第22話(5章4話) 攻め入る理由 その2
2024年2月11日改稿
種族名”オーク”を”ビーリシカ”に変更しました。
(作者からのお知らせ)
このお話は、拙作「ごーれむ君の旅路」の外伝です。本編の前史に当たるお話を集めております。
内輪ネタや本編のネタばらしもありますので、本編と並行してご笑読ください。
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「よう来られたな、ゴブリン王はん。」
「ウム、こぼると王モ、壮健デナニヨリ。」
ナムルガル王国の城塞都市アビンジャンの陥落から半年後。同州に散在する人型知的生物の集落を訪ね歩き、自国の民としてスカウトしてきたゴブリン王は、コボルト国王宮にコボルト王を訪ねていた。
「ゴブリン国の方は、どうでっしゃ?」
ゴブリン国は対普人族の盾としてコボルト国の西に建国された経緯を持つ。そのため、ナムルガル王国からのコボルト国へのルート上にゴブリン国は位置する。
「ウム。3代目ヲハジメ皆、良クヤッテイル。」
現在も“ゴブリン王”と呼ばれているが、彼自身は『柄デハ無イ。』とすぐに王位は退いていた。側近の中で文治に優れた者が2代目王位を継ぎ、2代目の死後その息子が後を継いで3代目、現在のゴブリン王となっている。
「もう10年経つんやねぇ…。ゴブリン族が代替わりするハズやわぁ…。」
しみじみと、コボルト王が呟く。ゴブリン族は繁殖能力に特化した人型知的生物である。その成長速度は普人族の約10倍。誕生から1年半程で成人となり、7、8年の短い生涯を駆け抜ける。強化種等でもう少し寿命をもつ個体もいるが、総じてゴブリン族は短命だ。“彼”が長寿を保っているのは、彼が数度の後天的変異を経た個体だからであろう。ゴブリン国は建国から10年を経て、その担い手は第3世代から第4世代が中心となっていた。
「で、“新採”の人たちはどうなったん?」
湿りがちな雰囲気を吹き払うように、コボルト王がゴブリン王に話を振る。ゴブリン王が応える前に、控えていたコボルト王宮の文官がさっ、と資料をコボルト王に差し出す。
「小鬼族、小犬人族、猪獣人族に、なんや、赤毛赤目族までおるんかいな…。こりゃあ、人型知的生命体の百貨店やでぇ。」
「…こぼると王、ソノ、“でぱーと”トハ、ナニカ?」
「あぁ、気にせぇへんといて。ただのネタやかい。(そりゃ百貨店は知らんわなぁ・・・)」
この異世界に百貨店は(当然だが)存在しない。慌てて気にしないよう伝えるコボルト王だった。
「気ぃ取り直して、と。それぞれの人型知的生命体の集落に送り届ける、と。結構な人数、連れてくるんやなぁ。あんな魔の森に、ようこんだけ隠れ住んどったもんや。」
最終的には、2千人規模の移住者が、現在はゴブリン=コボルト連合軍の支配下にある旧南方ミール4か国に移り住むため、現在も移動中である。(ゴブリン王はナムルガル王国の勢力圏を出てすぐ先行して帰国の途についていた。)
「浮揚地上船は足りとるん?」
「ウム。ナントカヤリクリシテイル。」
移民には当然、赤子や妊婦など、長距離の移動に耐えられない者も多い。補給が済んで空荷となった浮揚地上船に、詰め込めるだけ詰め込んでいるのが現状だ。
「途中デ、亡クナル者モ、多イ。」
移民を抱えたゴブリン軍の移動は基本的に徒歩である。毎日毎日ただ歩くだけ、というのも体力を消耗する。帰国の道とて安全ではない。魔物は全ての人型知的生命体にとって脅威である。辛い道中はストレスがたまり、些細な事で種族間の諍いも絶えない。
「普人族ト闘ウ方ガ気楽ダ。」(とあるゴブリン兵の証言)
「魔道砲(試作型)の整備より気が滅入る。」(とあるコボルト技師の手記)
世話するゴブリン軍の兵士にもストレスを強いていた。
「現行機種では役不足かいな?」
「貨物輸送型に人を乗せること自体が無茶ですよ。」
「そやなぁ・・・。」
王の会談に同席している技術長にコボルト王が尋ねると、当然すぎる答えが返って来た。長距離輸送を前提とした地上船は、いわば長距離トラックやダンプトラックである。そこに立錐の余地なく人を乗せるのだ。快適さからは程遠い旅路となるのはある意味当然であった。
「イヤ、技術長ドノ。」
ゴブリン王が会話に加わる。
「「?」」
「アノ地上船ガ無ケレバ、ソモソモ移住計画ハ考エツカナカッタ。今回ノ遠征ノ一番手柄デアロウ。大変、アリガタイ。」(深々)
技術長に向かって、深々と頭を下げ謝意を示すゴブリン王。
「いやいや、王様、頭上げてくださいよ!」
慌てる2人を他所に、ゴブリン王は真摯に謝意を示すのだった。
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「ほな、新兵器の方はどうやった?」(わくわく♡ どきどき♡)
(退位したとはいえ)他国の王に頭を下げさせるという、割と心臓に良くない場面を何とか乗り越えたコボルト王が、キョーミシンシン!な顔で聞いてくる。座っていて見えないが、尻尾もブンブン振っていそうだ。同席している技術長も同じで技術バカ(褒め言葉)丸出しである。
「フム・・・、アレハ・・・」
「あれは・・・(ごくっ)」
ゴブリン王の言葉の続きを固唾を飲んで待つ2匹のわんこ。
「ヨクワカラナイ。」
がたたっ!(×2)
前のめりで言葉を待っていた2人が、がっくりとコケる。
「なんやぁ、それはぁ!」
「ゴブリン王様、もう少し真面目に願いますっ!」
ぷんすか怒る2人に、ゴブリン王は冷静に応える。
「魔導砲ガドンナ原理デ動イテイルノカ、“ごぶりん”ニハサッパリ判ラヌ。ドウ? ト問ワレテモ、答エヨウガナイ。」
「「確かに・・・(ぐぬぬ)」」
もっともすぎる返答に、2人は唸るしかない。
「タダ、戦ハ穏ヤカニナッタ。」
ゴブリン王は2人が想像もしていない感想を述べる。
「どういうことで?」
訝しむコボルト王に、ゴブリン王は言葉を続ける。
「魔道砲デ城壁ヲ壊シタラ、アクマハ街ヲ捨テテ逃ゲタ。」
ゴブリン王は思い出したくもない、といった表情で説明する。
「今マデハ、街ヲ包囲シテ、兵糧攻メニスルシカナカッタ。アノ戦イ方ハ、悲惨ダ。」
古今東西、兵糧攻めされた側は悲惨である。逃げることもできず、城塞に閉じ込められ、飢えに苦しむ。同族同士で食べ物を奪い合い、殺し合い、最後には全員が飢えて死ぬ。それまでには月単位での、それなりに時間がかかる訳で。その間に死者は埋葬されず、多くの遺体には調理の痕があるとなれば、勝った方も夢見が悪くなるというものである。
「ああ、そうやね・・・」
前線に出ない自分には無い視点に、コボルト王は言葉を無くす。ゴブリン王は普人族を憎んでいるが、別に殺戮を愉しむ性質ではない。悲惨な戦場跡に心を痛め、王宮を妊婦や新生児の滞在場所にするくらいには、心優しい人物なのだ。
「火魔法発射杖の方は、どうですか? 実際に使われたゴブリン兵さんたちの感想を、知りたいのですが。」
技術長が、おずおずと話題を切り替える。この人も、前線で戦う訳ではないので、現場の声を聴こうと懸命だ。
「魔力ノナイ兵デモ、魔法攻撃ガデキテシマウ。アレハ、恐ロシイ兵器ダ。」
元々、ゴブリンをはじめとする人型は魔力適性が低い。ごくわずかに生まれる適正持ちのみが実用的な攻撃魔法の使い手となるのだ。魔力適性がなくても攻撃魔法を放てる火魔法発射杖の実戦投入は、戦争の在り方そのものを変える要素があった。
「そんなに、恐ろしいかいな?」
今一つ実感の沸かないコボルト王に、ゴブリン王は応える。
「千本ノ火魔法発射杖ニ狙ワレレバ、我トテモ助カラヌ。」
「そういうモンかいなぁ・・・。」
「イズレ、悪魔モ魔法杖ヲ開発シヨウ。ソウナレバ、火魔法発射杖同士ノ撃チ合イダ。戦デハ一斉射デ千人単位ノ死者ガ出ルコトニナロウ。」
「「・・・。」」
ゴブリン王の、深い歴史的洞察とともに紡がれた言葉に、コボルト王と技術長は黙るしかない。
「ダガ、ソレデモ我ラハ悪魔ニ攻メ込マネバナランノダロウ?」
嫌だがやるしかない、という雰囲気でゴブリン王がコボルト王に確かめる。
「王様、それはどういう事ですか?」
技術長がコボルト王に問いかける。わんこの王は深いため息一つついて技術長に話しかける。
「お前さんにも知っていて欲しいから、この場に呼んだんや。よう聞いとってぇな。」
ぼつ、ぼつとコボルト王は戦争の理由を話し始めた。
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「一括りに人型知的生命体ちゅうても、様々や。」
コボルト王はそう言って話を切り出した。
「其々の文明度に差があるのに、気が付いてるやろ?」
「はぁ、確かにそうですね・・・。」
猪獣人族や大鬼族、小鬼族など、掘っ立て小屋で野宿同然の生活をしている人型知的生命体は意外に多い。野蛮に思えるが、別にそれで充分種を存続できるのだ。一方、赤目赤髪族や子犬人族等は板や石で家を建て、衣服を着て暮らす。文明的には進んでいるように見えるが、逆に言えば“家や衣服が無いと死んでしまう生物”であるともいえる。
この世界は、人型知的生命体でも、原始人から打製石器、磨製石器、金属器文明まで、幅広い多様な生物に溢れていた。
「そん中でも、普人族は一番文明度が進んでいるんや。」
それにはゴブリン王も頷けるところが多い。巨大な城塞都市を築いているのは、現時点で普人族だけである。コボルト国は地上船や火魔法発射杖といった魔導文明が進んでいるように見えるが、これはコボルト王が特別なだけで、他の地域のコボルト族は精々初期耕作文明程度の生活しかしていないらしい。
「普人族は、都市国家を築き、急速に人口が増えつつある。」
これが、10年間の対普人族紛争でコボルト王が得た結論であった。
(つづく)
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