っ! 領都ウシャルの住民は?! ゴブリン共の動向はどうなっておる?!」

 数拍の間の後、ケマル王はハッと我に返る(再起動する)と宰相に実務的な懸念を訊ねた。

 王から下問された宰相は、一瞬苦し気な顔をするとあらかじめ用意してあったのだろう、手元の羊皮紙の束(メモ帳)を手にケマル王に答えた。

「・・・、脱出できた住民は先月から脱出を始めた第1陣と第2陣の生き残り、合わせて3,000人程です。クシャラル領主ヤマンラル伯爵がクシャラル領軍を派遣し、ウシャル領内、クシャラルとの領地境に流人キャンプを設営、一時的に収容しています。現在、文官を派遣し職業や家族構成を聞き取り、領都クシャラルや王都への移住を手配しています。残りの住民は・・・、おそらく全滅かと思われます。」

「人口2万人の城塞都市の生き残りがたった3,000人だと・・・。」

 宰相の答えに、再びケマル王は言葉を失った。替えの効く農民と違って、都市生活者は言ってみれば全員が何らかの技能所有者である。仮に城塞都市が墜とされようとも、彼らがいれば再び都市を興すことができるのだ。しかし、都市住民の大半を失ってしまえば、復興のハードルは格段に跳ね上がる。ゴブリンを掃討した後の復興に係る時間と経費を考えたケマル王は思わずこめかみを押さえるのだった。

「陛下、よろしいでしょうか?」

 一人の武人が手を挙げ、発言の許しを請う。ケマル王の「構わぬ、申せ。」の応えに、発言を許された武人は立ち上がり、一礼してから主君に献言する。

「陛下、もはや猶予はございません。ウシャル領のゴブリン共は我が国の存亡に関わる事案となりました。王都防衛師団から討伐軍を選抜し、ウシャルに蔓延る(はびこる)ゴブリン共を平定するべきと意見具申いたします。」

 もっともな意見であった。領都ウシャルを墜としたゴブリン共は、ウシャルを繁殖地(コロニー)としてさらに爆発的に増えるだろう。なにしろゴブリンの成長速度は人間(普人族)の10倍もあるのだ。1日討伐が遅れれば、それだけ殲滅の難易度が上がる。ケマル王は臣下の進言を聞き、己の心の中でしばし吟味した後、進言を“是”としたのだった。

「よかろう、ギュレン大将軍。提案を是とし、そなたを討伐軍の将に任ずる。直ちに討伐軍を編成し、ウシャルに蔓延る小鬼(ゴブリン)共を薙ぎ払ってくるのじゃ!」

「ははっ! 勅命、承りました!」

 ケマル王に提言し、討伐軍司令に任じられたその人の名は、ギュレン大将軍。イズミール王国軍の最高責任者である。文官トップの宰相と共に永らくケマル王を支えてきた忠臣で、宮廷での軍政だけでなく、北方諸国との戦や魔物暴走(スタンピード)鎮圧などの実戦でも幾多の実績を誇る、イズミール王国当代一の武人である。

 威風堂々たる討伐軍が王都アクサヒルンを出発したのは、この閣議の翌週6月17日のことであったと、記録には残されている。

 必勝を期したギュレン大将軍は、討伐軍にあらん限りの兵力を結集した。誇張であろうが、王都を出発した討伐軍の兵力はイズミール王国の稼働可能な全兵力の3割に達し、その戦費はイズミール王国の屋台骨に大きなダメージを与えたとさえ言われている。

 結果から言えば、討伐軍はウシャル領に到達、領内を荒らしまわっていたゴブリンの群れを蹴散らした。領主群とは比較にならない規模、装備、練度を誇る国軍にとって、単に増えただけのゴブリンの群れなど相手にもならなかったという。

 北西からウシャル領に突入した討伐軍は、ゴブリンの群れを蹴散らしながら時計回りに領内を掃討した。ほとんど犠牲者を出さずに領内を掃除した討伐軍は、最終的には南西方向から領都ウシャルに突入、焼け落ち廃墟となったウシャルで大規模な市街戦を繰り広げる。この市街戦でも討伐軍はゴブリンの群れに圧勝、元領都ウシャルを奪還に成功する。

 一方、敗れた側のゴブリンは、群れのリーダーと思われる3メートル級の変異体が生き残ったゴブリンをまとめ上げ領都を脱出、東へ逃走する。

 もちろんこれを見逃すギュレン大将軍ではない。怒涛の勢いで追撃した討伐軍は東の国境近く、領都から東へ25キロ付近の森の中でゴブリンに追いつき、圧倒的戦力差で殲滅したという。

 惜しくらむは、国境を越えて侵攻してきたコボルト軍の攻撃を受けたことにより、群れのリーダーと思われる変異体と何匹かのゴブリンを取り逃がしてしまったことであろう。

 しかし、イズミール王国史上最大級の爆発増殖(メガ・モルティケイト)はここに鎮圧された。

 ギュレン大将軍に率いられた討伐軍は殆ど戦死者を出さずに任務を達成した。意気揚々と王都アクサヒルンに凱旋した討伐軍を、ケマル王をはじめ王都の住民は歓呼の声で迎えた。王都の大通りを整然と行進する討伐軍には花吹雪が舞い降り、凱旋の宴には王宮から大量の酒や肉が都内に下賜され、人々は大いに飲み歌い爆発増殖(メガ・モルティケイト)の鎮圧を祝ったという。


(つづく)

 (C)れっさー 2020 All Rights Reserved.

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