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ごーれむ君の旅路外伝 ごーれむ君前史  作者: れっさー
第2章 大魔王誕生編
6/24

第6話(2章2話) 集落の長へ

作者からのお知らせ(ピンポーン)

 このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。

 本編の後に、本作をお読みいただけると、より解りやすいと愚考いたしております。

 内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、先に本編をご笑読ください。

 本編よりお遊び要素(作者の趣味)が強くなっております。予めご了承ください。


**********


 あの、惨劇の日から20日ほど過ぎたある日。

 (ゴブリン)悪魔(普人族)の街から反対方向の森の中を進んでいた。

 怒りと復讐に燃えていても、(ゴブリン)はたった一匹であり、悪魔(普人族)を滅ぼすなど夢のまた夢だったのである。

 森になっている果実を採ったり、小さなウサギなどを狩ったりして、飢えを満たしていた(ゴブリン)の耳に、なにやら騒がしい音と悲鳴が聞こえてきた。

(アレハ・・・同族(ゴブリン)ノ声カ?!)

 声のする方に向かっていくと、(ゴブリン)の目にゴブリンのグループと、その向こうに2足歩行恐竜型(ディノニクス型)の魔物の姿が見えた。

 たかが2メートル級の魔物でも、せいぜい120センチメートルほどしかないゴブリンにとっては巨大な恐怖である。対峙している前衛のゴブリン2匹は勇敢にも槍をかざして抵抗しようとしているが、所詮は非力なゴブリン、あっという間に一匹が頭から齧られてしまい、もう一匹は魔物の尻尾を受けて吹き飛ばされてしまう。

「ギャオォォ!」

 勝利を確信したのか、ゆっくりと歩いて近づく魔物。後ずさるゴブリンたち。その中の一人の娘の顔を見たとき、(ゴブリン)の頭は真っ白になった。

(似テイル・・・、殺サレタ妹ニ・・・)

 (ゴブリン)の脳裏に、悪魔(普人族)に殺された妹の横顔が浮かぶ。目の前の幼き娘は、今にも魔物に食べられそうだった。

「マタ、守レナイノカ! ・・・ソンナノハ、嫌ダ!」

 (ゴブリン)の血がたぎり、身体から魔力が溢れる。

「サセルカァ!」

 思わず腕を振る(ゴブリン)疾風(かぜ)が唸り、溢れた魔力が“(チカラ)”に変換され風の刃となって魔物に襲い掛かる。

「? ギャアァア!」

 魔物が気付いた時には遅かった。風の刃は魔物をズタズタに切り裂き、その命を奪う。

 どぉ、と地響きを立てて倒れる魔物。何が起きたかわからずあっけにとられるゴブリンたちに、(ゴブリン)は近づいて行った。

「何者ダ!」

 震えながら槍を構えるゴブリン。ケガをしてなお仲間を守ろうとするその姿は、(ゴブリン)に最後まで戦った集落(ふるさと)の漢たちを思いださせた。

 (ゴブリン)が、

「安心シロ。俺モ“ゴブリン”ダ。敵意ハナイ。」

 と伝えると、安心したのか、ガックリと膝をつく槍ゴブリン。そんな槍ゴブリンに、

「兄サマ!」

 と駆け寄る娘。(ゴブリン)の妹に似ている娘は、槍ゴブリンの妹らしい。

「大丈夫カ・・・。怪我ヲシテイルナ。チカラヲ抜け・・・。」

 近寄った(ゴブリン)は、自然に槍ゴブリンに手をかざし、魔力を込める。

ポォォォ・・・。

 淡い薄紫色の光が槍ゴブリンを包み込む。

「ウゥ? 痛ミガ、消エテイク・・・。」

 光が消えたとき、槍ゴブリンの傷は癒えていた。

「立テルカ? 集落(むら)マデ、送ロウ。」

 傷は癒えたが、自力では立てない槍ゴブリンを背負い、集落(むら)まで送る(ゴブリン)。その後ろを、他のゴブリンたちが付いて行った。


***********


「礼ヲ言ウ。助カッタ。」

 粗末な掘立小屋の中、ゴザに横たわった槍ゴブリンが礼を言う。妹ゴブリンが心配そうに付き添っている。ここは槍ゴブリンたちの集落内にある、槍ゴブリンの家だ。

 彼らが到着した際、ゴブリンの集落は一時騒然となった。120センチほどしかないゴブリンからすれば、150センチを超える(ゴブリン)は充分異端である。細く非力な手足と違う、暴力的な筋肉の鎧。太く長く禍々しく伸びた2本の角。槍ゴブリンの言葉がなければ、集落を襲う敵と間違えられていただろう。

 2メートル級の魔物の死体も運び込み、集落では解体作業に追われていた。これだけの大物、しばらく肉には困らないであろう。

 (ゴブリン)は、この集落(むら)でやっかいになることになった。


***********


「フンッ!」

 どごぉ! と鈍い音を立てて2足歩行恐竜型(ディノニクス型)の魔物が倒れる。集落(むら)を狙い襲ってきた魔物の群れは、(ゴブリン)の放つ風魔法により斃された。

「ヤッタ! ヤッタ! 流石大ゴブリン(ビッグマン)!」

「ヤッパ大ゴブリン(ビッグマン)ダ、ハンパナイゼ!」

 最初は異形の(ゴブリン)を警戒していた集落(むら)(ゴブリン)たちだったが、見た目とちがい穏やかな性格と、強力な風魔法で集落(むら)を守る力により(ゴブリン)集落(むら)に受け入れられていった。

 気は優しく、大きくて強い(ゴブリン)集落(むら)(ゴブリン)は傑物という意味と親愛の情を込め、「ビッグマン(大ゴブリン)」と呼んだ。

 (ゴブリン)は最初槍ゴブリン兄妹の家に厄介になっていたが、集落(むら)の中に一軒の家を建て、そこに一人で住むようになった。何故か槍ゴブリンの妹が甲斐甲斐しく(ゴブリン)の家に通うのを、集落(むら)(ゴブリン)たちは、暖かい目で見守っていた。


***********


 (ゴブリン)の強力な風魔法は、集落(むら)の安全性を飛躍的に高め、村人(ゴブリン)の生存率を著しく向上させていった。先ほど斃した魔物について言えば、あの程度の群れでも狙われれば普通の集落(コロニー)なら全滅しかねないほどの脅威なのだ。

 この世界では、ゴブリンは「弱者」で「喰われる側」でしかなかった。素早い成長と多産が、かろうじて種族の命数を保っている、そんな雑魚人型(ザコノイド)でしかないゴブリン。しかし、(ゴブリン)が守る集落(むら)は、死亡率の低下から人口が増えていった。


***********


ヴィティ()ヲ、娶ッテハモラエヌカ?」

 集落(むら)に住むようになって半年ほど経ったある日。槍ゴブリンの家に招かれた(ゴブリン)は、槍ゴブリンからそう言われ、戸惑った。

ヴィティ()モ1歳半、(トツ)イデモオカシクナイ年頃ダ。オ前ナラ安心シテ妹ヲ嫁二ヤレル。ドウダロウカ?」

「シカシ、槍ゴブリン殿、俺ハコノトオリ異形・・・。」

「ソンナ事キニスル(ゴブリン)ナドコノ集落(むら)ニハオラン。ソレトモ、他ノ娘二気ガアルノカ?」

 慌てて断ろうとする(ゴブリン)を、揶揄う(からかう)様に(たしな)める槍ゴブリン。そこに、ヴィティ(妹ゴブリン)がやってきて(ゴブリン)に縋りつく。

「アタシジャ、ダメ? アタシノコト、キライ?」

「・・・アウアウ(汗)」

 まぁ、最初から(ゴブリン)には退路などなかったのである。魔物から集落(むら)を守れるほどの強者でも、色恋沙汰ではヘタレ(臆病者)だった、ともいうが。

 それから10日ほど後に、ゴブリンの集落(むら)で一組の夫婦が祝言を挙げたという。

 実は強く優しい花婿を狙っていた集落(むら)(ゴブリン)たちは多かったが、悪い虫が付く(他の女に取られる)前に先手を打った花嫁の兄に、集落(むら)(ゴブリン)たちが苦情を入れたとか、入れなかったとか。

 こうして、所帯を持って集落(むら)に根付いた(ゴブリン)は、更に集落(むら)のために働いたという。

 その後、集落(むら)の拡大に最も貢献し、集落(むら)一番の猛者で気配りもできる(ゴブリン)集落(むら)(おさ)に就いたのは自然なことであった。

 ・・・しかし、その集落(むら)を大きくした(ゴブリン)の努力が、結果的に次の悲劇を呼び起こしてしまうのだが、それは次回述べることとしよう。



(つづく)

ごーれむ君一コマ劇場

妹ゴブリン 「生後1歳半で適齢期って、早すぎない?」

作者(れっさー) 「ゴブリン種は普人族の10倍の速さで成熟する。1歳半は普人族でいうと15か16歳ごろ。充分適齢期だね。」

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